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博物館は覚えていない ―― 名前のないカセットテープ  作者: 芹 透


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2/5

水原佳奈

 翌朝、直人は第三収蔵庫から木箱をもう一度資料整理室へ運んだ。


 収蔵庫から物を動かすときは記録を残す。まだ資料番号すらない箱について、どこまで通常の手順を当てはめればいいのか迷ったが、第三収蔵庫の棚番号と時刻だけは作業ノートに書いた。


 箱は机の端に置いた。


 昨夜と同じように、蓋の端に黒い文字がある。


 K.M。


 カセットレコーダーと六本のテープは、昨夜確認した順に戻してある。


 無記名の一本だけ、ほかより少し手前に見えた。


 直人は箱の蓋を閉じた。


 職員室へ行くと、久住はすでに来ていた。


 パソコンの前で眼鏡を掛け、昨日の来館者から預かったという古い写真の一覧を見ている。


「久住さん」


「おはよう。早いわね」


「第三収蔵庫のことで、ちょっといいですか」


 久住は画面から顔を上げた。


「何か違ってた?」


「棚じゃなくて、箱なんですけど」


 直人は机の上のメモを見た。


 説明しようとして、順番に迷う。


「資料番号のない木箱がありました。管理システムにも旧台帳索引にもなくて」


 久住の手が止まった。


 ほんの一瞬だった。


「木箱?」


「細長いやつです。四十センチくらいで。蓋に、KとMって書いてあります」


 久住は眼鏡を外した。


「中、見た?」


「はい」


 返事をしてから、勝手に開けたと思われたかもしれないと気づいた。


「番号がなかったので、受入票か何か入ってないかと思って。カセットが入ってました」


「カセット」


「六本と、古いレコーダーです」


 久住は何も言わなかった。


 直人は続けた。


「録音も確認しました」


 久住がこちらを見る。


 怒ったようには見えなかった。


 ただ、直人の次の言葉を待っていた。


「町の聞き取りみたいなのが入ってました。若い女の人が録音してて。それとは別に、その人が一人で話してるテープが一本」


 久住は椅子を引いた。


「箱、今どこ?」


「資料整理室です」


 久住は立ち上がった。


 二人で廊下を歩いた。


 資料整理室に入ると、久住は机の上の木箱を見た。


 入口から数歩のところで止まった。


 それから近づき、蓋の文字に目を落とした。


「これ、まだあったのね」


 直人は久住を見た。


「知ってるんですか」


 久住はすぐには答えなかった。


 蓋に触れた。黒いマーカーの文字ではなく、その少し横だった。


「昔のものよ」


「昔って、いつ頃ですか」


「博物館ができる前」


 久住は蓋を開けた。


 カセットを一つずつ見る。


「聞き取り②」


 その次を持ち上げる。


「聞き取り③」


 文字を読む声は小さかった。


「懐かしい字ね」


「誰の字ですか」


 久住の指が止まった。


「水原佳奈さん」


 直人は名前を頭の中で繰り返した。


 聞いたことがなかった。


「昨日、録音した人の名前は分からなかったんですけど」


「たぶん佳奈さんよ」


「高校生ですか」


 久住が顔を上げた。


「どうして?」


「声が若かったからです。それと、聞き取りのやり方が、慣れてる人って感じじゃなかったので」


「ああ」


 久住は少しだけ笑った。


「慣れてなかったわね」


 その言い方で分かった。


「久住さん、一緒にやってたんですか」


「私は開館準備室にいたの。非常勤でね。まだこの建物も全部できてなかった頃」


 久住はカセットを箱へ戻した。


「高校の郷土研究部に手伝ってもらってたのよ。昔の暮らしの聞き取り。お年寄りのお宅へ行って、話を録音して」


「水原さんも、その部員だった」


「そう」


 直人は無記名のテープを見た。


 昨日聞いた声が戻ってくる。


 もしこれを博物館で聞いている人がいるなら。


「この人、そのあとどうしたんですか」


 久住の視線が箱の中で止まった。


「いなくなったの」


 資料整理室の奥で、空調の低い音がしていた。


「いなくなった?」


「高校二年の夏だったと思う。十七歳で」


 久住は蓋を閉じなかった。


「家に帰らなくなったのよ」


 直人は昨日のテープの最後を思い出した。


 もうここにはいません。


 昨夜は、それが町を離れるという意味なのか、もっと別の意味なのか分からなかった。


「見つからなかったんですか」


「ええ」


「今も?」


 久住は木箱から手を離した。


「少なくとも、私は知らない」


     *


 その日の午前中、直人は何度か受付へ呼ばれた。


 常設展示室の照明が一つ切れているという連絡があり、交換用のランプの場所を南條に聞いた。小学生を連れた女性から、昔の農具について質問された。電話では、市史の古い巻を閲覧したいという問い合わせがあった。


 この一週間で、少しずつ覚え始めた仕事だった。


 木箱のことを考えていても、博物館の一日はそれとは関係なく進んでいく。


 昼前、久住から声を掛けられた。


「瀬尾くん」


「はい」


「佳奈さんのこと、調べるなら、新聞から見たほうが早いと思う」


 直人は顔を上げた。


「調べていいんですか」


「名前まで分かったら、気になるでしょう」


 久住は書類を一枚揃えてから言った。


「ただ、木箱の中身はまだ館外へ出さないで。何なのか、こっちでも確認しないといけないから」


「分かりました」


「新聞は資料スペースの縮刷版。なければマイクロフィルムもあるけど」


「何年前ですか」


 久住は少し考えた。


「三十一年前だったはず。八月」


 直人はその数字を書き留めた。


「日にちは?」


「十日過ぎ」


 そこで久住は首を振った。


「ごめんなさい。そこまでは覚えてない」


 資料スペースには、地域紙の縮刷版が年代順に並んでいた。


 厚い表紙を一冊ずつ確認し、該当する年を抜き出す。


 紙は元の記事より小さく印刷されている。ページをめくるたび、古い広告や選挙の記事、商店の開店案内が流れていく。


 八月十一日。


 十二日。


 十三日。


 記事が見つかったのは十四日の朝刊だった。


 社会面の下半分。


 大きくはない。


 直人はページに指を置いた。


 見出しは二段だった。


 市内女子高校生 行方分からず


 本文を読む。


 市内に住む高校二年生、水原佳奈さん、十七歳。


 前日の夕方以降、所在が分からなくなっている。


 家族から届け出。


 警察が行方を捜している。


 服装。


 身長。


 所持品。


 家を出た時刻については不明。


 事件性を示す記述はなかった。


 直人は記事をコピーした。


 次の日を開く。


 それらしい記事はない。


 十六日。


 十七日。


 十八日。


 小さな交通事故の記事まで目を通したが、水原佳奈という名前は出てこなかった。


 一週間分を見たあと、直人はさらに月末までページをめくった。


 ない。


 九月へ進む。


 一面ずつ確認した。


 九月の半ばに、別の中学生の家出の記事があった。


 水原佳奈の記事はなかった。


 直人は最初のコピーを机に置いた。


 一枚だけ。


 見落としたのかもしれない。


 索引が残っていれば確認できるが、この年代の地域紙の記事索引は十分ではなかった。


 二か月先まで探してから、直人は椅子にもたれた。


 十七歳の高校生がいなくなった。


 警察も捜した。


 それなのに、手元にある記事は一つだけだった。


 事件にならなかったのなら、そういうものなのかもしれない。


 家出と判断されれば、新聞が追い続ける理由もない。


 それでも昨日の録音を聞いたあとでは、一枚しかないことのほうが気になった。


「何やってるんです?」


 声がして振り向くと、南條がコピー機の前に立っていた。


「昔の新聞です」


「それは見れば分かります」


 南條はコピーを待ちながら、直人の机を見た。


「水原?」


 直人は記事を裏返しかけて、やめた。


「知ってます?」


「水原繊維の水原ですか」


「水原繊維?」


 南條が今度は直人を見る。


「知らないんですか」


「知りません」


「地元ですよね」


「僕が小さい頃にはなかったと思います」


「ああ、まあ、そうか」


 コピー機から紙が出た。


 南條はそれを取りながら言った。


「昔、この辺でかなり大きかった会社ですよ。繊維。工場跡、今はホームセンターとマンションになってるところ」


 直人は場所を思い浮かべた。


 駅から川沿いへ向かう道。


 広い駐車場があるホームセンターなら知っている。


「それが水原繊維だったんですか」


「たぶん。俺も実物はほとんど覚えてませんけど」


 南條は記事の見出しをもう一度見た。


「この子、そこの家の人?」


「みたいです」


「ふうん」


 南條はそれ以上聞かなかった。


 資料を持って出ていく。


 直人は記事を表に戻した。


 本文には、父親の職業までは書いていない。


 水原という名字だけだった。


     *


 午後、直人は開館準備時代の資料を探した。


 現在の博物館が開館した年から遡り、準備室の事業報告、会議資料、調査記録の順に見る。


 古いファイルは統一されていなかった。


 現在なら一つの事業ごとに揃える書類が、年度別の紙ファイルと段ボールに分かれている。


「民俗聞き取り調査」


 手書きの見出しがあった。


 参加者名簿。


 調査地域。


 録音本数。


 写真。


 直人はページをめくった。


 高校郷土研究部協力、とある。


 学校名の下に生徒の名字が並ぶ。


 六人。


 その中に、水原佳奈。


 フルネームだった。


 直人は指で追った。


 水原佳奈 二年。


 別の日の記録にも名前がある。


 聞き取り先の老人宅。


 担当者欄。


 水原、佐伯。


 次のページでは水原、田辺。


 一人だけ複数回参加しているわけではないが、佳奈の名前はよく出てきた。


 記録の端に鉛筆で、


 話が長くなるのでテープ予備必要


 と書かれている。


 誰についての注意なのか分からなかった。


 ただ、昨夜の録音を思い出すと少し笑いそうになった。


 祭りの神輿について聞いていたはずが、いつの間にか菓子屋の話になっていた。


 さらにファイルを進む。


 写真を入れた透明ポケットがあった。


 白黒ではなく、色の薄れたカラー写真だった。


 十人ほどが、長机の置かれた部屋にいる。


 壁には大きな地図が貼ってある。


 段ボール箱と紙袋が床に積まれ、窓際には古い扇風機。


 現在の博物館とは違う。


 開館準備室なのだろう。


 写真の裏面には日付と、


 高校郷土研究部 聞き取り調査整理


 と書かれていた。


 人物名はない。


 直人は写真を机の上へ置き、名簿と見比べた。


 誰が佳奈なのか分からない。


 六人いる高校生らしい人物のうち、女子は四人いた。


 一人は椅子に座ってノートを書いている。


 一人は書類を持って立っている。


 写真の右端では、髪を肩のあたりで切った少女がカセットレコーダーを持っていた。


 黒い四角い機械。


 木箱に入っていたものに似ている。


 同じ物かどうかは、写真だけでは分からない。


 少女は正面を向いていなかった。


 隣の男子生徒に何か言われたのか、顔だけを横に向けて笑っている。


 写真の外へ向けるように、片手でレコーダーを持ち上げていた。


「それ、佳奈さんよ」


 背後から久住の声がした。


 直人は振り向いた。


「これですか」


「ええ」


 久住は机の横へ来た。


 写真を手に取る。


「変わってないわね、この写真」


「変わるんですか」


「写真そのものはね」


 久住は笑ってから、自分でも妙な言い方をしたと思ったらしく、首を振った。


「ごめんなさい。昔から同じ写真って意味」


 直人は写真の少女を見た。


「昨日の声と、なんとなく合います」


「よくしゃべる子だったから」


「聞き取りも、かなり好きだったみたいですね」


「好きだった。質問が多すぎるくらい」


 久住は写真を透明ポケットへ戻した。


「お年寄りの昔話を聞くのが面白かったみたい。こっちが用意した質問より、本人が気になったことばっかり聞くのよ」


「祭りの道順から、戦後の菓子屋の話になってました」


 久住が直人を見る。


「聞き取り③?」


「はい」


「あれ、残ってたのね」


 また同じ言い方だった。


 残っていた。


「ほかの聞き取りテープは、正式に収蔵されてるんですか」


「一部は」


「一部?」


「開館前は今ほど整理方法が決まってなかったから。報告書に起こしたものもあるし、録音だけ残ったものもある。テープを再利用したこともあったと思う」


「それでも、あの箱の六本は台帳にないんです」


 久住は写真の入ったファイルを閉じた。


「そうみたいね」


 直人はそれ以上聞かなかった。


 聞けば答えてくれることと、答えたくないことの境目が、少しずつ見え始めていた。


     *


 木箱のK.Mについて分かったのは、その日の後半だった。


「これ、何か分かります?」


 直人は作業ノートに二文字を書いて久住へ見せた。


「K.M?」


「箱の蓋に書いてあるやつです」


 久住はしばらく文字を見ていた。


「ああ。ちょっと待って」


 書庫へ入り、しばらくして薄い紙ファイルを持って戻ってきた。


 表紙には、


 開館準備室 資料分類案


 とある。


 中には何度か書き直されたらしい分類表が綴じられていた。文字を消した跡があり、欄外には別の記号が鉛筆で書き足されている。


 久住は二枚ほどめくった。


「これだと思う」


 一行に、K.Mとあった。


 横には「音声・聞き取り資料」と書かれている。


「昔の分類記号ですか」


「正式な資料番号を付ける前に使ってたもの。途中でやめたけど」


「じゃあ、箱だけ昔の分類のまま残った」


「たぶんね」


 久住も断定はしなかった。


 直人は分類表の日付とページ番号を作業ノートに書いた。


 昨日から気になっていた二文字は、それ以上のものではなかった。


 問題は、その記号が付いた箱が、なぜ正式な記録へ移されなかったのかだった。


     *


 閉館後、直人は水原繊維を調べた。


 市史の産業編。


 商工名鑑。


 過去の新聞。


 水原繊維株式会社は、予想していたより頻繁に名前が出てきた。


 市内最大規模の繊維工場。


 従業員数、最盛期で数百人。


 地域の祭りへの協賛。


 高校の運動部への寄付。


 市民会館の建設基金。


 博物館の開館準備資料にも名前があった。


 寄付企業一覧。


 水原繊維株式会社。


 額まで書かれている。


 直人はページをめくった。


 現在の町では見かけない社名だった。


 なくなった会社は、なくなったあと急に見えなくなる。


 だが古い資料を同じ年代で揃えて読むと、どこにでも出てくる。


 新聞広告。


 求人欄。


 市の行事。


 商工会の名簿。


 地元高校の就職先一覧。


 直人の知らない町のほうに、水原繊維は大きく存在していた。


 会社の記事だけを追っていく。


 佳奈が失踪する前年、工場設備の更新。


 その年の春、新規事業への進出。


 六月、夏季賞与についての記事はない。


 代わりに、地方経済欄の片隅に短い記事があった。


 水原繊維、取引先への支払い条件変更。


 意味をすぐには判断できなかった。


 翌月。


 市内商工業者の景況調査。


 繊維関連、受注減。


 さらに別の日の記事で、工場の一部操業短縮。


 佳奈がいなくなったのは八月だった。


 直人は日付を並べた。


 五月。


 六月。


 七月。


 八月十三日、佳奈の所在不明。


 八月十四日、新聞記事。


 秋には、水原繊維が銀行から追加融資を受けたという記事。


 翌年になると、工場の再編。


 その数年後。


 倒産。


 倒産記事は大きかった。


 一面ではないが、社会面と経済面の両方で扱われている。


 市内雇用への影響。


 取引先。


 負債総額。


 元従業員のコメント。


 写真には閉ざされた工場正門が写っていた。


 直人は記事をコピーした。


 佳奈の失踪記事より、はるかに大きい。


 当たり前なのかもしれない。


 数百人が働く会社の倒産と、一人の高校生の家出。


 新聞にとっての大きさは違う。


 それでも二枚を並べると、目についた。


 町から十七歳が一人消えた記事。


 その少女の父親が経営する会社が傾いていく記事。


 同じ時期の紙面に載っていながら、二つを結びつける記述はどこにもない。


「まだいたの?」


 久住の声がした。


 時計を見ると、閉館から四十分近く経っていた。


「すみません。もう片づけます」


「何を見てたの」


 直人は机のコピーを示した。


「水原繊維です」


 久住の表情は変わらなかった。


 ただ、コピーの上から順に目を通した。


「佳奈さん、お父さんが社長だったんですね」


「ええ」


「失踪した頃、会社もかなり苦しかったみたいですね」


 久住はコピーを見た。


「そうね」


「当時も、町では知られてたんですか」


「瀬尾くん」


 久住が顔を上げた。


「新聞の記事が近いところにあるからって、全部つながってるとは限らないわよ」


「……はい」


 直人は口を閉じた。


 質問の形を取りながら、自分が考えた筋道へ相手を寄せようとしていた。


 聞き取りで一番やってはいけないことだった。


 大学でも何度も言われたし、自分でも分かっていたはずだった。


 コピーを揃える。


「すみません」


「謝るほどのことじゃないけど」


 久住はそれ以上言わなかった。


 直人は倒産記事を一番下へ入れた。


 少し間を置いてから聞いた。


「水原繊維って、当時はそんなに大きな会社だったんですか」


 今度は、自分の知らないことを確かめるだけのつもりだった。


「大きいというより、近かったのよ」


「近い?」


「あの頃は、町中があの会社と何かしら関係してたから」


 直人は手を止めた。


 久住は続けた。


「社員じゃなくても、取引してる店があった。家族が勤めてる人もいた。学校にも、市役所にも、商工会にも」


 机の上にある開館準備資料へ目をやる。


「博物館だってそう」


 水原繊維の名前が入った寄付企業一覧が見えていた。


 直人は何も聞かなかった。


 久住もそれ以上は話さなかった。


「今日はもう終わりにしましょう」


「はい」


 直人はコピーを日付順に重ねた。


 水原佳奈の失踪記事。その夏の水原繊維の記事。数年後の倒産記事。


 開館準備室のファイルも閉じる。


 透明ポケットの中で、佳奈はカセットレコーダーを片手に持ち、隣にいる誰かを見て笑っていた。


「これ、戻しておきます」


「お願い」


 久住は先に職員室へ戻った。


 直人はファイルを棚へ差し込んだ。


 一度入れたあと、背表紙が隣より少し出ているのに気づき、指で奥まで押す。


 机には、まだ水原繊維の寄付企業一覧が残っていた。


 そのページも元へ戻そうとして、直人は手を止めた。


 博物館。


 学校。


 市役所。


 商工会。


 今日見た資料の中で、水原繊維の名前は何度も出てきた。


 久住が言った「町中」という言葉だけが、記事にも名簿にも書かれていなかった。


 直人は寄付企業一覧を閉じた。


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