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敏腕秘書歴50年のおばあちゃん、弱小国の宰相に転生する 〜孫のような幼王様を泣かせる悪臣は、容赦なく書類の山に沈めます〜  作者: ペクチン21時


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第6話 おばあちゃん、まずは職場の「5S」から始めます

「し、シルバ様……本当にこれを、今日中に全てやるのですか?」

翌朝、宰相執務室に足を踏み入れた秘書官のアルは、部屋の中央に鎮座する巨大な「木箱」の山を見て、引きつった声を上げた。

昨日、シルバが放った『ホワイト改革宣言』は、一晩で宮廷中を駆け巡った。悪徳貴族たちは戦々恐々とし、逆にこれまで虐げられてきた真面目な下級役人たちは、期待と不安の入り混じった目で推移を見守っている。

そんな中、当のシルバは、漆黒の髪を邪魔にならないよう後ろで軽く結び、すでに黒い官服の袖を肘のあたりまで美しくまくり上げていた。その佇まいは冷徹な美青年そのものだが、放つ雰囲気は完全に「戦闘モードに入った熟練のプロ」である。

「当然でしょう、アルさん。物事を新しく始めるには、まず『5S』……すなわち、整理、整頓、清掃、清潔、しつけ、が基本です。前世の、いえ、私の経験上、机が汚い人間にろくな仕事はできませんからね」

シルバはトントン、と長い指先で空の木箱を叩いた。

「この部屋にある過去五年分の未決済書類、および保留案件の書類をすべて分類します。アルさん、あなたには『不要』『保留』『至急』の三つのラベルを貼った箱を用意してもらいます。私が一瞬で仕分けますから、指示された箱に放り込んでちょうだい」

「は、はいっ!」

アルが慌ててラベルを貼り終えると同時に、シルバの「神速の事務処理」が始まった。

机の上にうず高く積まれていた書類の束を片手で掴み、パラパラと凄まじい速度でめくっていく。

内容を読み上げることすらしない。だが、彼の氷の瞳は、書類に書かれた数字の矛盾や、利権の匂いを一瞬で見抜いていた。

「不要。これ、ただの領主の愚痴ね」

「保留。道路の補修計画だけど、見積もりが甘すぎるわ。再提出」

「至急! 孤児院への配給予算が三ヶ月も滞っているじゃないの。誰よ、これを止めていたのは。……ああ、一昨日捕まえたボルドー侯爵の息の根がかかった部署ね。すぐに承認回しなさい」

「シュッ、バサッ、シュッ、バサッ」と、小気味よい音だけが室内に響く。

アルが書類を箱に収める速度よりも、シルバが仕分ける速度の方が圧倒的に早かった。アルは目が回りそうな感覚に陥りながらも、必死に手を動かす。

「……す、すごい。元のシルバ様も仕事は早かったですけど、今のシルバ様は……まるで書類の中身が最初から見えているみたいだ……」

「アルさん、手が止まっていますよ? ほら、次」

「ひゃいっ!」

わずか二時間後。あれほど執務室を圧迫していた「書類の山」は完全に消え去り、机の上には一輪の青い薔薇が飾られた花瓶と、完璧に整頓された数冊のファイルだけが残されていた。

「ふぅ。これでようやく、スタートラインに立てましたね」

シルバは満足げに、いつもの不敵でありながらもどこか温かい笑みを浮かべた。だが、宮廷の「大掃除」は、まだ始まったばかりだった。

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