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敏腕秘書歴50年のおばあちゃん、弱小国の宰相に転生する 〜孫のような幼王様を泣かせる悪臣は、容赦なく書類の山に沈めます〜  作者: ペクチン21時


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第5話 ブラックな職場(宮廷)の改革を宣言します

「さあ、冷めないうちに召し上がれ」

シルバは、レオン王の前に、ふんわりと焼き上がったパンケーキを置いた。木の実で作った特製のハニーソースが、きらきらと黄金色に輝いている。

レオンは恐る恐る、小さなフォークでパンケーキをひと口分切り取り、口に運んだ。

「……っ!? おいしい……!!」

レオンの瞳が、またたく間に輝いた。

外側はサクッと、内側はもちもちとした食感。上品な蜂蜜の甘さと、果実の爽やかな酸味が口いっぱいに広がる。これまでに宮廷で出されていた、パサパサで冷え切った仕込みの悪い食事とは、天と地ほどの差があった。

「ふふふ、美味しいですか。たくさんおあがりなさい。男の子はね、よく食べて、よく寝て、よく遊びのが一番のお仕事ですからね」

シルバは、レオンの頭を優しく、愛おしそうに撫でた。

元のシルバの記憶にある「王としての威厳を」という焦りは、彼には一切ない。彼にとって、十歳の子どもは守るべき「可愛いひ孫」同然なのだ。

「う、うう……シルバ……ぼく、ぼくね……本当はすごく寂しかったんだ……。みんなぼくの言うこと聞いてくれないし、シルバも怒ってばかりで……」

温かいおやつと、シルバのあまりの優しさに、レオンの張り詰めていた心が解けていく。大粒の涙が、ポロポロとレオンの頬を伝って落ちた。

「ええ、ええ、可哀想に。よく一人で耐えましたね。でも、もう大丈夫ですよ。このシルバが、あなたの盾となり、矛となり、悪いネズミ(悪徳貴族)たちは全員、私が書類の山に沈めてお掃除してあげますからね」

シルバは、レオンをその広い胸でしっかりと抱きしめた。

レオンはシルバの服に顔を埋め、声を上げて泣いた。それは、彼が王になってから、初めて流すことができた「安心の涙」だった。

レオン王を優しく寝かしつけた後、シルバは再び宰相執務室へと戻ってきた。

そこには、ボルドー侯爵の失脚を聞きつけ、顔を真っ青にした他の大臣や貴族たちが、戦々恐々としながら集まっていた。

「し、シルバ宰相! 財務大臣を独断で拘束するとは、いかに全権を握る貴方とはいえ、横暴が過ぎるのではないか!」

「そうだ! 我ら貴族の反発を招けば、この国は立ち行かなくなるぞ!」

口々に抗議する貴族たち。

しかし、シルバは彼らを一瞥すると、ふっとその端正な唇の端を吊り上げ、氷のように冷徹でありながらも、全てを見透かしたような不敵な笑みを浮かべた。

「あらあら、皆さん、そんなに声を荒らげては体に障りますよ? それに、ボルドー侯爵の件は『独断』ではありません。完璧な証拠に基づいた、正当な法執行です」

トントン、とシルバは机の上に置かれた、山のような『他の貴族たちの書類』を叩いた。

「ボルドー侯爵の書類を整理していたら、ついでに皆さんの『面白いデータ』も色々と見つかりましてね。例えば、軍事費の架空請求、関税の密輸隠蔽、人件費のピンハネ……。おや、皆さん、急に顔色が悪くなられましたねぇ?」

貴族たちは一瞬で静まり返り、一歩、また一歩と後ずさりした。

目の前にいる男は、以前のような「ただ怒り狂う若造」ではない。自分たちの弱みを完全に把握し、獲物を追い詰めた猛禽類のような鋭い笑みを浮かべる、底の知れない『怪物』に変貌していた。

シルバは、上等な官服の袖をエレガントに、かつ機能的にまくり上げた。

「さあ、皆さん。これまでこの国で行われてきた『不適切な実務』は、本日をもちまして一切禁止といたします。明日からは、私が作った『新しい業務マニュアル』に従って、ホワイトに、誠実に働いていただきますよ?」

骨の髄まで染み付いた「仕事」のスイッチが、完全にオンになった。

「もし、お仕事の手を抜いたり、可愛い王様を泣かせようとする悪い子がいたら……その時は、容赦なく書類の山に沈んでいただきますからね。……フフ、さあ、楽しいお仕事を始めましょうか」

鉄血の仮面の下に、最強の「おばあちゃん精神ホスピタリティ」と「無敵の事務処理能力」を隠し持った天才宰相。

彼による、異世界の歴史を塗り替える国政改革の幕が、今、鮮烈に上がったのだった。

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