第4話 孫(王様)に手作りのおやつを振る舞います
「……あ、あの、シルバ様。ボルドー侯爵、本当にあのまま連行されて行っちゃいましたが……」
秘書官のアルが、未だに信じられないといった様子で、ガタガタと震えながら尋ねてきた。
財務大臣という国家の重鎮を、たった数分の「笑顔の書類チェック」だけで、一言の反論も許さずに完全論破し、近衛兵に引き渡してしまったのだ。宮廷内に激震が走ったのは言うまでもない。
「良いのですよ、アルさん。膿は早めに出しておかないと、組織全体が腐ってしまいますからね。さあ、それよりも大変ですわ」
シルバは、パッと表情を切り替えた。
「大変、ですか!? まだ何か別の陰謀が!?」
身構えるアルに対し、シルバはエプロンを叩きながら、真剣な顔で言った。
「ええ。もうすぐおやつの時間でしょう? レオン王様が、お腹を空かせて待っていらっしゃるわ」
「え……おやつ、ですか……?」
「そうよ。子供にとって、三時のおやつは一日のうちで最も重要な『ライフライン』です。あんな可愛い盛りの男の子に、ひもじい思いをさせるなんて、おばあちゃんが許しません」
シルバは、宮廷の厨房へと向かった。
本来、宰修が自ら料理をするなど前代未聞だが、今の宮廷料理人たちは悪徳貴族たちに買収されており、レオン王にはわざと冷え切った、栄養のない残り物のような食事ばかりを出していたことを、シルバは記憶から突き止めていた。
「まったく、子供の食事をケチるなんて、どこのブラック企業かしら」
シルバは厨房へ乗り込むと、料理人たちをその圧倒的な「主婦歴・秘書歴」のオーラで威圧し、大人しく隅に座らせた。
そして、厨房に残っていた小麦粉、蜂蜜、そして異世界の果物を使い、前世でひ孫によく作ってあげていた『特製のもちもちパンケーキ〜果実のハニーソース添え〜』を手際よく焼き上げた。
温かい湯気と、甘く香ばしい香りが厨房いっぱいに広がる。
◇
王城の奥深く、薄暗い図書室で、十歳の幼き王・レオンは、小さな身体を縮めて古い本をめくっていた。
「うう……お腹すいたなぁ……。でも、シルバはいつも怒っていて怖いし、ご飯をちょうだいって言ったら、また『王としての自覚を持ってください!』って怒られちゃうかな……」
レオンは、いつも自分に厳しく接してくるシルバを恐れていた。先代の父王が亡くなってから、城の中には味方が一人もいないように感じていたのだ。
その時、図書室の重厚な扉が、静かに開いた。
「レオン様。失礼いたしますよ」
「ひゃっ!? シ、シルバ……!」
レオンは飛び上がって怯えた。いつも通り、冷徹な瞳で自分を叱責しにきたのだと思ったのだ。
しかし、入ってきたシルバの両手には、見たこともないような、おだやかで美味しそうな湯気を立てるお皿が握られていた。
「お勉強、よく頑張っていらっしゃいましたね。偉いですよ、レオン様。さあ、おばあちゃん特製のおやつを持ってきましたから、一緒に食べましょうね」
「え……? おばあ……ちゃん……?」
レオンは、シルバのあまりにも『ぽかぽかとした、お日様のような微笑み』に、完全に毒気を抜かれてしまった。




