第56話 名誉顧問、新たな「重要案件」を突きつけられる
大陸全土の「ホワイト化」を成し遂げ、リトアニアホールディングスの名誉顧問として、今度こそ完全なる定年退職を満奢していたシルバ。
ある日の午後、いつものようにロッキングチェアーでお茶をすすっていると、秘書官のアルが、何やら一冊の分厚い「カタログ」のようなものを抱えて息を切らせて飛び込んできた。
「シルバ様! 大変です! こればかりは自動化も丸投げも不可能な、我が国の未来を左右する超重要プロジェクトが発生しました!」
「アルさん、落ち着きなさい。世界はすでに平和ですし、定時退勤のシステムも完璧に回っています。これ以上、一体何の案件があるというのです?」
シルバは呆れたようにカップを置いた。すると、アルはその分厚い冊子を机にドンと広げた。そこには、大陸中の名門貴族や大国の王女たちの肖像画とプロフィールがずらりと並んでいた。
「レオン様が、今年で十二歳になられます。……つまり、我がリトアニア王国の正妃、すなわち『レオン様の妃探し』を本格的にスタートしなければならない時期なのです!」
「……妃探し、ですか」
シルバはフッと美しい眉をひそめた。中身のおばあちゃんにとって、レオンは目に入れても痛くない最愛の孫である。
「そうです! すでに大陸中のブラックな大国や旧勢力が、我が国の莫大な温泉利権と経済力を目当てに、自分の娘をねじ込もうと『政略結婚の裏工作』を仕掛けてきています。一歩間違えれば、我が宮廷に再びブラックな利権構造が復活しかねません!」
アルの言葉に、シルバはロッキングチェアーをピタリと止めた。その氷の瞳に、かつてない鋭い光が宿る。
「なるほど。最愛の孫の人生のパートナーを選ぶ大事な一大事業に、ハイエナのような不良物件が群がっているわけですか。……前世でもね、資産目当ての不届き者が一族に入り込まないよう、事前の『身辺調査』と『厳格なスクリーニング』は基本中の基本です」
シルバは静かに立ち上がり、カチリと官服の袖をまくり上げた。
「いいでしょう。我が孫の未来を脅かす不穏分子は、婚活市場から徹底的に排除して差し上げます。お見合いプロジェクト、始動です」




