第41話 おばあちゃん、隠居生活(セカンドライフ)を満喫します
宮廷のホワイト改革を完璧に成し遂げ、名誉顧問のポジションに収まったシルバの朝は、驚くほど穏やかだった。
かつてのように山積みの書類に追われ、徹夜明けの青い顔で廊下を駆ける必要はもうない。日の光が優しく差し込む専用の執務室で、シルバは特製のハーブティーを優雅にすすり、愛用のロッキングチェアーを揺らしていた。
「ふぅ……。やっぱり、定時退勤の次に来るべきは『完全週休二日制』と『有給休暇』ですね。現場が勝手に回る自動化を作って大正解でしたわ」
シルバの端正な美貌は、前世の激務や今世の初期の過労が嘘のように、お肌ツヤツヤで瑞々しい。中身のおばあちゃん精神が、理想の隠居生活に大歓喜しているのだ。
トントン、と控えめなノックの音がして、十歳のレオン王が顔を出した。その手には、シルバが新しく導入した低年齢層向けの「算術と帝王学のドリル」が握られている。
「シルバ! 今日の分の宿題、ぜんぶ終わったよ! 答え合わせして!」
「まあ、まあ! 早いですね、レオン様。どれ、見せてごらんなさい」
シルバはロッキングチェアーから立ち上がると、レオンを隣に座らせてドリルを優しく受け取った。赤ペンを流れるように走らせ、すべての問題に綺麗な丸をつけていく。
「全問正解です。素晴らしいわ、レオン様。集中力もついて、本当に立派な経営者の器になってきましたね」
「えへへ、シルバに褒められるのが一番嬉しいんだ! ぼく、もっとお勉強がんばる!」
純粋な孫を全肯定で甘やかし、その成長を特等席で見守る。これぞチヨが前世で夢見ながらも、過労死のせいで叶わなかった「最高の老後」であった。
――しかし、世間というものは、往々にして有能な隠居を放ってはおかないものである。
「失礼します、シルバ閣下……! 大変な事態が起きました!」
かつて消え去ったはずの目の下のクマを、再びうっすらと復活させた秘書官のアルが、悲壮な顔でサロンに飛び込んできた。




