第38話 おばあちゃん、監査官(マルサ)を「逆買収」します
ヴァルターは完全に退路を断たれていた。ここでシルバを武力でねじ伏せれば、それこそ「不祥事の口封じ」を認めたも同然となり、世界中に拡散された裏データによって総本部の権威は崩壊する。
「……シルバ殿。お前は、一体我が総本部に何を要求する気だ」
ヴァルターは声を潜め、殺気を含んだ目でシルバを睨みつけた。
シルバはフッと、まるで無理な条件を突きつけてきた親会社を逆に下請けに引きずり込む時の、最高に不敵な笑みを浮かべた。
「要求? いえいえ、私はただの『対等な業務提携』を提案しているだけですよ。ヴァルター監査官。……我がリトアニア王国は、マクシミリアンという組織の膿をすべて出し切り、クリーンでホワイトな新体制へと生まれ変わりました」
シルバは、アルから新たな『提携案』を受け取り、ヴァルターの前に滑らせた。
「この新しいルミナス教区は、今後、新事業である『温泉リゾート』の収益から、正当な『寄付金』として、従来の裏上納金を遥かに上回る額を、合法的に総本部へお支払いいたします。もちろん、すべて表の帳簿として、です」
「な……合法的に、従来の額以上を……?」
ヴァルターの目が、現金なまでに小さく動いた。
「ええ。あなたにとっても、地方の不祥事を自分の手できれいに処理し、さらに総本部に新たな『莫大な合法財源』をもたらしたとなれば、次期枢機卿への出世は確実でしょう? 隠蔽のためにリスクを冒すか、イノベーションの功労者として利を得るか……どちらが賢明な経営判断でしょうか?」
シルバのおばあちゃん仕込みの「飴と鞭」のロジックに、ヴァルターはついに完全に毒気を抜かれ、深くため息をついたのだった。




