第30話 帝国からの意外な視線(第2章・加速へ)
大国の特使を完璧に返り討ちにし、借金をゼロにしたどころか、実質的な経済的独立を勝ち取ったリトアニア王国。
王宮内は、もはやお祭り騒ぎであった。かつて「鉄血の冷酷宰相」と恐れられていたシルバは、今や「国を救った無敵の英雄」として、役人や騎士たちから絶大な崇拝を受けていた。
その日の夜、宰相執務室。
シルバはいつものようにロッキングチェアーに座り、アルが淹れてくれた最高級の特製ハーブティーを楽しんでいた。
「ふぅ……。大企業との下請け交渉も、下調べとエビデンスさえ完璧なら怖くはありませんね。これでしばらくは、レオン様との穏やかな時間が――」
「シルバ様、大変言いにくいのですが……またしても至急の案件です」
アルが、苦笑いを浮かべながら一通の『親展』と書かれた美しい手紙を持ってきた。その封蝋は、先ほどの特使キリアンのものではなく――ガルディア帝国皇帝、その人の個人紋章であった。
「……皇帝直筆の手紙ですか。これはまた、異例のダイレクトメールですね」
シルバが手紙を開き、目を通すと、そこには意外な言葉が連なっていた。
『リトアニア王国の若き宰相シルバへ。我が特使キリアンの不正を見抜き、逆に帝国から実質的な勝利をもぎ取ったお前の手腕、実に見事である。帝国には、お前のように冷徹で、かつ実務に長けた本物の人材が不足している。どうだ、リトアニアごとき弱小国を捨て、我が帝国の「最高財務責任者(CFO)」として、私の右腕にならんか? 待遇は今の百倍を保証する』
「……まさかの、ヘッドハンティングですか」
シルバは呆れたように息を吐いた。
大国の皇帝すらも、シルバの圧倒的な「実務能力」に惚れ込んでしまったらしい。
「シルバ様……まさか、帝国に行かれてしまうのですか!?」
不安げに顔を曇らせるアルに対し、シルバはハーブティーを一口すすると、最高に美しく、そして絶対的な忠誠を秘めた笑みを浮かべた。
「アルさん、私を誰だと思っているのですか? 私の主は、世界でただ一人、可愛いレオン様だけですよ。いくら年収(予算)を積まれようが、不条理なブラック大企業の誘いに乗るつもりはありません」
シルバは手紙をパチリとデスクに置くと、不敵に目を細めた。
「ですが……これほど熱烈なアプローチを受けるということは、我が国力を高めるための『交渉材料』が、また一つ増えたということですね。アルさん、明日からガルディア帝国に対する『逆提案』の資料を作成します。……今夜も少しだけ、残業に付き合ってもらいますよ?」
「はいっ、喜んで!」
大国のスカウトすらも利用して、さらなる国の成長を目論むおばあちゃん宰相。彼の無敵のビジネス戦記は、大国をも巻き込んで、さらに加速していくのだった。




