第29話 おばあちゃん、孫(王様)の前で商談成立(エグゼキューション)
「そ、そのような過去の地方ギルドの不正など、帝国のあずかり知らぬことだ! 我が皇帝陛下が、そのような不条理な請求を認めるはずがない!」
キリアンは青い顔をしながらも、大国の軍事力を盾に最後の脅しをかけてきた。ここで認めれば、特使としての彼の出世の道は完全に閉ざされるからだ。
しかし、シルバは冷徹な仮面の下で、おばあちゃん特有の「全部お見通しですよ」という慈愛すら感じる笑みを浮かべた。
「あずかり知らぬ、ですか。では、その不正ギルドの最大株主であり、裏で莫大なマージンを受け取っていたのが……他ならぬキリアン特使、あなたのご実家である『ジャガーナート公爵家』であるという証拠を突きつけても、同じことが言えますか?」
「な、ななな……何故それを……!?」
キリアンはついに腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
彼が知らないはずがなかった。彼の実家がリトアニアを裏で搾取していたからこそ、この交渉の特使に志願し、証拠隠滅を兼ねて領土を強奪しようとしていたのだ。だが、その秘密の個人口座のデータすら、シルバの『お掃除おばさんネットワーク・帝国支部』によって、完璧に裏付けが取られていた。
「これ以上の交渉の継続は、貴家の『破産』および『帝国背任罪』での失脚を意味しますが……どうされますか? ここで私の提示する『示談書』にサインをすれば、この件は実家の件も含め、私の胸三寸に収めて差し上げてもよろしくてよ?」
シルバは優雅に万年筆を差し出した。
提示されたのは、「過去の債務の完全帳消し」と「両国間の新たな対等通商条約」が記された、リトアニアにとって完璧に有利な契約書であった。
キリアンはガタガタと震える手で万年筆を受け取り、泣きそうな顔でサインをした。
「……しょ、商談成立ですね。キリアン特使、賢明なご判断です」
シルバが書類を回収すると、玉座からレオン王がトコトコと駆け寄ってきた。
「シルバ、すごい! 悪いお兄ちゃんが、本当に書類だけで泣いちゃった!」
「ふふふ、レオン様。大人のビジネス(外交)とは、剣を抜かずに書類で相手の息の根を止めるゲームなのです。お勉強になりましたね?」
シルバはレオンの頭を優しく撫でながら、前世で無茶な要求をしてきた親会社を撃退した時以上の、最高の達成感を味わっていた。




