第28話 過払金、発生しております
「くっ……! 猶予期間が認められたところで、半年後に金貨五万枚など、お前たちのような弱小国が支払えるはずがない! 結局は領土を渡すことになるのだ!」
キリアンは必死に声を荒らげて巻き返しを図ろうとした。
しかし、シルバはクスリと、まるで世間知らずの若手社員を諭すかのような、最高に不敵な笑みを浮かべた。
「半年後、ですか? いえいえ、キリアン特使。私たちは、今この場で『相殺』にする話をしています。……アルさん、例の『請求書』を彼らに提示しなさい」
「はい、シルバ様!」
アルが、ニヤニヤとした笑みを隠しきれない顔で、新たな書類の束をキリアンの書記官たちの前にドサリと置いた。
「これは何だ……?」
「過去二十年間にわたり、我が国の前財務大臣ボルドーと、貴国の特定の商業ギルドとの間で交わされていた『不当な高利貸し』および『関税の二重徴収』の監査報告書です」
シルバは一歩、キリアンに向かって歩みを進めた。その立ち振る舞いは、企業の不祥事を一網打尽にする特捜検察のようであった。
「我が国の元役人が無能だったのをいいことに、貴国は国際法で定められた上限金利を遥かに超える『法定外利息』を、我が国から毟り取り続けていました。前世の言葉で分かりやすく言うなら……そうですね、『過払金』が大量に発生しているのですよ、キリアン特使」
「か、過払金……!?」
「ええ。我が宰相府の財務チーム(元・ブラック厨房出身の計算エリートたち)が、過去二十年分の取引データを金貨1枚の狂いもなく再計算(引き直し計算)いたしました。その結果――」
シルバは氷の瞳をギラリと光らせた。
「貴国が主張する債務五万枚に対し、我が国が支払いすぎていた不当利息は、合計で『金貨六万二千枚』にのぼります。つまり、債務は今この瞬間をもちまして完全に相殺。……それどころか、我が国は貴国に対し、差額の『金貨一万二千枚の即時返還』を請求いたします」
「ば、馬鹿なアアアアッ!!!」
謁見の間に、キリアンの絶叫が響き渡った。借金を取り立てにきたはずの大国の特使が、一瞬にして「一万二千枚の債務者」に転落した瞬間であった。




