第21話 聖域の帳簿(エビデンス)
「な、脱税だと……!? 戯言を! 我ら神殿の財政はすべて神への寄進であり、世俗の法が立ち入るべき領域ではない!」
大聖堂の壇上で、マクシミリアン司教は顔を真っ赤にして叫んだ。その背後に控える下級貴族たちも、神殿の権威を盾に「そうだ! 不敬であるぞ!」と野次を飛ばす。
しかし、シルバは彼らの怒号を心地よい音楽でも聴くかのように受け流し、漆黒の髪をかき上げた。その氷の瞳には、哀れな迷える子羊を見るかのような、冷徹なまでの余裕が満ちている。
「司教閣下、声を荒らげてはせっかくの神聖な空気が台無しですよ。神への寄進、結構なことです。……ですが、この『寄進記録』と、あなた方が王室に提出している『免税申請書』の数字が、あまりにも芸術的なまでに乖離しているのはどういうわけでしょうか?」
シルバが指を鳴らすと、秘書官のアルが手際よく一冊の分厚いファイルを机に広げた。
「これは、ルミナス教区が保有する『聖属性魔導具』の輸入記録です。本来、神殿で使われる魔導具は全額免税となりますね。ですが、この帳簿によると、購入された魔導具の半分以上が、実際には神殿に届いていません。……おや、どこへ行ってしまったのでしょう?」
「そ、それは……途中で魔力が霧散し、廃棄処分に……」
「フフ、毎年同じ型番の高級魔導具だけが、綺麗に『廃棄』されるのですね。では、その消えた魔導具と同じシリアルナンバーを持つ商品が、王都の裏市場で、あなたの息がかかった悪徳商会によって高値で転売されているのは、どのような神の奇跡でしょうか?」
「なっ……!?」
マクシミリアン司教の言葉が、喉に詰まった。
前世でね、宗教法人やNPO法人の免税枠を悪用して、高級外車や貴金属を不当に買い転がす悪質な経営者を嫌というほど見てきたのです。そういう小細工はね、実務のプロの前ではすべて透けて見えるのですよ。
シルバはさらに一歩、壇上へと歩みを進めた。




