第16話 おばあちゃん、ストライキを「人員整理の好機」と呼びます
翌朝、リトアニア王国の王宮は、かつてない静寂に包まれていた。
マクシミリアン司教の手回し通り、宮廷の実務を担う下級役人の実に四割が、事前通告なしのボイコットを決行したのだ。
主を失ったデスクには未処理の書類が散らかり、回廊を行き交う役人たちの顔には明確な動揺が走っている。
「し、シルバ様……! 報告の通り、財務、農政、そして法務の各部署から、合わせて百二十名以上の役人が無断欠勤しています! 登城した者たちもパニックになっていて、業務が完全にストップしかけています!」
秘書官のアルが、顔を真っ白にして執務室へ飛び込んできた。
しかし、デスクに向かうシルバは、動じるどころか、優雅な手つきで万年筆にインクを補充していた。その端正な顔立ちには、まるで朝の散歩を前にしたかのような、清々しい不敵な笑みが浮かんでいる。
「アルさん、深呼吸をしなさい。まずは温かいお茶を一口。……そう、それで結構。言ったでしょう? 焦らなくても、この程度のことで世界は滅びやしませんよ」
シルバはインクを拭き取り、アルが持参した欠勤者リストを受け取った。
「前世でもね、無理な要求を通そうとしてストライキを強行する労働組合や、嫌がらせのために一斉に仕事をボイコットする下請け企業がいました。そういう時、無能な経営者は慌てて相手の条件を呑んでしまいますが……それは一番やってはいけない悪手です」
シルバはリストにサッと目を通すと、氷の瞳を冷酷にきらめかせた。
「これはピンチではなく、最高の『好機』ですよ。誰が神殿の息がかかった不穏分子なのか、向こうからご丁寧に名乗り出てくれたのですから。実務能力が低いくせに派閥の力で居座っていた無駄な人員を、一括で整理する手間が省けました」
シルバは万年筆を執ると、リストの最上部に、美しい筆記体で大きく『免職』と書き加えた。
「アルさん、ただちに近衛兵を動かし、このリストに載っている全員の『登城札』を失効させなさい。彼らは本日をもって、全員一発解雇です。二度と宮廷の敷地へ入れてはなりません」
「え……えええっ!? 全員解雇ですか! 役人が足りなくなったら、本当に国が回らなくなります!」
絶叫するアルに、シルバはクスリと、獲物を追い詰めたコンサルタントのような鋭い笑みを向けた。
「国が回らなくなる? いえいえ、アルさん。企業の無駄な業務を徹底的に削ぎ落とせば、人間は半分でも、いや、三分の一でも十分に回るものですよ。さあ、私直製の『業務効率化マニュアル』を各部署に配りに行きましょうか」




