第15話 おばあちゃん、ストライキを予期します
その頃、王都の巨大な大聖堂の一室では、豪華な法衣をまとった初老の男――マクシミリアン司教が、怒りに震えていた。
「ボルドーが捕まり、バルカまでが若造に屈しただと……!? 馬鹿な! あの小鼻の利かないシルバに、そこまでの実務能力があるはずがない!」
彼の周りには、利権を奪われることを恐れた悪徳貴族の生き残りたちが、群れるように集まっていた。
「司教閣下! このままでは我らの商業利権も、神殿への寄進のルートも、あの若造にすべて暴かれてしまいます!」
「あやつは『ホワイト改革』などと称して、我らの既得権益を完全に潰す気です!」
貴族たちの訴えに、マクシミリアン司教は卑劣な目を細めた。
「ふん……書類仕事が少しできるからと、調子に乗りおって。ならば、こちらにも考えがある。我ら神殿の権威と、下級貴族たちのネットワークを舐めるなよ」
司教は不敵に笑い、周囲の貴族たちに命令を下した。
「宮廷の実務を支える下級役人のうち、我が教区の息がかかった者たちを全員、明日から『ボイコット』させろ。さらに、王都への食料の流通流通ルートを一時的に封鎖する。国政を完全に麻痺させてやるのだ。実務が完全に滞れば、無能な若造宰相など、泣きついて許しを乞うてくるに決まっている!」
「おお……! さすがは司教閣下!」
貴族たちは歓声を上げた。国を人質に取った、大規模な嫌がらせの計画である。
――しかし、彼らは知らなかった。
その大聖堂の床を、せっせと雑巾で拭いていた年配のシスター(宮廷お掃除おばさんネットワーク・神殿支部)が、その計画をすべて、懐のメモ帳に書き留めていたことを。
数時間後、宰相執務室。
「――というわけで、明日から彼らはストライキを敢行し、宮廷を機能不全に追い込む気のようです、シルバ様」
秘書官のアルが、ネットワークからの報告書を読み上げ、顔を真っ白にして震えていた。
「宮廷が麻痺したら、我が国は本当に終わりです……! どうしましょう、シルバ様!?」
だが、デスクに向かうシルバは、パニックになるどころか、むしろ待ち望んでいたと言わんばかりの、最高に美しく、そして最高に不敵な笑みを浮かべた。
「あらあら、まあまあ。ストライキ(業務ボイコット)ですか。……ちょうどいいわ、大掃除の手間が省けましたね」
シルバはエレガントに、かつ機能的に、官服の袖をさらに上へとまくり上げる。
「アルさん、焦ることはありません。前世でね、理不尽な労働組合のストライキや、敵対企業のボイコットなんて、何度も経験してきましたわ。明日から来ないという役人たちのリストを作りなさい。全員、その場で一発解雇です。……さあ、無駄な人員を削減して、我が宮廷の『業務効率化(DX)』を一気に進めましょうか!」
鉄血の仮面の下で、最強のおばあちゃん秘書の「組織改革スイッチ」が、完全に、そして苛烈に火を吹いたのだった。




