第14話 おばあちゃん、次の獲物(不穏分子)を見定めました
「シルバ様、大変満足していただけたようで何よりです」
レオン王の朝食を見届け、執務室に戻ってきたシルバに、秘書官のアルが深々と頭を下げた。アルの目の下のクマは、シルバの淹れる「特製ハーブティー」のおかげで、ずいぶんと薄くなっている。
「ええ、アルさん。可愛いレオン様の笑顔は、何よりのエネルギー源ですね。さて――」
シルバは執務机に座ると、一瞬で『鉄血の宰相』の冷徹なビジネスモードへと切り替えた。氷の瞳が、アルが用意した国内の勢力図へと向けられる。
「ボルドー侯爵を失脚させ、バルカ伯爵の首輪を握りました。これで宮廷内の『財務』と『軍事』の表面的な大掃除は完了です。ですが、アルさん。この弱小国リトアニアが、なぜここまで困窮しているのか……本当の『病巣(利権)』は、もっと深いところにありますね?」
アルはゴクリと息を呑み、勢力図の一箇所を指差した。
「はい……。国内の悪徳貴族たちの残党、そして彼らを裏で操っている存在があります。神殿を抱える『ルミナス教区』の司教、マクシミリアンです」
「神殿、ですか。宗教利権ね」
シルバは不敵に唇の端を吊り上げた。
「彼らは『神への寄進』という名目で、王室の目を盗み、免税特権を利用して莫大な富を蓄えています。そればかりか、下級貴族たちと結託し、王都の商業流通の利権まで牛耳っているという噂です。元のシルバ様も、神殿の『聖域』という壁に阻まれ、一切の手出しができませんでした……」
「聖域、免税特権。……フフ、前世でもね、宗教法人や慈善団体を隠れ蓑にして、不当な脱税やマネーロンダリングを働く悪質な企業(組織)はたくさんありましたわ」
シルバはトントン、と長い指先でデスクを叩いた。
「神様をダシにして、子供の食費や国の予算を毟り取るなんて、コンプライアンス違反も甚だしいわ。アルさん、次のターゲットが決まりました。マクシミリアン司教の過去十年分の『免税申請書』と、神殿の『帳簿』……いえ、彼らの流通拠点の荷入り記録をすべて集めてちょうだい」
「神殿の書類ですか!? しかし、あそこは独自の権限を持っていて、我ら文官では立ち入りすら……」
「あら、正面から行く必要はありませんわ。私には、最強の味方がいますからね」
シルバは窓の外を眺め、ふっと意味深な笑みを浮かべた。そう、彼にはすでに、宮廷中に張り巡らされた『あのネットワーク』があるのだ。




