間話3 軍警名物 女の戦い 前編
北八王子魚人街Bゾーンゲート。
第一小隊と第二小隊の任務交代が終わろうとしていた。
第二小隊を率いるのは、
内田雪乃 軍警中佐 三十八歳。
国防軍時代から柏木沙織と同じ部隊で戦い抜いた戦友だった。
二児の母であり、現在は第三子を妊娠中。
危険な最前線勤務を避け、後方警備が中心となる八王子軍警へ異動した。
その際、
「沙織、一緒に来い。」
その一言で柏木も八王子軍警へ転属してきたのである。
だからこそ二人は階級以上に気心が知れていた。
だが——
会えば必ず始まるものがある。
「沙織。」
雪乃がニヤリと笑う。
「今日は可愛い山羊ちゃんをナンパしてたらしいやん?」
橋本が心の中で思う。
(始まった……。)
柏木は普段の猫を被った口調とは違い、仕事中の関西弁になる。
「ちゃうわ。」
「護衛任務や。」
「任務。」
雪乃はお腹を優しく撫でながら勝ち誇る。
「ふーん。」
「でも私は三人目やで?」
「沙織は彼氏もおらんやろ?」
「女としては、うちの勝ちやな。」
周囲の隊員たちが苦笑いする。
柏木は眉をぴくりと動かした。
「ぐっ……。」
「そ、それは……。」
雪乃はさらに畳みかける。
「ほれ。」
「子供はええでぇ。」
「可愛いでぇ。」
「夜泣きは地獄やけど。」
柏木は腕を組み、ふんっと鼻を鳴らす。
「うちは若いもん。」
「スタイルも負けてへん。」
「モデルやったら、うちの勝ちや。」
雪乃は即座に返す。
「でも母親にはなっとらん。」
「はい、うちの勝ち。」
「ぐぬぬ……。」
柏木は悔しそうに唇を尖らせる。
橋本は頭を抱えた。
(少佐……。)
(そこ張り合うところじゃありません……。)
すると後ろから、小柄な少女が歩いてきた。
第二小隊所属。
村上飛燕。十七歳。
国防軍が育成した強化兵。
小型装甲機動歩兵用の外骨格を装備し、日本刀を主武器とする近接戦闘のスペシャリストだった。
「隊長。」
「またやってるんですか。」
飛燕は呆れた顔でため息をつく。
雪乃は笑う。
「恒例行事や。」
柏木も負けじと胸を張る。
「今日はモフモフちゃんとレイン交換したもん!」
雪乃の動きが止まる。
「……。」
「え?」
「レイン交換?」
柏木は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「交換した。」
「向こうから嫌がられへんかった。」
「今度ご飯行く約束もしようかなぁ。」
今度は雪乃の表情が引きつる。
「ぐっ……。」
橋本がぽつりと呟く。
「マウント、取り返しましたね。」
雪乃は腕を組み直し、不敵に笑った。
「まあええわ。」
「その子と結婚して子供三人産んだら認めたる。」
柏木は顔を真っ赤にする。
「なっ!」
「な、何言うてんねん!」
「まだそこまで考えてへん!」
「ほぉ?」
雪乃はにやにや笑う。
「“まだ”いうことは、考えとるんやな?」
「ち、違うわぁ!」
顔を真っ赤にして否定する柏木。
その様子を見て、橋本と飛燕は顔を見合わせた。
「……。」
「今日も平和ですね。」
「ですね。」
今日も八王子軍警では、国防軍時代から続く二人の”女の戦い”が繰り広げられていた。
それは、女性隊員たちにとってすっかり見慣れた日常の一コマだった。




