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深淵の符呪師 ヨグソトースの息子  作者: ケロン藤野


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第40話 ワインと刺身


シャワーを浴び終えた二郎は、さっぱりした表情でキッチンへ向かった。


「ふぅ……。」


「生き返った。」


『わしもさっぱりしたわい。』


ダニッジも尻尾をゆらゆらと揺らす。


冷蔵庫を開け、買ってきた魚介を取り出す。


食器棚から100円ショップで買った白い皿を二枚並べ、手際よく盛り付けを始めた。


まずはイカの刺身。


透き通る身を扇状に並べる。


続いて脂の乗ったサーモン。


最後に甘エビを一尾ずつ丁寧に殻をむき、中央へ彩りよく盛り付けた。


「よし。」


「刺身完成。」


次は揚げ物だ。


カキフライを皿へ盛り、小鉢に市販のタルタルソースを添える。


横には、くし切りにしたレモン。


別皿にはマグロフライを並べ、市販のワンちゃんのマークが入ったソースをたっぷりとかけた。


炊飯器から湯気の立つご飯を茶碗によそい、インスタント味噌汁を二人分用意する。


ちょうどその時、ケトルが「カチッ」と音を立てて沸き上がった。


二郎は味噌汁を作りながら、鼻歌を歌う。


「♪~~♪」


前の世界、日本で流行っていた懐かしい歌だ。


思わず口ずさんでしまう。


『ご機嫌じゃのう。』


「やっと飯だからね。」


味噌汁をテーブルへ運ぶと、二郎は冷蔵庫から林さんからもらった一本の白ワインを取り出した。


ラベルを見た瞬間、思わず目を丸くする。


「……え?」


「まさか。」


「こっちの世界にもあるとは。」


ラベルには見覚えのある名前が書かれていた。


ロバート・モンダヴィ シャルドネ。


前世でも何度か飲んだことのある、カリフォルニア産の白ワインだった。


給料日や休日に、自分へのちょっとしたご褒美として買っていた一本。


魚料理との相性が良く、お気に入りのワインでもあった。


「懐かしいな……。」


100円ショップで買った。ソムリエナイフでコルクを抜くと、シャルドネ特有の爽やかな香りがふわりと部屋へ広がる。


ダニッジが興味深そうに鼻をひくつかせた。


『ほう。』


『これがお主の前世でも飲まれておった酒か。』


「ああ。」


「カリフォルニアワインだよ。」


「刺身との相性がいいんだ。」


『酒とは気が利くのう。』


二郎は100円ショップで買ったワイングラスを二つ並べた。


一つは自分用。


もう一つはダニッジ用だ。


「ダニッジ。」


「ストロー付けたら飲める?」


『もちろんじゃ。』


『尻尾でも文明の利器は使えるぞ。』


「ははっ。」


二郎は笑いながら、ダニッジのグラスへストローを一本差してやった。


黄金色の白ワインが二つのグラスを満たしていく。


テーブルには豪華な料理が並んだ。


イカの刺身。


サーモンの刺身。


甘エビ。


カキフライ。


マグロフライ。


炊きたてのご飯。


熱々の味噌汁。


そしてロバート・モンダヴィ・シャルドネ。


二郎はグラスを持ち上げる。


「ダニッジ。」


「初めてのダンジョンフィールド。」


「無事に生還して、探索も成功した。」


『うむ。』


『立派な初陣じゃった。』


「それと……。」


「前の世界を思い出せるワインにも出会えた。」


ダニッジは静かに頷いた。


『異世界でも、懐かしい味に巡り会えるとは不思議な縁じゃな。』


二人はグラスを軽く合わせる。


「初ダンジョンフィールドの成功と、生還に。」


「乾杯!」


『乾杯じゃ!』


チン――。


澄んだ音が部屋に響く。


二郎は白ワインを一口飲む。


爽やかな酸味と果実の香りが口いっぱいに広がる。


「やっぱり、この味だ。」


続けてサーモンを口へ運ぶ。


ワインの酸味と脂の甘みが絶妙に調和する。


「うまい……。」


『刺身とシャルドネとは、なかなか洒落た組み合わせじゃのう。』


「今日は本当に色々あったな。」


「ダンジョン探索、魚人街、買い物……。」


「それに柏木少佐。」


ダニッジがニヤリと笑う。


『精神はずいぶん削られておったがの。』


「思い出させないでくれ。」


二郎は苦笑しながら甘エビを頬張る。


「いただきます。」


『いただきますじゃ。』


長く濃い一日の終わり。


一人と一匹は、豪華な夕食と懐かしい白ワインをゆっくり味わいながら、静かな夜を楽しむのだった。

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