第38話 山羊が人間の時よりモテる?
柏木沙織との濃すぎる時間を終え、二郎はふらふらとBゾーンへ戻ってきた。
「……。」
「SAN値がごっそり削られた……。」
肩を落としながら歩く。
ダニッジが呆れたように笑う。
『ほっほっほ。』
『戦闘では傷一つ負わんかったのに、女一人で瀕死とはのう。』
『精神攻撃には弱いようじゃ。』
「勘弁してくれよ……。」
「美人すぎるし、距離感がおかしいし……。」
「心臓がもたない。」
二郎は深いため息をつきながら、カツヲ商店へ戻った。
カラン、カラン――。
ドアベルが鳴る。
「あっ!」
店の奥から元気な声が響いた。
「八木さんじゃないですか!」
飛び出してきたのは、魚人の少女・勝浦海咲だった。
十五歳らしい初々しい笑顔を浮かべている。
「この間は助けてくれて、本当にありがとうございました!」
ぺこりと頭を下げる。
「いや、そんな大したことじゃないよ。」
二郎は照れくさそうに頭をかく。
海咲は嬉しそうに笑う。
「もし今度、鑓水ダンジョンフィールドへ行く機会があったら……。」
少し恥ずかしそうに指先をもじもじさせる。
「その……。」
「ご一緒してもらえませんか?」
「私ももっと強くなりたいんです。」
「だから……。」
「レイン、交換しましょう!」
そう言って腕時計型端末を差し出した。
「えっ、あ、うん。」
二郎は自分の端末を取り出し、海咲とレインを交換する。
「ありがとうございます!」
海咲は嬉しそうに画面を抱きしめた。
その様子を見ながら、二郎は心の中で呟く。
(なんか……。)
(こっちの世界へ来てから急に女の子との接点が増えたな。)
(しかも俺、人間だった頃より山羊獣人の今の方がモテてる気がする……。)
(……なんでだ?)
(人間だった頃の俺って何だったんだ。)
少しだけショックを受ける二郎だった。
その様子を見てダニッジが吹き出す。
『ほっほっほ!』
『お主、人間の頃より今の方が人気者ではないか!』
『世の中、分からんものじゃのう。』
「複雑だよ……。」
苦笑する二郎のもとへ、勝浦カツヲが奥からやって来た。
「お待たせしました。」
「自作の魔力電池シリンダー(極小)、三本です。」
二郎はATMで下ろした現金を渡し、シリンダーを受け取る。
「ありがとうございます。」
「また珍しい品が入ったら教えてください。」
「もちろん。」
勝浦は笑顔で頷いた。
「また来てください。」
海咲も元気よく手を振る。
「また来てくださいね!」
「はい。」
「また来ます。」
二郎は二人へ頭を下げ、カツヲ商店を後にした。
帰り道、飛車上魚類へ立ち寄る。
「おっ、兄ちゃん!」
「待っとったで!」
店主のカツオ魚人から、注文していたイカの刺身、サーモンの刺身、甘エビ、マグロフライ、牡蠣フライを受け取る。
「ありがとうございます。」
「またお願いします。」
「毎度あり!」
二郎は買い物袋を受け取り、自転車置き場へ向かって歩き始めた。
夕日がBゾーンの街並みを赤く染めている。
「今日は疲れた……。」
自転車へ荷物を積みながら呟く。
ダニッジがくすりと笑う。
『初ダンジョンに買い物、それに軍警の少佐まで現れたからのう。』
『なかなか濃い一日じゃった。』
「うん。」
「今日はもう帰ってゆっくり休もう。」
『帰ったら刺身じゃな。』
「それが一番の楽しみだ。」
一人と一匹は笑い合いながら、自転車にまたがり夕暮れの八王子を後にした。




