第36話 家族マート到着。
二郎と柏木は他愛もない話をしながら、家族マートへと歩いていた。
「ほら、着いたよ。」
Bゾーンゲートから歩いて十分ほど。
二十四時間営業の家族マート北八王子店が見えてくる。
柏木は二郎を見下ろし、優しく微笑んだ。
「ねぇ、二郎ちゃん。」
「アイス食べる?」
「買ってあげる。」
耳元で囁くような優しい声だった。
「えっ、いいんですか?」
「もちろん。」
「モフモフちゃんには甘いの。」
柏木は嬉しそうに笑う。
二人が自動ドアへ近付いた、その瞬間だった。
「金! 金ダ!」
「早ク出セ!」
店内から怒鳴り声が響く。
見ると、大陸語を話すハーフ魚人の男が二人。
一人は金属バットを振り回し、もう一人は小型拳銃を店員へ向けている。
店内の客は床へ伏せ、店員は震えながらレジの前で動けずにいた。
柏木は小さくため息をつく。
「やだもう……。」
その一言と同時に、右手が腰へ伸びる。
一瞬だった。
ホルスターから抜かれたのは、巨大な**.50口径ロングバレル・デザートイーグル**。
乾いた銃声が立て続けに二発。
――ドゴン!
――ドゴン!
武装した二人はその場で砕け散り、動かなくなった。
店内は一瞬、静寂に包まれる。
柏木は何事もなかったかのように拳銃の安全を確認し、ホルスターへ戻した。
そして二郎へ振り返り、困ったように笑う。
「二郎ちゃん、ごめんね。」
「ちょっとお店、汚しちゃった。」
「……。」
二郎は口を半開きにしたまま固まっていた。
(え……。)
(今の一瞬で……。)
脳内でダニッジが呟く。
『二郎……。』
『めっちゃヤバい。』
『こやつ、ネジが十本くらい飛んどる。』
『一切ためらわず撃ったぞ。』
柏木はそんなことなど気にも留めず、店員へ笑顔を向けた。
「もう大丈夫ですよ。」
「八王子軍警です。」
先ほどまでとは打って変わって、アイドルのような柔らかな笑顔だった。
店員は震えながら何度も頭を下げる。
「ありがとうございます!」
柏木は胸元から小型無線機を取り出す。
「橋本ちゃん。」
『はい、少佐。』
「北八の家族マートで武装した大陸系ハーフ魚人二名を無力化したから、現場処理お願いね。」
『了解しました。すぐ向かいます。』
柏木はにこっと笑う。
「私はATMでお金を下ろしたモフモフヤギちゃんをBゾーンまで護衛するっていう、神聖なお仕事があるから。」
そう言って、アイドル顔負けの可愛らしい仕草で通信を終えた。
無線機をしまうと、二郎へ振り返る。
「じゃ、二郎ちゃん。」
「面倒くさいことは橋本がやってくれるから。」
「ATMでお金下ろしておいで。」
「その間、私はお菓子見てるね。」
軽い足取りでお菓子売り場へ向かう柏木。
その後ろ姿を見送りながら、二郎はようやく口を開いた。
「……。」
「…………。」
尻尾のダニッジも同じ方向を見つめている。
『二郎。』
『わし、ひとつ確認したいんじゃが。』
『“無力化”というのは、害がなくなるという意味じゃよな?』
二郎は小さく頷く。
「……その通り。」
『……。』
『さっきのは、どう見ても”血煙”ではなかったかのう。』
二人は無言のまま、お菓子コーナーで鼻歌を歌いながら商品を選ぶ柏木沙織の背中を見つめ続けた。




