表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深淵の符呪師 ヨグソトースの息子  作者: ケロン藤野


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/47

第34話 モフモフ捕まる。

揚げ物屋『廃ドラ』を後にした二郎は、買い取ってもらった代金を財布へしまう。


「さて。」


「ATMに寄って、お金を下ろさないとな。」


勝浦にもらった地図を見ながら、Bゾーンゲートへ向かって歩き始めた。


市場を抜け、魚人自治領の大通りを進む。


やがて巨大なゲートが見えてくる。


その手前には、八王子軍警の大型装甲車が警戒任務のため停車していた。


濃緑色の装甲車。


車体上部には二十ミリ・マウザー機関砲を備えた銃座が設置されている。


そこには、一人の長身の女性士官が立っていた。


柏木沙織少佐。


身長百九十八センチ。


すらりと伸びた長い脚。


軍服の上からでも分かる、鍛え抜かれた軍人体型。


そして特徴的なのが、その髪型だった。


黒髪の姫カット。


前髪は綺麗に切り揃えられ、両側の髪が頬から顎の辺りまでまっすぐ垂れている。


長い後ろ髪と組み合わされたその髪型は、歴戦の軍人である彼女の鋭い雰囲気に、どこか日本人形を思わせる優雅さを加えていた。


普段の厳格な軍人らしい表情と相まって、近寄りがたいほどの美貌を放っている。


周囲の兵士たちも、一目置く存在感だった。


二郎が装甲車の横を通り過ぎようとした、その瞬間だった。


沙織の耳がぴくりと動く。


「……!」


彼女の視線が、二郎に釘付けになる。


黒く艶のある毛並み。


立派な角。


小柄な山羊獣人。


次の瞬間――。


「イヤーーーンッ!!」


「モフモフちゃん、キャワイイーー!!」


ガシャン!


沙織は銃座から軽々と飛び降りた。


二メートル近い高さをものともせず着地すると、そのまま一直線に二郎の前まで駆け寄る。


ドンッ!


目の前に現れたのは、姫カットの黒髪を揺らす、まるでファッション誌から飛び出してきたような美貌の女性軍人だった。


長い脚。


引き締まった身体。


凛々しい軍服姿。


腰には五十口径ロングバレル仕様のデザートイーグル。


しかし――。


その鋭い瞳だけは、子犬を見つけた少女のように輝いている。


「か、かわいい……。」


「なんなの、このモフモフ!」


「触ってもいい!?」


二郎は突然の出来事に目を白黒させた。


「え、えぇぇっ!?」


尻尾のダニッジが小さく笑う。


『ほっほっほ。』


『また見つかったのう。』


『お主、本当にモフモフ好きに好かれる体質じゃな。』


「いや、俺は別にモフモフじゃなくて……。」


「山羊獣人です。」


沙織は姫カットの髪を揺らしながら、二郎の顔を覗き込む。


「どっちでもええやん。」


「かわいいんやから。」


「……。」


二郎は何とも言えない顔になった。


歴戦の八王子軍警少佐。


降魔戦争を生き抜いた英雄。


その人物が今――。


目の前の山羊獣人を見て、完全に目を輝かせていた。

「ねえねえ。」


沙織は二郎の顔を覗き込むように歩きながら、にこにこと笑う。


「どこ行くの?」


「モフモフヤギちゃん?」


「黒くてツヤツヤで、かわいい~。」


二郎は少し呆れたように答えた。


「モフモフヤギちゃんじゃありません。」


「八木二郎っていう名前があります。」


「これから家族マートへ行くところです。」


「そうなの?」


沙織はぱっと笑顔になる。


「この辺は治安悪いからさ。」


「家族マートまでついて行ってあげる。」


返事を待つことなく、二郎の隣へ並んだ。


軍靴を履いているとは思えないほど軽やかな足取り。


まるでランウェイを歩くモデルのような美しいウォーキングだ。


「八木かぁ。」


「ずいぶん珍しい名字だねぇ。」


横目で二郎を見ながら尋ねる。


「出身どこ?」


「奥多摩。」


二郎は何気なく答える。


「山の中だよ。」


その瞬間だった。


にこにこ笑っていた沙織の表情が、一瞬だけ消える。


笑顔はそのまま。


しかし瞳だけが、獲物を捉えた猛獣のように鋭く細められた。


「……へぇ。」


「やだ。」


「モフモフちゃん、奥多摩の八木家一族なの?」


二郎は何も気付かず頷く。


「うん。」


「親戚の家に住んでる。」


「ふーん。」


沙織は再び柔らかな笑顔に戻る。


「じゃあさぁ。」


「八木家って、結構大きな一族なんでしょ?」


「一族の人って、ちょっと秘密とか持ってたりして?」


「ふふっ。」


冗談めかして笑いながら問い掛ける。


しかし質問は自然に少しずつ核心へ近付いていく。


「例えばさ。」


「普通の人は知らないこととか。」


「変わった家訓とか。」


「不思議な力を持ってる人とか、いたりして?」


二郎は「えーっと……」と考え込む。


その時、尻尾のダニッジが小さく呟いた。


『二郎。』


『こいつ、ヤバいぞ。』


『ただのおしゃべり好きじゃない。』


『会話すればするほど、少しずつ核心へ食い込んできおる。』


『心理学を使った誘導尋問じゃ。』


『気を抜くな。』


二郎は内心でごくりと唾を飲み込んだ。


(この人……天然じゃなかったのか。)


沙織は相変わらず無邪気な笑顔を浮かべたまま、次の質問を口にしようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ