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深淵の符呪師 ヨグソトースの息子  作者: ケロン藤野


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第32話 カツヲ商店店内

二郎は店内をゆっくり見て回る。


魔法工学部品。


符呪用触媒。


大小さまざまな魔水晶。


最新式の符呪台。


どれも探索者や符呪師なら目を輝かせる品ばかりだった。


「ん?」


棚の隅に並ぶ魔力電池シリンダーの中に、一つだけ少し太いものを見つける。


「これ……。」


「普通のより少し大きいですね。」


勝浦は棚から一本取り出した。


「ええ。」


「通常品より二十五パーセントほど大きい、自作の魔力電池シリンダー(極小)です。」


「自作?」


「はい。」


勝浦は周囲を見回してから、小声になる。


「この近くに住んでいる魔法使いの方が作ってるんですよ。」


「屑になった魔水晶を再利用して作っているので、容量を確保するため少し大きくなっています。」


「その代わり、お値段は一本十万円です。」


「安い!」


二郎は思わず声を上げた。


「僕が使ってる正規品は一本二十五万円ですよ!」


勝浦は苦笑する。


「魔法使いですからね。」


「正規ルートでは売れません。」


さらに声を潜めた。


「もし表に出て活動が知られたら……。」


「ゲート近くにいる怖いお姉さんが、二十ミリキャノン持って飛んできますから。」


二郎は思わず苦笑した。


「ああ……。」


「確かに来そうですね。」


「ですから、この話は内緒でお願いします。」


「はい。」


「分かりました。」


二郎は改めてシリンダーを見つめる。


「ちなみに、この自作シリンダーは何本あるんですか?」


「在庫は三本です。」


「全部買います!」


勢いよく言った二郎だったが、財布を開いて固まる。


「あ……。」


「手持ちが足りない。」


勝浦は笑って言った。


「この辺ならATMがありますよ。」


「探索者協会の報酬口座でしたら、スマホ決済の『プイプイ』も使えます。」


二郎は首を横に振る。


「今日が初ダンジョンだったので、まだ報酬が入ってなくて。」


「プイプイもチャージされてないんです。」


「なるほど。」


勝浦は頷く。


「でしたら、Bゾーンゲートから歩いて十分くらいの場所に『家族マート』があります。」


「そこのATMなら探索者協会口座から引き出せますよ。」


「ありがとうございます。」


「あと……。」


二郎は背負っていたバッグを開け、中からガサガサと素材袋を取り出した。


ジャイアントローチの甲殻や脚など、解体した素材がぎっしり詰まっている。


「これ、売れるところありませんか?」


勝浦は袋の中を覗き込む。


「ジャイアントローチですね。」


「それでしたら、ゲートへ戻る途中にある『揚げ物屋・廃ドラ』が買い取ってくれますよ。」


「えっ?」


「揚げ物屋さんがですか?」


「ええ。」


「モンスター素材の買い取りも兼業してる変わった店なんです。」


勝浦はメモ帳を取り出すと、さらさらと地図を書き始めた。


「ここがカツヲ商店。」


「ここが家族マート。」


「帰り道に、この『揚げ物屋・廃ドラ』があります。」


「この順番で回ると無駄がありません。」


「助かります。」


二郎は地図を受け取り、大事にポケットへしまった。


「じゃあ、ちょっとATMに行ってきます。」


「また後で戻りますね。」


「お待ちしてます。」


二郎は軽く手を振り、店を後にした。


店の扉が閉まる。


カラン、カラン──。


その直後、店の奥から小さな足音が近づいてきた。


「お兄ちゃーん。」


暖簾をくぐり、水色のショートヘアの少女が顔を出す。


「お客様?」


勝浦は妹の海咲へ笑顔を向けた。


「ああ。」


「面白い探索者さんが来てくれたんや。」


海咲は興味津々といった様子で、閉まったばかりの扉を見つめていた。

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