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深淵の符呪師 ヨグソトースの息子  作者: ケロン藤野


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第31話 飛車上魚類とカツヲ商店


魚人自治領Bゾーンの中央市場。


市場の一角には、ひときわ活気のある鮮魚店があった。


大きな看板には力強い文字で、


『飛車上魚類 北八王子店』


と書かれている。


店先には巨大な氷台が並び、朝に水揚げされた魚介類が所狭しと並べられていた。


本マグロ、カンパチ、金目鯛、アジ、イカ、サーモン、甘エビ、ホタテ、牡蠣――。


魚人だけでなく、獣人の料理人や飲食店の仕入れ担当も訪れる人気店だ。


店主は筋骨隆々のカツオ魚人。


頭部は完全にカツオそのもので、太い腕には青い鱗が光っている。


「へい、いらっしゃい!」


「今日は朝獲れの本マグロにカンパチ、金目鯛が安いよ!」


「見るだけでもええから寄ってきな!」


二郎は氷台を見回し、思わず目を輝かせた。


「美味しそう……。」


「じゃあ、イカのお刺身とサーモンのお刺身、それと甘エビをお願いします。」


店主は威勢よく頷く。


「はいよ!」


「イカは注文を受けてから締めるから、ちょいと時間がかかるよ!」


「はい。」


二郎は笑顔で答える。


「この先のカツヲ商店へ行くので、その間にお願いします。」


「お代は先に払います。」


そして、焼き台を指差した。


炭火の上では大きなホタテが香ばしい匂いを漂わせている。


「あと、帆立の串焼きを一本。」


「歩きながら食べたいので。」


「それと、マグロフライ三枚入りと、牡蠣フライ六個入りもお願いします。」


「帰りに受け取ります。」


店主は慣れた手つきで品物を計算した。


「全部で6,000円だね。」


「はい。」


二郎は財布からお金を取り出して渡した。


店主は釣り銭を返し、焼きたての帆立串焼きを手渡す。


「熱いから気ぃ付けな!」


「ありがとうございます。」


二郎は店主へ軽く頭を下げる。


「帰りに取りに来ますので、よろしくお願いします。」


「おう!任せときな!」


店を後にした二郎は、焼きたての帆立串焼きを頬張りながら中央市場を歩いていく。


炭火で焼かれた帆立は香ばしく、噛むたびに濃厚な旨味と甘みが口いっぱいに広がった。


「うまっ……!」


二郎は思わず笑みを浮かべる。


すると尻尾がもぞもぞと動いた。


『二郎。』


『わしにも寄こさんか。』


ダニッジが恨めしそうな声を出す。


「やっぱり来たか。」


二郎は苦笑すると、串から帆立を半分ほど切り分け、尻尾の口元へ差し出した。


「はい、ダニッジ。」


「半分な。」


『ほっほっほ。』


『気が利くではないか。』


ダニッジは大きく口を開けると、ぱくりと帆立を頬張った。


『ん~~~っ!』


『これはうまい!』


『貝の旨味がぎゅっと詰まっとる!』


『炭火の香りも最高じゃ!』


尻尾をぶんぶん振りながら満面の笑みを浮かべる。


「そんなに喜ぶか。」


『当たり前じゃ。』


『魚人街の魚介は一級品じゃからのう。』


『帰りに受け取る刺身も楽しみじゃ。』


「サーモンにイカ、それと甘エビ。」


「マグロフライに牡蠣フライもあるぞ。」


『ほっほっほ。』


『今日は豪華じゃのう。』


一人と一匹は顔を見合わせて笑いながら、帆立串焼きを味わいつつ中央市場を歩いていった。


飛車上魚類から歩くこと、およそ三分。


通りの角に、コンテナハウスをいくつも連結して建てられた、一風変わった建物が見えてきた。


木製の看板には、


『カツヲ商店』


と刻まれ、その下には取扱品目が並んでいる。


取扱品目


・魔法工学部品


・符呪具


・触媒


・魔水晶


・魔力電池シリンダー


「ウホッ!」


二郎は思わず声を上げた。


「いいお店!」


期待に胸を膨らませながら木製のドアを開ける。


カラン、カラン──。


ドアベルが軽快な音を鳴らした。


「いらっしゃいませ!」


カウンターの奥から現れたのは、水色の髪をした青年だった。


人間に近い顔立ちだが、首筋には細かな青い鱗があり、耳の後ろには小さなエラがある。


魚人との混血であることが一目で分かった。


「店主の勝浦カツヲです。」


「お探し物は何でしょう?」


二郎は店内を見回した。


棚には大小さまざまな魔水晶。


魔力電池シリンダー。


符呪用の触媒。


魔法工学部品。


専門書までずらりと並んでいる。


「ここって……。」


「符呪や魔法工学の本とか、触媒も売ってるんですか?」


勝浦は笑顔で頷いた。


「もちろんです。」


「初心者向けから上級者向けまで取り揃えてますよ。」


「それに――。」


店の奥を指差す。


「最新型の符呪台マーク4・長方クリスタルスペシャルも展示しております。」


「よかったらご覧になりますか?」


「えっ!?」


二郎は思わず展示台へ駆け寄った。


漆黒の金属フレーム。


大型の長方形魔水晶。


精密な魔力回路が幾重にも刻まれた高級機だった。


「うわぁ……。」


「これ、うちのマーク4初期型・短クリスタル仕様より性能が三倍くらい違う……。」


「その分、お値段もすごい……。」


値札を見た二郎は思わず固まる。


「高っ!」


勝浦は苦笑しながら肩をすくめた。


「職人さん憧れの一台ですからね。」


「プロの符呪師や魔法工学技師しか、なかなか手が出ませんよ。」


二郎は食い入るように最新型の符呪台を見つめ続けていた。

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