王子様だった騎士様と、初めての逃亡生活
「……なぜ、それを知っている?」
カイル様の言葉を聞いて、私は固まった。
否定しなかった。
つまり。
「ほ、本当に王子様なんですか!?」
「……ああ」
カイル様は、少し困ったように頷いた。
「正確には、王子だった、というべきだろうな」
「だった……?」
「十三年前、私は王族としての身分を失った。今はヴァレンシュタイン公爵家の人間だ」
私は口をぱくぱくさせた。
王子様。
目の前にいる、この人が。
王宮で働いていた十年間、私は王族の方々と直接お話しする機会なんて、ほとんどなかった。
それなのに。
今日、私は王子様に雇われてしまったらしい。
「……あの」
「なんだ?」
「今からでも、お給金を辞退した方がよろしいでしょうか」
「なぜそうなる」
「だって、王子様にお仕事をいただくなんて、恐れ多くて……」
カイル様は額に手を当てた。
「リリア」
「は、はい!」
「私は今、お前の雇い主だ。それ以外のことは気にするな」
「でも……」
「それに、給金は労働の対価だ。身分とは関係ない」
私は少し考えた。
なるほど。
言われてみれば、その通りかもしれない。
「……では、ありがたくいただきます」
「そうしてくれ」
カイル様は小さく笑った。
その笑顔を見て、私も少しだけ安心した。
けれど。
安心していられたのは、ほんの数秒だった。
――ドォォォン!
再び、大きな爆発音が響いた。
窓ガラスが震え、床が揺れる。
「きゃっ!」
私は慌てて日記帳を抱きしめた。
カイル様はすぐに窓へ向かい、外を確認した。
「……王宮魔法師団まで連れてきたか」
「魔法師団……?」
「ああ。屋敷の正門に、少なくとも三十人はいる」
「さ、三十人!?」
「騎士団も合わせれば、五十人ほどだろう」
五十人。
私は思わず指を折って数えようとした。
けれど、両手の指では全然足りなかった。
……当たり前だ。
「どうしましょう……」
「問題ない」
カイル様は平然と言った。
「正面から突破する」
「問題だらけです!」
思わず叫んでしまった。
カイル様が驚いたように振り返る。
「……そうか?」
「そうです! 五十人もいるんですよ!?」
「五十人なら、それほど多くはない」
「十分多いです!」
この人の常識は、どうなっているのだろう。
私は本気で心配になった。
すると、カイル様は少し考え込んだ。
「……確かに、お前を連れている以上、無茶はできないな」
「はい!」
「ならば、別の道を使う」
「別の道……?」
彼は部屋の奥にある本棚へ近づいた。
そして、一冊の古い本を引き抜いた。
――ガコン。
重い音が響く。
次の瞬間、本棚がゆっくりと横へ動き始めた。
「……え?」
私は目を丸くした。
本棚の向こうには、暗い階段が続いていた。
「隠し通路だ」
「す、すごい……!」
「公爵家の屋敷には、万が一に備えた避難経路がある」
私は思わず感心した。
さすがは貴族のお屋敷。
普通の家とは、作りが違う。
でも。
「……あの、カイル様」
「なんだ?」
「この通路、お掃除はされているんでしょうか」
「……」
カイル様が黙った。
「……最後に使ったのは、十三年前だ」
「十三年……」
私は暗い階段を見つめた。
蜘蛛の巣。
埃。
じめじめした空気。
これは、なかなか手強そうだ。
「……掃除道具を持ってきてもよろしいですか?」
「駄目だ」
「でも……」
「今は逃げる方が先だ」
「……はい」
残念だけれど、仕方がない。
私は日記帳を大切に抱え、カイル様の後について階段を下り始めた。
◇
隠し通路は、思っていた以上に長かった。
石造りの階段を下り、細い廊下を進み、さらに地下へと続いている。
壁には古い魔石灯が埋め込まれていた。
カイル様が手をかざすと、青白い光が灯る。
「わあ……」
私は思わず声を漏らした。
「綺麗ですね」
「魔力で動く照明だ。かなり古いものだが、まだ使えるらしい」
「便利ですねぇ」
王宮でも魔石灯は使われていた。
けれど、これほど古い型を見るのは初めてだった。
私は壁の装飾を眺めながら歩いた。
そのとき。
「……あら?」
通路の隅に、何かが落ちていた。
小さな銀色の鈴だった。
古びていて、少し錆びている。
けれど、その周囲には淡い金色の光が漂っていた。
「……また金色」
私は思わず立ち止まった。
「どうした?」
カイル様が振り返る。
「落とし物がありまして」
「……今か?」
「はい」
私はしゃがみ込み、鈴を拾い上げた。
すると、目の前に文字が浮かんだ。
【遺失物を確認しました】
【名称:銀の小鈴】
【所有者:リリア・ベルフォード】
【状態:長期未返還】
【紛失日時:十三年前】
私は息を呑んだ。
「……え?」
私のもの?
この鈴が?
そんなはずはない。
私は、この通路に来たことなんてない。
少なくとも、覚えている限りでは。
「……リリア?」
カイル様の声が聞こえた。
私は震える手で鈴を持ち上げた。
「カイル様……この鈴、私のものみたいなんです」
「……何?」
「十三年前に失くしたと表示されています」
彼の表情が変わった。
「十三年前……」
カイル様は鈴をじっと見つめた。
そして。
「……それを、私に見せてくれ」
私は素直に差し出した。
彼は鈴を手に取った瞬間、息を呑んだ。
「……まさか」
「ご存じなんですか?」
「……ああ」
カイル様は、遠い記憶を探るように目を細めた。
「昔、姉上が一人の少女を連れてきたことがある」
「少女……?」
「銀色の髪をした、小さな女の子だった」
私は胸が高鳴るのを感じた。
「それって……」
「その子は、いつも銀の鈴を持っていた」
私は自分の手元を見つめた。
鈴。
十三年前。
銀色の髪。
全部、つながっている。
「……それが、私だったんでしょうか」
「可能性は高い」
カイル様はゆっくりと頷いた。
「だが、まだ確証はない」
私は鈴を握りしめた。
すると。
【未返還の記憶を検出しました】
【対象者:リリア・ベルフォード】
【記憶の断片を確認しました】
【返還可能】
文字が浮かび上がった。
私は思わず手を止めた。
記憶。
また、記憶だ。
けれど。
前に見た警告が、頭をよぎった。
記憶を取り戻すと、死んでしまうかもしれない。
私は唇を噛んだ。
「……カイル様」
「どうした?」
「この鈴にも、私の記憶が残っているみたいです」
彼はすぐに理解したらしい。
「……返還できるのか?」
「はい。でも……」
「危険かもしれない、か」
私は頷いた。
カイル様は少し考えた。
そして、静かに言った。
「ならば、今はやめておこう」
「……はい」
「無理に取り戻す必要はない。安全な方法を探せばいい」
私は鈴を見つめた。
知りたい。
自分が何者なのか。
どうして記憶を消されたのか。
けれど、怖い。
もし本当に死んでしまったら。
もう、誰かの忘れ物を返すこともできなくなってしまう。
「……わかりました」
私は鈴を大切にポケットへしまった。
そのとき。
遠くから、何かが崩れる音が響いた。
――ゴゴゴゴ……!
「……何の音でしょう?」
カイル様が眉を寄せた。
「追手が隠し通路を発見したかもしれない」
「ええっ!?」
「急ぐぞ」
私たちは再び走り始めた。
◇
地下通路を抜けた先には、古い井戸があった。
井戸の内側には階段が作られていて、地上へ出られる仕組みになっている。
カイル様が先に上がり、私を引き上げてくれた。
「大丈夫か?」
「は、はい……!」
私は息を切らしながら頷いた。
こんなに走ったのは、久しぶりだった。
王宮では毎日歩き回っていたけれど、全力で走ることはほとんどなかった。
地上へ出ると、そこは王都の外れにある小さな森だった。
夕日はすっかり沈み、空には星が輝き始めている。
「……綺麗」
私は思わず空を見上げた。
王宮の中では、こんなにたくさんの星を見ることはできなかった。
「星を見るのは好きか?」
カイル様が尋ねた。
「はい。昔から好きです」
「そうか」
彼は少しだけ笑った。
「姉上も、星が好きだった」
「王女様も?」
「ああ。よく夜中に庭へ出て、星を眺めていた」
私は空を見つめた。
王女様。
十三年前。
そして、私。
すべてがつながっているような気がする。
けれど、まだ何もわからない。
「……カイル様」
「なんだ?」
「私、本当に自分のことを知ることができるんでしょうか」
彼は少し考えた。
そして、静かに頷いた。
「できるさ」
「……どうして、そう言い切れるんですか?」
「お前には、失われたものを取り戻す力がある」
カイル様は私を見つめた。
「ならば、いつか自分自身も取り戻せるはずだ」
私は胸が温かくなるのを感じた。
「……ありがとうございます」
彼は小さく微笑んだ。
そして、私の頭にそっと手を置いた。
「焦るな。時間はある」
私は頷いた。
……けれど。
その言葉を聞いた瞬間、思い出してしまった。
最初の鍵を拾ったときに表示された文字。
【返還期限:残り365日】
時間はある。
本当に?
私は胸の奥が冷たくなるのを感じた。
けれど、カイル様には言えなかった。
まだ、彼をこれ以上心配させたくなかったから。
◇
森を抜けると、小さな街道に出た。
夜の道には、人影がほとんどない。
カイル様は周囲を確認しながら歩いていた。
「この先に、小さな宿場町がある」
「宿場町……?」
「ああ。今夜はそこで休もう」
「……お金は、大丈夫でしょうか」
私が尋ねると、カイル様は少しだけ眉を上げた。
「問題ない」
「でも、王宮から追われているんですよね?」
「ああ」
「お屋敷も戻れないかもしれませんし……」
「……」
カイル様が黙った。
私は不安になった。
「……もしかして、あまりお金がないんでしょうか」
「いや、金はある」
「本当ですか?」
「……あるはずだ」
……はず?
私は嫌な予感がした。
「カイル様」
「なんだ」
「お財布、持っていますか?」
彼は懐を探った。
そして。
動きを止めた。
「……」
「……カイル様?」
「……屋敷に置いてきた」
沈黙。
私は空を見上げた。
星が綺麗だった。
……とても綺麗だった。
「……どうしましょう」
「すまない」
カイル様が珍しく気まずそうな顔をした。
私は少し考えた。
そして、ポケットを探った。
「あ!」
小さな布袋が出てきた。
中には銀貨が三枚。
王宮で働いていた頃に、少しずつ貯めたお金だった。
「私、少しだけ持っています!」
カイル様が驚いた。
「……それは?」
「お給金の残りです」
「使うな」
「え?」
「それはお前の金だ」
「でも、宿に泊まれませんよ?」
「私は野宿でも構わない」
「私も構いませんよ?」
「……お前は駄目だ」
「どうしてですか?」
「今日、倒れたばかりだろう」
私は言葉に詰まった。
確かに、その通りだった。
カイル様は少し考え込んだ。
そして、静かに言った。
「……借りてもいいか」
「もちろんです!」
「必ず返す」
「そんな、気にしないでください」
「いや、返す」
彼は真剣だった。
私は思わず笑ってしまった。
「……ふふっ」
「何がおかしい?」
「いえ、なんでもありません」
王子様なのに。
公爵家の方なのに。
お財布を忘れて、使用人にお金を借りるなんて。
なんだか、とても親しみやすい人だと思った。
◇
宿場町に着いた頃には、すっかり夜になっていた。
町の名前は、ルーンベルク。
王都から少し離れた、小さな宿場町だった。
石畳の道。
木造の家々。
酒場から聞こえる賑やかな声。
王都とは違い、どこか温かい雰囲気がある。
「……いい町ですね」
「ああ」
カイル様は周囲を見回した。
「ここなら、しばらく身を隠せるだろう」
私たちは小さな宿屋へ入った。
入口には、『月灯りの宿』と書かれた看板が掲げられている。
中へ入ると、優しそうな女性が迎えてくれた。
「いらっしゃいませ! お泊まりですか?」
「はい!」
私は元気よく答えた。
「二人で一泊、お願いします!」
女性は私とカイル様を交互に見た。
そして、にっこりと笑った。
「あらまあ、若いご夫婦かしら?」
「……え?」
私は固まった。
夫婦?
誰が?
私と、カイル様が?
「ち、違います!」
慌てて首を振った。
「私たちは、その……!」
どう説明すればいいのだろう。
雇い主と使用人。
でも、王宮から追われている。
それを正直に言ってもいいのだろうか。
私が困っていると。
カイル様が、静かに口を開いた。
「……夫婦だ」
「えええっ!?」
私は思わず叫んだ。
宿の女性は嬉しそうに笑った。
「あら、やっぱり! お似合いですよ!」
「ち、違っ……!」
カイル様が私の肩にそっと手を置いた。
そして、小さな声で囁いた。
「……合わせてくれ。身分を隠したい」
私はようやく理解した。
なるほど。
王宮から逃げているのだから、正体を隠さなければいけない。
つまり。
今だけ。
夫婦のふりをするということだ。
「……わ、わかりました」
私は顔が熱くなるのを感じた。
宿の女性はにこにこしている。
「では、お部屋は一つでよろしいですね?」
「……え?」
私は固まった。
一つ?
お部屋が?
「ちょ、ちょっと待ってください!」
けれど。
カイル様は平然と頷いた。
「ああ。それで頼む」
「か、カイル様!?」
私は思わず彼の袖を掴んだ。
彼は私を見下ろした。
「どうした?」
「お、お部屋が一つって……!」
「夫婦だからな」
「ふ、夫婦のふりです!」
「……ああ」
カイル様は少しだけ目を逸らした。
そして、低い声で付け加えた。
「安心しろ。私は床で寝る」
私は口を閉じた。
……そういう問題なのだろうか。
◇
案内された部屋は、小さくて清潔だった。
窓辺には花瓶。
壁には木製の時計。
そして、部屋の中央には。
大きなベッドが一つ。
……一つ。
私はしばらく、それを見つめていた。
「……リリア」
「は、はい!」
「顔が赤いぞ」
「き、気のせいです!」
「そうか?」
「はい!」
カイル様は少し不思議そうな顔をした。
そして、剣を壁際へ立てかけた。
「私はここで休む。お前はベッドを使え」
「でも、カイル様が床で寝るなんて……」
「問題ない。野営には慣れている」
「……本当に?」
「ああ」
私は少し考えた。
そして、ベッドを見た。
大きい。
二人でも眠れそうなくらい。
……いやいや。
何を考えているの、私は。
慌てて首を振る。
「……どうした?」
「な、なんでもありません!」
カイル様は首を傾げた。
けれど、それ以上は何も聞かなかった。
私は窓辺へ近づいた。
夜空には、無数の星が輝いている。
今日一日。
本当に、いろいろなことがあった。
王宮を解雇されて。
王女様の鍵を拾って。
騎士様に雇われて。
王宮から追われて。
自分の記憶が消されていることを知って。
そして。
今は、王子様だった人と同じ部屋にいる。
……人生って、何が起こるかわからないものだ。
「……リリア」
カイル様の声がした。
振り返る。
彼は椅子に腰掛け、私を見つめていた。
「今日のことを、後悔しているか?」
「……え?」
「私についてきたことだ」
私は少し考えた。
確かに、大変な一日だった。
怖い思いもした。
危険な目にも遭った。
けれど。
「……後悔していません」
私は微笑んだ。
「だって、カイル様に出会えましたから」
彼の目が、わずかに見開かれた。
「……そうか」
「はい!」
私は元気よく頷いた。
カイル様は少しだけ顔を背けた。
その耳が、ほんのり赤くなっているように見えた。
……また夕日のせいだろうか。
でも、今は夜だった。
不思議だ。
◇
その夜。
私はなかなか眠れなかった。
ベッドは柔らかく、毛布も温かい。
カイル様は床に敷いた毛布の上で、静かに眠っている。
けれど。
私の頭の中には、あの文字が浮かんでいた。
【返還期限:残り365日】
世界が初期化される。
それが何を意味するのか、まだわからない。
けれど、きっと良いことではない。
私はそっと起き上がった。
窓辺へ向かう。
そして、ポケットから銀の鈴を取り出した。
十三年前に失くした、私のもの。
小さく振ると、澄んだ音が響いた。
――チリン。
その瞬間。
「……え?」
目の前に文字が浮かんだ。
【遺失物を確認しました】
【名称:銀の小鈴】
【所有者:リリア・ベルフォード】
【状態:返還待機中】
【追加情報が解放されました】
私は息を呑んだ。
文字が変わっていく。
【この鈴は、初代聖女が継承者へ授けたものです】
【本来の用途:封印された記憶の保護】
記憶の保護。
私は思わず鈴を握りしめた。
もしかして。
この鈴があれば、記憶を安全に取り戻せるのだろうか。
そう思った瞬間。
新しい文字が浮かんだ。
【記憶の返還条件を確認しました】
【必要なもの:三つの約束】
【第一の約束:王女の誓い】
【第二の約束:騎士の誓い】
【第三の約束:母の願い】
私は目を見開いた。
三つの約束。
王女様。
騎士様。
そして、母。
私の母親。
顔も名前も覚えていない、あの人。
私は鈴を胸に抱いた。
そのとき。
鈴が、ひとりでに鳴った。
――チリン。
そして。
女性の声が、聞こえた。
『……リリア』
優しい声だった。
とても懐かしい声。
『ようやく、ここまで来たのね』
私は息を止めた。
「……お母さん?」
声は答えなかった。
代わりに。
『お願い。カイルを信じて』
私は驚いた。
カイル様を?
どうして?
『あの子だけが、あなたを守れる』
声は震えていた。
『そして……』
鈴の光が強くなる。
『あなたが、あの子を救ってあげて』
その瞬間。
カイル様が飛び起きた。
「リリア!」
「きゃっ!」
私は驚いて振り返った。
彼は剣を手にしていた。
そして、窓の外を睨んでいる。
「……来たか」
「えっ?」
「追手だ」
私は窓の外を見た。
暗い夜空。
静かな町並み。
何も見えない。
けれど。
次の瞬間。
屋根の上に、黒い影が現れた。
一人。
二人。
三人。
全部で、五人。
全員が黒い外套をまとっていた。
その胸には、赤い紋章。
王宮の暗殺部隊の証だった。
「……そんな」
私は震えた。
こんな小さな町まで、追ってきたの?
カイル様は私の前に立った。
「リリア。窓から離れろ」
「は、はい!」
私は慌てて後ずさった。
そのとき。
私の目の前に、文字が浮かんだ。
【緊急依頼を検出しました】
【依頼名:奪われた命】
【対象者:カイル・ヴァレンシュタイン】
【状態:死亡予定】
【残り時間:十分】
私は、息を呑んだ。
死亡予定。
カイル様が。
十分後に。
死ぬ?
そんな。
そんなの、絶対に嫌だ。
「カイル様!」
「なんだ!」
私は震える声で叫んだ。
「逃げてください!」
彼が振り返る。
「……何?」
「カイル様が、死んでしまいます!」
沈黙。
そして。
私の目の前に、最後の文字が浮かんだ。
【死亡の原因:第三の約束の破棄】
【警告】
【対象者の運命は、すでに書き換えられています】
私は鈴を強く握りしめた。
もし、運命さえも奪われたものだというのなら。
私は。
それを取り戻すことができるのだろうか。
**――第4話・終――**




