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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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113/120

第113話 世界の初期化

――世界:初期化します。


 その文字が。


 俺の目の前で。


 ゆっくりと点滅していた。


「……初期化」


 ミラが。


 小さく呟く。


「何を?」


「全部だろ」


「全部って」


「名前も」


「記憶も」


「役割も」


「……」


 ミラが。


 自分の胸元に手を当てる。


「私も?」


「たぶん」


「レインも?」


「ああ」


「……嫌だな」


「俺もだ」


 その瞬間。


 世界そのものが。


 動いた。


 ――ゴゴゴゴゴ……。


 床が。


 壁が。


 天井が。


 全部。


 同時に崩れ始める。


「走るぞ!」


「どこに!?」


「分からない!」


「それ走る意味ある!?」


「ない!」


「じゃあ止まって!」


「それも危ない!」


「もう!」


 ミラが。


 俺の腕を掴んだ。


 俺たちは。


 とにかく。


 前へ走る。


 だが。


 走っても。


 景色が変わらない。


 いや。


 正確には。


 景色そのものが。


 変わり続けていた。


 廊下だった場所が。


 森になる。


 森が。


 街になる。


 街が。


 何もない白い空間になる。


「……」


 俺は。


 足を止めた。


「ここ」


「どこ?」


 ミラも。


 立ち止まる。


「分からない」


 白い。


 何もない。


 ただ。


 俺と。


 ミラと。


 第五存在だけが。


 立っている。


「……名前」


 ミラが。


 自分の胸を指す。


「ミラ」


 次に。


 俺を見る。


「レイン」


 そして。


 第五存在を見る。


「……」


 名前がない。


「そういえば」


 俺は。


 思った。


「お前」


「まだ名前がないな」


『うん』


「怖くないか?」


『分からない』


「そっか」


 ミラが。


 少し笑った。


「でも」


「今はそれでいいよ」


『……』


「名前がないことが」


「悪いことじゃないって」


「私たちが知ったから」


 第五存在が。


 ミラを見る。


『ありがとう』


「どういたしまして」


 その瞬間。


 白い世界に。


 黒い線が走った。


 ――初期化率:12%。


「……始まった」


 俺は。


 拳を握る。


「どうすれば止まる?」


 第五存在が。


 白い空間を見渡す。


『止める必要はない』


「何?」


『初期化は』


『壊すことじゃない』


「じゃあ何だ?」


『決め直すこと』


「……」


『世界が』


『自分を』


『決め直している』


 ミラが。


 眉をひそめる。


「世界自身が?」


『うん』


「でも」


「システムがやってるんじゃ?」


『システムは』


『世界の声を』


『勝手に翻訳しているだけ』


「……」


 俺は。


 思わず。


 壁のない空間を見た。


「じゃあ」


「今までの記録は」


『世界が言ったことを』


『システムが』


『番号や役割に変えただけ』


「……」


 全部。


 違っていた。


 いや。


 全部が嘘だったわけじゃない。


 だが。


 世界そのものの言葉ではなかった。


「じゃあ」


「三十二も」


『世界が』


『三十二と言ったわけではない』


「……」


「Mも?」


『Mも』


「Rも?」


『Rも』


「レインも?」


 第五存在が。


 俺を見る。


『レインは』


 一拍。


『最初から』


『世界の言葉ではない』


「……?」


『誰かが』


『呼んだ』


「……」


 その瞬間。


 胸の奥が。


 熱くなった。


 ――レイン。


 昔。


 誰かに。


 そう呼ばれた。


 名前が。


 与えられた。


 でも。


 システムは。


 その名前を。


 番号の代わりにしようとした。


 俺は。


 何度も拒否した。


「……」


 ミラが。


 俺の横に立つ。


「レイン」


「何だ?」


「呼んでみる?」


「何を?」


「あなたの名前」


「……」


「レイン」


 その声を聞いた瞬間。


 白い世界に。


 小さな光が灯った。


 ――名称:レイン。


 しかし。


 次の瞬間。


 文字が消える。


「……消えた」


 ミラが。


 驚く。


「また?」


 だが。


 違った。


 文字が消えた場所に。


 新しい文字が浮かぶ。


 ――名称:レイン。


 ――発生条件:呼称。


 ――所有者:なし。


 ――変更権限:本人。


「……」


 俺は。


 その文字を見る。


「所有者なし」


「変更権限は俺」


 ミラが。


 笑う。


「いいじゃん」


「……ああ」


 俺も。


 少し笑った。


 その瞬間。


 世界が。


 大きく揺れた。


 ――初期化率:27%。


 白い空間に。


 今度は。


 無数の扉が現れた。


 一つ目。


 ――M。


 二つ目。


 ――R。


 三つ目。


 ――S。


 四つ目。


 ――第四生存。


 五つ目。


 ――第五存在。


 そして。


 最後。


 ――レイン。


 ミラが。


 扉を見る。


「全部」


「残ってる」


「……」


 俺は。


 頷いた。


「初期化って」


「消すことじゃなかったんだ」


『違う』


 第五存在が言う。


『必要のないものを』


『消すだけ』


「……」


『そして』


『必要なものを』


『残す』


 俺は。


 その言葉に。


 違和感を覚えた。


「待て」


「必要って」


「誰が決める?」


 第五存在が。


 黙る。


 ミラも。


 黙った。


 俺は。


 その沈黙で。


 気づいた。


「……世界か?」


『違う』


「じゃあ」


『誰にも』


『決められない』


「……」


 胸の四つの鼓動が。


 重なった。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


 そして。


 五つ目の音。


 ――カン。


 白い世界に。


 一行だけ。


 浮かんだ。


 ――必要性:未定義。


「……」


 ミラが。


 笑った。


「また未定義」


「この世界」


「未定義が多すぎない?」


「俺たちが増やしてるんだろ」


「そうかも」


 その瞬間。


 Mの扉が。


 開いた。


『……』


 Mが。


 扉の向こうから。


 こちらを見る。


「M?」


『私』


「どうした?」


『初期化される前に』


『一つだけ』


「何だ?」


『伝えたい』


 Mが。


 ゆっくり。


 こちらへ歩いてくる。


『私は』


『もう』


『観測者じゃない』


「……」


『Rも』


『選択者ではない』


『Sも』


『生存側ではない』


『第四生存も』


『第四ではない』


 ミラが。


 目を見開く。


「じゃあ」


「何になるの?」


 Mが。


 微笑む。


『分からない』


「……」


『だから』


『これから』


『決める』


 俺は。


 少しだけ。


 嬉しくなった。


「それでいい」


『レイン』


「ん?」


『あなたも』


『決めるのよ』


「俺は」


「もう決めた」


『何を?』


「俺は」


「レインでいる」


 Mが。


 笑った。


『それも』


『一つの選択ね』


 その時。


 ――初期化率:51%。


 世界が。


 半分。


 白く消えた。


 そして。


 残った半分に。


 一つの巨大な文字が浮かぶ。


 ――新しい世界の最初の定義を選択してください。


「……」


 ミラが。


 俺を見る。


「また」


「選ばせるんだ」


「ああ」


「何を選ぶの?」


 俺は。


 巨大な文字を見る。


 その下には。


 三つの選択肢があった。


 ――世界を一つにする。


 ――世界を分けたままにする。


 ――世界を作り直す。


「……」


 ミラが。


 ため息をつく。


「また三択」


「いや」


 俺は。


 首を振った。


「違う」


「え?」


 俺は。


 三つの文字の下を見る。


 そこには。


 今までなかった。


 小さな空白があった。


「第四がある」


 ミラが。


 目を細める。


「……何も書いてない」


「ああ」


「選択肢じゃないじゃん」


「だから」


 俺は。


 その空白に。


 手を伸ばした。


「これでいい」


 ――第四選択肢:未定義。


 世界が。


 初めて。


 沈黙した。


 そして。


 その沈黙の中で。


 第五存在が。


 初めて。


 はっきりと。


 笑った。


『……やっと』


「何が?」


『世界が』


『世界になる』


 ――初期化率:停止。


 ――世界の定義:未定義。


 そして。


 最後の一行。


 ――自由領域:50%。


 俺は。


 その数字を見て。


 思った。


 残り半分。


 まだ。


 何かが。


 決まっていない。


 そして。


 白い世界の奥で。


 新しい扉が。


 静かに開いた。


 そこに刻まれていた文字は。


 ――「最初の名前」


 だった。

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