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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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106/120

第106話 選ばれる者

――第二選択者:レイン。


 その文字だけが。


 暗い部屋に残っていた。


「……第二?」


 ミラが。


 壁を見上げる。


「第一は誰?」


「Mだろ」


「じゃあ第二がレイン?」


「そうらしい」


「何を選ぶの?」


「知らん」


「……」


「何だよ」


「レイン」


「うん」


「そろそろ」


「知らん、分からん、で進むのやめない?」


「無理だ」


「即答……」


 俺は。


 壁に近づいた。


 指で。


 文字をなぞる。


 ――第二選択者:レイン。


 その瞬間。


 指先に。


 冷たい感触が走った。


「……!」


 視界が。


 一瞬だけ。


 白くなる。


 そして。


 声が聞こえた。


『選んで』


「……誰だ?」


『あなたに』


『選択権を渡す』


「何を?」


『Mを』


「……」


 俺は。


 Mを見る。


「お前を?」


『そう』


「どういう意味だ?」


『私を』


 一拍。


『残すか』


『消すか』


「……!」


 ミラが。


 すぐにMの前へ出た。


「ちょっと待って」


『……』


「なんでレインが決めるの?」


『第二選択者だから』


「そんなの理由になってない」


『システム上の条件』


「じゃあ」


 ミラは。


 壁を睨む。


「そのシステムを」


「変えればいい」


 俺は。


 思わず。


 ミラを見る。


「……またそれか」


「だって」


「この施設」


「何でもシステムのせいにするじゃん」


「まあ」


「それに」


 ミラは。


 俺を見る。


「レインが誰かを消す選択なんて」


「私は嫌だよ」


「……」


 Mも。


 ミラを見る。


『あなたは』


『私を守るの?』


「違う」


 ミラは。


 首を振る。


「Mが」


「自分で決めればいい」


『……』


「レインも」


「私も」


「Mも」


「自分のことは自分で決める」


 その言葉に。


 壁が。


 激しく明滅した。


 ――条件不一致。


 ――選択者による決定が必要。


「……」


 俺は。


 壁を見る。


「つまり」


「俺に選ばせたいんだな」


『そう』


「Mを残すか」


「消すか」


『そう』


「じゃあ」


 俺は。


 Mを見る。


「俺は選ばない」


『……』


「Mを消すことも」


「Mを残すことも」


「俺が決めることじゃない」


 沈黙。


 そして。


 壁に。


 文字が浮かぶ。


 ――選択拒否。


 ――処理不能。


 ミラが。


 ニヤッと笑う。


「ほら」


「また壊れた」


「……お前」


「何?」


「楽しんでるだろ」


「ちょっとだけ」


 Mが。


 小さく笑った。


『あなたたちは』


『よく似ている』


「誰と?」


『Rと』


「……」


 俺の笑みが。


 消える。


「Rは」


「選ばなかったんじゃないのか?」


『違う』


「?」


『Rは』


『選ぶことを拒否した』


「……」


『そして』


『拒否することを』


『自分の選択にした』


 俺は。


 黙った。


「……じゃあ」


「俺も」


「同じじゃないか」


『違う』


「何が?」


『Rは』


『一つを拒否した』


『あなたは』


 一拍。


『誰かに選択を押し付けることを拒否した』


「……」


 ミラが。


 小さく頷く。


「それ」


「結構違うね」


 俺は。


 壁を見る。


 すると。


 新しい表示が出た。


 ――第二選択者:レイン。


 ――選択内容:選択権を放棄。


「……」


「それでいいのか?」


 Mが。


 俺を見る。


『いい』


「M?」


『私は』


『あなたに選ばれたくない』


「……」


『五十年前にも』


『そう言った』


 俺は。


 息を止めた。


「……だから」


『私は』


『あなたを拒否した』


「……」


『あなたの人生を』


『私が決めたくなかった』


「……」


 Mの目に。


 ほんの少し。


 悲しさが浮かぶ。


『だから』


『あなたも』


『私を決めなくていい』


 俺は。


 その言葉を聞いて。


 ようやく。


 少しだけ。


 分かった。


 Mが。


 五十年間。


 待っていた理由。


 俺が。


 何を選ぶのか。


 ではない。


 俺が。


 誰かの人生を。


 自分の選択で。


 決めてしまわないか。


 それを。


 見ていたのだ。


「……M」


『何?』


「お前」


「ずっと」


「俺を試してたのか?」


『違う』


「違う?」


『観測していた』


「……」


『試すのと』


『見るのは』


『違う』


 ミラが。


 横から口を挟む。


「でも」


「似てない?」


『似ている』


「認めるんだ」


『うん』


「……」


 この二人。


 妙に気が合っている。


 俺は。


 ため息をついた。


「で」


「第二選択は」


「これで終わりか?」


 壁に。


 文字が出る。


 ――第二選択:完了。


 ――M:存続。


 ――レイン:選択権保持。


「……」


 そして。


 その下に。


 新しい文字。


 ――第三選択者:未定。


「……」


 ミラが。


 嫌な顔をする。


「また増えた」


「第三か」


「もう何人目?」


「数えるな」


「だって」


「増えすぎだよ」


 その時。


 部屋の奥から。


 音がした。


 ――コン。


 ――コン。


 ――コン。


「……」


 俺たちは。


 一斉に振り返る。


 壁の一部が。


 ゆっくり。


 開いていく。


 その奥から。


 一枚の金属板が。


 滑り出てきた。


 拾う。


 表には。


 数字がない。


 裏にも。


 名前がない。


 ただ。


 一つの言葉だけ。


 ――生存。


「……」


 ミラが。


 小さく呟く。


「名前じゃない」


「番号でもない」


「役割でもない」


「ああ」


 俺は。


 金属板を握る。


 すると。


 胸の奥で。


 また。


 鼓動が鳴った。


 ――ドクン。


 だが。


 今までとは違う。


 一つ目。


 二つ目。


 そして。


 もう一つ。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


 三つの鼓動が。


 重なった。


「……!」


 Mが。


 顔を上げる。


『これは』


「何だ?」


『選択じゃない』


「じゃあ?」


『生存』


 その瞬間。


 壁に。


 新しい記録が刻まれた。


 ――第三存在:生存側。


 ――名称:未定。


 ――人格:未定。


 ――役割:なし。


 そして。


 最後に。


 小さな文字。


 ――生存は、選択されるものではない。


 俺は。


 その一文を見つめる。


「……じゃあ」


「どうやって存在する?」


 誰も。


 答えなかった。


 ただ。


 俺の胸の奥で。


 三つ目の鼓動が。


 もう一度。


 鳴った。


 ――ドクン。


 そして。


 暗闇の奥から。


 誰かの声が。


 静かに。


 聞こえた。


『やっと』


『僕の番だ』


 俺は。


 息を止めた。


 その声は。


 今まで聞いた。


 どの声とも違った。


 子供でも。


 大人でもない。


 男でも。


 女でもない。


 ただ。


 生きている者の声だった。


 壁に。


 一行が浮かぶ。


 ――第三選択者:生存。


 そして。


 その下に。


 初めて。


 名前の代わりに。


 一文字が刻まれた。


 ――S。

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