第97話 謎のダンジョン 04
『何? ここにお宝が眠っているだって? さっきの魔土の話からどう繋げたらその結論に行き着くんだ?』
ノアが話を戻して自身の仮説の続きを語る。
「イフリートの言う通り、魔物によって魔素が吸われて低級魔土に変化することはある。僕らは見たからね。キングガイアスコーピオンがガイアに生まれるその瞬間を」
『まじかそれ? どうなったんだ?』
「直径200mくらいだったかなぁ……周囲にあった全ての魔土の魔素を完全に吸い尽くしてボロボロにしていた。結果的にそこには巨大なクレーターが形成されていて、その中心にスコーピオンのコアとなる存在が光を放って成長していたんだ」
『つまり、魔素を吸って魔物が生まれた。さらに周囲の魔土のグレードが一気に下がった、もしくは魔素を失って粉々になったことの実証だな』
「うん。ただ、それはダンジョンにおいては当てはめられない」
イフリートは直ぐに納得した表情を見せる。
『なるほど。魔素を吸い尽くして生まれた魔物の周囲の状況はダンジョンのそれとは異なるってわけか。ダンジョンでは魔物が生まれても魔土の魔素が十分に残っているからな』
「そう。魔物誕生の際に適度にしか魔素を吸わないという原理が働いているか、もしくは魔素を全開で吸い取ってもダンジョン内の魔土のバランスが崩れないような魔物しか生成されないという原理があるのか。兎に角、ダンジョンはそれだけ特別な何かが備わっているんだと思う」
うんうんとイフリートが頷いている。
「そして魔物と魔土の関係に地域差は無いはずだ。つまり、ダンジョンの下層にある高級魔土エリアの魔物がどれだけ魔素を吸い取って生まれて来ようと、そこのエリアが低級魔土にグレードダウンするなんてあり得ないんだよ」
『そのあり得ない現象が今、このガイアのダンジョンでは起こっているわけだな』
「うん。パッと見た印象はそうなんだけどね。少数ならともかく、今日だけでスタンピードに近い大量のS級魔物が襲ってきた。でもその時、周囲の魔土は低級魔土だった。明らかな矛盾だ」
こいつの思考、12歳じゃねぇなと思うイフリート。
「そこで一つの仮説を立ててみた。S級魔物たちはもっと深い下層で生まれて上層へ上がって来たのではないかってね」
『なんだと? なんのためにだ? 下層の高級魔土がある場所の方がS級魔物にとっては住みやすいだろう。上層へ上がってくる必要なんて…………ん? そうか……逃げて来たってことか?』
コクリと頷くノア。
「上層にここまで大量のS級魔物がいるってことは下層はもっとすごい状況になっている。そう考えるべきでしょ。そうなると下層ではおそらく魔物の縄張り争いが起こっているんじゃないか?」
イフリートが驚愕する。過去にこのダンジョンを訪れたイフリートは目にしたものそれは下層での魔物同士の争いだった。しかし当時はここまで規模が大きくなっていなかった。一旦ノアの話を全て聞くことに。
「魔物は邪念を持って生まれる魔族とは違う。そこに高い知能や文化は存在しない。本能で生きているだけだ。そんな魔物が縄張り争いをするってことは生存に必要なものがそこにはあるってことだ」
『……十分な魔素があると言いたいんだな?』
「それだけじゃない。おそらく……このダンジョンの下層深くにはもっとすごいものがある。それは聖水とか回復なんかと関わっている可能性が高いと僕は推測しているんだけど……」
『お前、天才かよ!』
イフリートがテーブルを叩いて大声で反応して笑っている。意味がわからずポカンとした表情のノア。
『おい、エアルヴァ。お前も隠れてないで出てこいよ。ずっと聞いていたんだろ』
しぶしぶ出て来たエアルヴァ。イフリートにバレていたのが恥ずかしいみたいだ。
『ノアの話が気になってな……盗み聞きするつもりはなかった。すまない』
「いいよいいよ! 明日皆にも話すことだしね! それよりもイフリート、君はダンジョンを途中まで進んだって言ってたよね? そこから踏破しなかった理由が気になっていたんだ。強い魔物がいても精霊の君だったら問題ないはず。そこで思ったのが水がその先を塞いでいたのかもって」
驚きを通り越して呆れてしまう。ノアに隠し事は無理だなと思うイフリート。
『あぁ、そうだ。ダンジョンの深層には水が溜まっている。俺は炎の精霊だからな。しかもただの水じゃなかった。それで進むのをやめたんだ。あの水の塊のことをなんていうんだっけ? エアルヴァ知ってるか? 川だっけ?』
『……湖とか……もしくは海とか? 妾も詳しくは知らんぞ……』
「おぉ! 海! それは本で読んだことがあるよ! 確かルジェ・シルヴァニアって人のガイア創世記って書籍だった。海が観れるのかな?」
『い、いや妾もよくわかっておらぬ。それはそうとルジェとは確か……』
『話が逸れたが、そこにお宝があるってどいうことだよ? その水の塊がお宝なのか?』
「いや、水が溜まっている場所はおそらく魔物にとっての聖域なんだろうね。僕の言うお宝は……要はS級魔物がバンバン生み出されるような場所、そしてそこから縄張り争いに破れた魔物がそれでもその上層に住み着いていたいと思うほどにその場所への執着がある様な特別な存在。それだけこのダンジョンの深層には魅力的な何かがあるってことの裏付けになると思わない?」
『なるほど……つまりそこをモグッてみたらきっと……』
「最高の素材や超級魔土がザクザク……」
良からぬ顔をしている二人を無視してエアルヴァが気になることを口にする。
『この場所……何か通り名のようなものがあった気がする……そう先ほどノアが口にしたルジェ・シルヴァニアが話していたような……』
「え? それって、ガイア創世記に記されているかもね……でも海の話はあまりなかったなぁ……」
ノアが書籍の内容からこのダンジョンの通称を思い出せないのも無理はなかった。なぜならここは海でも湖でもないし、川でもないのだ。
しかし、書籍<ガイア創世記>には確かにこう記されていた。
《……この広いガイアの大地において、あの場所にだけは近づいてはならない。敢えてこの地獄の地に名を与えるなら、『奈落の滝 フォーリングディープ』がよいだろう。冒険者があの地へ近寄らないことを私は切に願う》




