第91話 楽しそうなイフリート 02
「じゃあ、エミラ! あとはよろしく!」
そう言ってノアとヘンリーが消えた。テレポートで地上へ降りたのだろう。
「やっとフルーゲの操縦も慣れてきたわ」
エミラが席を移動し、フルーゲを操る。リリーは狙いを定めて風魔土術を放つ。
「ウインドウォール!」
ハイソイラコンドルとフルーゲとの間に風の壁が形成されてコンドルが一瞬動けなくなった。
「ラ・ファイア!」
魔物に向かって放つよ言うよりも風の壁に向かって炎を放ったティア。いつもの炎系の魔土術だが威力が数倍上がっているのはイフリートのおかげだ。
炎が壁にまとわりつくように燃え上がり、壁で動きを封じられたハイソイラコンドルが何もできずに焼かれていく。
この全方位攻撃によって、一気に魔物を撃退した。
『ティア。お前のラ・ファイア、悪くねぇがもう少しマナを流す際に一点に集中したほうがいいぞ。多分今の倍は威力が上がる』
「本当に? マナを流す時に一点に集中って……」
ティアが素直にイフリートの助言に耳を傾ける。なんだかんだ精霊を信頼しているようだ。
『それからよ……この調子でバンバン俺の力が加わった魔土術を放ってたらお前のその超級魔土でできた装飾品も壊れちまうかもな……』
「えぇ? それは困るわ! 魔土術が唱えられなくなっちゃうわ!」
『う〜ん。これはおそらくリリーも同じことだな。そうだろ? エアルヴァ』
《……その通りだな。おそらくティアよりも先にリリーのそれが壊れるだろう》
「えっ? せっかくノアにもらったのに? それは困るわ……」
「なるほど。精霊の力があまりに強すぎてマナを激しく使用するから超級魔土であってもマナ切れになってしまうのね……」
エミラとノアとヘンリーは問題ないようだが、これは今後のガイア横断の旅においては重要な問題だった。ガイアの大地表面は低級魔土が広がっている。魔土にマナを流し込んで魔素を放出して術を放つ仕組みの魔土術にとって、仕方のないことではあるのだが……
《エミラ! 地上に来てくれ! ソイラボアを全部狩ったよ》
ヘンリーから連絡が来て、すぐにフルーゲを地上に着陸させる。ソイラボアの群れ、20頭が綺麗に真っ二つになってガイアの大地に転がっている。
「これ、すべてヘンリーが斬ったの?」
ティアが驚いてヘンリーに尋ねる。すると首を振りながらノアのサポートがあったと打ち明ける。
「ノアがね。時空系の魔土術を使って魔物の動きを止めてくれたんだ。本当にビックリしたよ」
『はぁ? 時空系なんてあったか?』
イフリートが首をかしげる。ノアが笑いながら答える。
「いや、これは麻痺の魔土術だよ。時空系って言うのは冗談だよ、ヘンリー」
「こんなにたくさんの魔物を麻痺させることだって信じられないよ。一体どれだけのマナを必要とするんだか……」
ヘンリーの疑問にイフリートも疑問を更に重ねる。
『……パラライズを唱えたのか? しかも同時に20頭?』
「そうだよ。動かなくなったところをヘンリーが一太刀だね」
イフリートの複雑な表情を見てティアが問いかける。
「ねぇ、イフリートはなんでそんなに不思議そうな顔をしているの? そんなに麻痺の魔土術って難しいの?」
『いや、パラライズ自体はノアのレベルなら簡単だと思ったが、同時に20頭となると話は別だ。デッカい炎魔土術で大勢の魔物を焼き尽くすのは簡単だが、同時に火の玉を動いている奴らに20個ぶつけるのは不可能だろ?』
「確かに……やれたとしても5頭くらいよね」
全員がノアの顔を眺めている。遠くを観るような細い目をしている。半分呆れているのが分かる。
「い、いや魔物を狩ったんだから喜んでBBQしようよ!」
必要な数だけ皮を剥いで血を抜く。それ以外はアイテム袋に入れてストック。こうして準備を整えた後、イフリートが灼熱の炎で一気に肉を焼く。
『……別にいいんだけどよ。精霊の俺様の炎をこんな調理に活用する奴はお前らが初めてだぞ』
イフリートの愚痴にエアルヴァが笑う。
「いいじゃない。ものすごく役になっているのよ。ありがとうね!」
宿り主であるティアの笑顔に照れ臭がって嬉しさを隠すイフリート。
「さぁ! 食べましょう!」
リリーの掛け声に全員が嬉しそうにこんがり焼けた肉にかぶりつく。
「美味い! 美味すぎるぞ!」
「本当ね! これって高熱の炎で焼いたからかしら。すごく柔らかくて……ジューシーで。感動だわ……」
ヘンリーとエミラが唸る。ノアは止まらずにガツガツ食べている。その間も器用に黄金の卵にマナを注ぎ続けていた。
『おいおい、肉ってこんなにうまかったんだな!』
「…………え? 精霊って肉を食べられるの?」
『マナに変えて吸収しているんだ。だって魔物はもともとガイアの魔土から生まれたものだぜ』
「確かに。魔素の塊でもあるわけか……それは考えもしなかったよ」
ノアが興味を持ち始める。何かこれまでの自分に無い閃きがありそうだと直感的に思えた。
「そうか……魔素の塊が魔物になり、それが巡りに巡ってガイアの大地で人々が生きるための食材へと変わる。これって……ガイアのダンジョンにモグッたときに野菜が採れたりアイテムが取れることと相違ない現象に思えるなぁ……」
肉にかぶりつきながらノアがブツブツ独り言で思考を巡らせる。これもガイアとダンジョンの謎に迫るヒントになっていることに気づいたのだ。
「ねぇ。イフリートがさ、精霊として生まれたときに、エターナルマナレインによって造られたこのガイアの大地は既に形成されていたの? ずっと長い間、この世界を見守っているんだよね?」
『あぁ。俺の記憶では既にガイアの大地は造られていたぞ。何故かそれ以前の記憶は無いなぁ……』
ノアの質問に肉を食べながら答えるイフリート。
「リリー、エアルヴァにも聞いてもらえないかな?」
「エアルヴァさんもガイアの大地が既に広がっていたと言っているわ」
「……なるほど。う〜ん……」
どこか納得できない表情のノア。そう、これまでずっと正しいとされてきたガイアの歴史に一つ疑問を持つ事になったのだ。
「エターナルマナレインを浴び続けて生き延びた種族だけが今の世界に生き続けている……確かにそうなんだろうけど……」
肉を食べならあれこれ考える。
「本当にガイアって大地なのか?」




