第89話 精霊が宿る
『じゃあ……お前に決めた! なんか俺とすげぇ相性良さそうだな』
「決めたっていうか、最初から私って決まってたのよ」
ノアがエアルヴァの表情を確認して、パチンと指を鳴らして結界を解く。同様にエミラも結界を解いた。
イフリートがティアに近づいて額に手を当てる。すると光が二人を包み込み、ティアに向かってイフリートが吸い込まれていく。
「ティア! 大丈夫か!」
ヘンリーが近寄ってティアの額に手を当てるが特に火傷も何も無い。そしてティアが手を握っては開き、目をパチリと開けては閉じる。身体の変化を確認する。
「なんともないわ。ただちょっと湧き上がってくるマナの感覚が抑えきれない……」
ティアの目に変化が現れる。美しい黒の瞳がグッと力強い炎色へと変わっていく。
「ティア! 目が赤くなっちゃったよ! ノアどうしよう!」
「……疲れ目だなティア。充血してるぞ。少し寝て休むか」
「妹がピンチかもしれないだろ! ふざけるな!」
ヘンリーにキレられて、エミラにゲンコツ。それを見ていたリリーが笑う。
「あれ? ひょっとして……リリーに戻った?」
ボコボコになった顔でリリーに話しかけるノア。
「はい……さっきエアルヴァさんから疲れたから休むってご連絡をいただきました」
「え? 話できたの? じゃあ、さっきのエアルヴァとイフリートとの戦いのこと、リリーは知ってたの? ていうかこれまで精霊さんと話ができた?」
ティアが気になっていることを矢継ぎ早に聞く。なんせリリーはある意味精霊を宿して数年生きている先輩にあたる存在だ。
「今まではなんとなく声が聞こえたり、いつの間にか身体を乗っとられたり。特にお話ししているわけではなかったわ。私が風の精霊さんだとは知らなくて、むしろ呪われているのかと考えていたくらいで……」
「私は今、イフリートが中にいるのを感じるわ。でも自由に外に出ようとはしないわね。結構居心地がいいみたいでくつろいでいるわ」
世間話をするかのようにサラッと精霊の話をする二人に呆れるエミラ。
「なんか……みんなノアみたいになってきたわね」
「ちょっとエミラ。それなんか棘がある表現だなぁ」
「皆リーダーの真似をしたいってことだよ」
ヘンリーのフォローもあまり納得ができないノアだったが、大きな収穫に大満足だった。イフリートの炎はどんな物体をも焼き尽くすと言われているほどに強い。そこからどんな発明品を作り出せるのかが楽しみで仕方がないのだ。
「あぁ、早く工房で何か作りたいなぁ」
「私、鍛冶場でお兄ちゃんの手伝いはしないからね」
「おい! ひどいぞ、ティア! そこは協力してくれよ」
ガイアに突如できた巨大な凹地。その中心で5人が大笑いする。こうして希望の剣パーティーメンバーの中に精霊を宿す者が二人もいる展開に。これがとてつもない奇跡だということを5人とも全くわかっていなかった。
後日、ノアたちは久々にリモートスクリーンで王宮と繋がって話をすることに。今回はギャラリーが非常に多い。皆、希望の剣の冒険譚を楽しみにしているのだ。
ロイと国王はある程度すごい展開になっていると覚悟していたが、それを超えてくる展開に再び大きなリアクションで驚いてしまう。
「な! なんじゃと! ミラよ。本当にキングガイアスコーピオンを倒したのか? お主ら5人だけで?」
「はい、国王。確かに倒しました。ノア、あの戦利品を出せますか?」
「はい。ミラ王女、少々お待ちください」
ノアは甲羅やハサミ、そして尻尾の針などを見せる。すると王宮側からすごい感嘆の声が上がる。
「ノア、あのクレーターの正体がこのS級超えの魔物ってことだったのか?」
ロイの言葉に頷いて返事するノア。一つガイアの謎を解き明かしたことに喜ぶロイとモグラーギルドマスターのボイド。この話題に興味を持っているのはノアを含めてこの3人だけだ。
そしてミラ王女だけでなく、リリアナ王女も嬉しそうに旅の経過を報告する。そしていよいよ今回のメインテーマへと話は移る。
「そして私たちは偶然ですが炎の祠を見つけて……あの……炎の精霊イフリートと対峙しました。そのあと……戦って勝ちまして……現在、彼はティアに宿っています」
「「「…………へ?」」」
「あ、あと、私にも風の精霊、エアルヴァさんを宿していたみたいです。最近、少しお話ができるようになりました」
リリアナ王女もついでに話してみた。完全に凍りついて思考が停止している王宮。
「嘘でしょ? ちょっ、ちょっと。どこから聞いたらいいのかわからないけど……ティア! あなたに精霊が宿っているの?」
「うん。今いるよ。ほら、私の目の色が炎色になっているのわかるかな?」
リリカの驚きに平然と答えるティア。とんでもない状況だと腰を抜かしてしまう国王と王妃。
なんとか冷静に状況を把握しようと質問を続けるリリカはその流れでリリアナ王女にもエアルヴァについて聞いてみる。
「リリアナ王女にはいつから風の精霊が宿っていたのですか? 何か目的など精霊は話されていましたか?」
「私には生まれてすぐに宿ったとお話されています。そして四大精霊を探しているとのことでした」
リリアナ王女の言葉にミネルヴァ校長が興味を示す。
「それでは、やはり精霊は光、水、炎、風の四つが存在するということなのですね! すごいわ。書籍で記されていた伝説がこうしてこのガイアの世界に実在していたなんて!」
「とんでもない状況だ。そのうちの二つの精霊が希望の剣のパーティーに宿しているなんて……」
ロイですら言葉を失ってしまう。
「イフリートはドワーフの熱心な誘いが鬱陶しくなってガイアの大地に逃げてきたそうです。結局、ティアに宿って再びグランサンクチュアに向かうわけですが」
ボイドがとても不安そうにノアに話す。
「ノアよ。ドワーリアに到着したらしっかりとティアを守るんじゃぞ! おそらく四六時中ティアは狙われることになるからな」
ハッとするロイとリリカ。そして不思議そうな表情のノアたち。
「そうよ! ティア。彼らの火とものづくりに対する情熱は半端じゃないわ」
リリカが心配している。
「なんか……イフリートもアイツらはヤバイって言ってるわ。何百年も諦めずに迫ってくるって」
「ノア。兎に角お前がティアを守れよ! そしてヘンリー、お前はミラ王女とリリアナ王女を守るんだ。今以上にもっと力をつけて立派な騎士になるんだぞ!」
「は、はい! 了解です!」
その後、マリアが工房での発明品を発表し、大盛り上がりとなる。更に魔王軍が懲りずに攻めて来たが、グリフォンのマリリンが一掃したというエピソードを聞かされて自分の卵の孵化が楽しみになってくるノア。ちなみに黄金の卵に四六時中マナを注いでいるが、今のところ変化はない。大きく成長したマリリンは、王宮の守り神として崇められている存在となっている。
「兎に角だ! こっちのことは何も心配するなよ! ノアたちが思うように進んでみるんだ。頑張れよ」
ロイの言葉が妙に心に響いて嬉しくなる5人だった。




