第87話 ガイアの祠 04
「私の中にあの炎バカを取り込むの?」
「そうだ。そうすれば今のリリーのような強大な力が手に入る。そしてその力を手懐けて自分のものにするんだ」
ノアが冗談を言っていないことはすぐにわかった。しかしティアは渋っている。
「あのバカがずっと私の中に居るって……なんか嫌だわ……」
能力ではなくあのキャラクターがイマイチ気に入らないティア。
「もしもティアが必要ないなら、僕がアイツを取り込むよ。リリーはもう風の精霊がいる。エミラは聖属性だから多分宿せないだろう。そしてヘンリーはどちらかというと風属性だしね。火属性に適性があるティアか僕がアイツを宿せる対象だと思う」
「ねぇ、ノア。そんなにイフリートを宿す必要があるの? パーティの輪が乱れないかな? リリーが怒る時に風の精霊が出てくるってことは、きっとイフリートもそうなんでしょ?」
ヘンリーの真っ当な指摘。ノアもその辺り確信はない。
「そうだね。おそらく宿す者の精神力が関係していると思う。リリーは少し脆い部分があるからなのか、もしくは精霊が意図してやっているのか。それも時間と共に解決すると思うよ」
「なるほど……確かにそうかもね」
「もしもイフリートを宿せたら、おそらく戦闘だけでなく、鍛冶場でも役に立つはずだ。ヘンリーはもっとすごい剣が欲しいと思わない?」
「欲しい! 是非!」
なんて簡単な思考なんだと呆れるエミラ。ヘンリーもあっち側に行ってしまった。
「どうして地底妖精族のドワーフがイフリートを追いかけていたのか。それはおそらくあの炎を用いてものを造りたかったからだろう。それくらいに炎の質が違うんだよ。僕もさっきの戦いでそれが理解できた。アイツはバカだけど炎の質は一級品だ」
説得力のあるノアの言葉にティアも欲しくなってきた。アイツの炎の力が。
しかしそうするにはあのイフリートを……
「倒さないとダメなんでしょ? あいつを」
「そうだね。おそらく全員で倒してもイフリートは必ずティアを選ぶと思うよ。多分ティアとの相性が一番いいはずだ」
「え! なにそれ! なんか嫌だなぁ……」
珍しくヘンリーがノアの言葉に突っかかってきた。ほほう、なるほど……とエミラがニヤニヤしながら観察している。
「よし! わかったわ! お兄ちゃんがこれ以上ダントツで強いのも悲しすぎるし、私があの炎バカをゲットするわ!」
ノアたちの話はまとまったが、イフリートとエアルヴァは口論から戦闘に変わっていた。
『クソ! いい加減にしろよ! 俺は自由に時間を使うと決めたんだ。エアルババァの説教はゴメンだぜ!』
『貴様……この美しい妾に対し、なんと不敬な……許さん』
強大な炎と風が真っ向からぶつかり合う。バリアを張っているノアたちにもその衝撃が伝わるほどの威力だ。
「ねぇ。あれに勝つってどうすればいいの?」
エミラの疑問に首を何回も縦にふるヘンリー。
「いや、僕に考えがある。倒せなくていいんだ。アイツが降参すればいい。まずは今のイフリートの戦いをよく観察して……」
ノアの作戦を聞いて反論するかと思いきや、全員が賛成した。
「なるほど。それならアイツも降参するかもね……面白そうだわ。アハハ」
エミラの笑いを見て、だんだん王女もノアっぽくなってきたなぁと感じるティアとヘンリー。そしてしばらく驚異的な精霊同士の戦いを間近で見学することに。
「……うん。やはりそうだな。3人必要だ」
「そうね。私とお兄ちゃんとヘンリーで。そしてエミラに」
「……わかったわ。リリーはどうするの?」
「リリーには見守ってもらうことにしよう。まだ精霊モードだろうからね」
全員で納得し、タイミングを測ってバリアを解く。
「おい! イフリート!」
『あぁ? なんだ銀髪青目玉。邪魔するな。お前たちは後で相手してやるからよ』
『ほう? こんなチンケな炎で妾の風を防げるとでも?』
『なんだと……妖怪風ババアが……』
「ちょっと! 精霊さん! 2人共ちょっと待って! 僕らの話を聞いてくれ」
ノアの言葉にピタッと動きを止める風と炎の精霊。
「えっと、リリー……じゃなくて風の精霊エアルヴァ、ここは僕たちに任せてもらえませんか? 僕たち希望の剣パーティーでこのイフリートを仲間に加えてみせます。そしてあなたの願う様に他の精霊を探すことに協力することをお約束します」
『ほう? ノア・ルメス・アジールよ。お主が言うのなら妾は構わぬが、この小童炎はなかなかに手強いぞ? 大丈夫か?』
『おい! 誰が小童だ! 俺を舐めるな』
いい感じにイフリートが食いついて来た。ノアは頷いてイフリートの方へ向かって歩いていく。そしてティア達もノアに続く。
「イフリート、お前がもしも降参したら、このティアの身体に宿すことをここで約束しろ! 精霊の誓いをたてるんだ!」
『お主、精霊の誓いを知っているのか。普通の人族では無いな。さすがアレだけの書物を漁っていただけあるな。ハッハッハ。どうする小童? 弱き人族からの要求を受け入れるか? お前が勝てば何も起こらんがな』
エアルヴァが何かを察してノア達に合わせてイフリートを煽る。
『構わないぜ! その代わり俺が勝ったらエアルヴァ! お前は俺に今後一切指図しないと誓いをたてることが条件だ!』
双方が合意し、精霊の誓いをたてる。そしてエアルヴァが見届ける立場となっていよいよイフリートとの戦いが始まる。
『それでは……始めよ!』
エアルヴァの掛け声と共に、ノアとティアとヘンリーがイフリートを囲む様に散らばる。
エミラはさりげなくリリー(エアルヴァ)と近い位置にポジションをとっている。すぐさま全員に補助魔土術をかけて防御力を上げ、ノアがクアトロを掛けて身体能力を4倍にあげる。
『おいおい、散らばって同時に攻撃するからって俺に勝てると思ったのか? 舐めるのも程々にしろ!』
イフリートが炎の玉を3人に向かって同時に放つ。それを交わして攻めに転ずるノア達。
「同時に接近戦で行くぞ!」
ノアの掛け声と同時にヘンリーがイフリートをぶった斬る。
『だから炎に斬撃は効かねぇよ! わかってねぇなぁ』
「わかってないのは君のほうだよ」
イフリートが何か違和感を感じる。
『な! 炎から変な煙が……水が蒸発だと?』
ニヤッと笑うヘンリー。
「水斬」
ヘンリーの剣に水が纏っている。ティアが唱えて水属性魔剣へと仕立てていた。




