第85話 ガイアの祠 02
「地下迷宮ってかっこいい響きでいいね!」
ヘンリーが珍しくワクワクしている。ティアも同じだが、リリーは妙に落ち着いた表情。まだ色々と天から囁かれているのかもしれない。
歩き始めると階段両サイドの壁からボッ、ボッと炎の明かりがつき始めた。この時点で明らかに他のダンジョンとは違う。そのまま直線の階段を降りて地下フロアへ辿り着いた。
「結構深く下りてきたわね」
「ちょっと空間がシンプルすぎて怖いわ。この先の廊下も一本道でまっすぐよ」
「サーチライト<スキャン>」
ノアが前方20メートルにトラップがあるかを確認して慎重に進んでいく。
(トラップは仕掛けられていないようだ……ん? 待てよ……)
「サーチライト<マナスキャン>」
地下迷宮のマナの流れ、濃度を調べるノア。すると不自然にマナの流れが前方に寄吸い寄せられている。明らかに何かがマナを吸っているとしか思えない。
「皆、この先に魔物がいると思う。マナの流れがそこへ向かっているんだ。戦闘態勢でこのまま進むよ」
「「「了解!」」」
相変わらず、歩いて進むノアたちを感知するかのように通路の両サイドに炎がボッ、ボッと点火して明かり代わりになっている。地下迷宮に侵入してから1時間が経過したが、まだ先が見えてこない。
「おかしい、こんなに進んでまだ何も見つからないとかありえる? ちょっと変だわ」
「いや、エミラ。確実にマナの流れが前方に、そしてさっきよりも濃くなってきている。何かあるよ」
ノアの言う通りだった。大きな両開きの扉が5人の目の前に現れた。扉には文字が彫られていた。
『炎の祠』
「炎のホコラって、この奥の部屋の名前よね?」
エミラの言葉に頷くノア。そしてとんでもない存在がそこにいるとノアは確信しているようだ。
「皆、集中していくぞ。相当強い。魔物じゃない何かだ……」
ノアが気を引き締めるのは珍しい。魔族との戦いですらコアを残して倒そうとしたくらいだ。パーティメンバー全員に緊張が走る。
ガガン! ギギィ……
「扉が勝手に開いたわ!」
観音開きでいかにも入って来いと誘われているこの感覚。しかし、ノアに迷いはなかった。
「いくぞ!」
誘いに乗るかのように中へと入る希望の剣。その後バタンと扉が閉ざされてしまった。
薄暗い空間。かなり広い様に感じる。ノアが明かりを灯そうとした瞬間に壁に一定間隔で炎がボッボッボッと点火されていく。円形の壁、そしてかなり広い。中央にさらに円形の台が造られている。
「祠というか、まるで競技場だな……」
ドーム型に掘られた天井に直径200メートルは軽く超えるほどの広々とした円形の空間。その中心にボワっと大きな炎が現れた。
そして炎が人族の様な姿に変わっていく。
『おぉ! 久々の客人だなぁ! まさか地底妖精族がこんなところまで俺を追ってきたのか? 無駄だって何度も断ってるのによ』
「な、なんだ! 炎が喋ったぞ! ていうか人族みたいだ……」
ヘンリーが直面している状況にそのまま驚いているが、エミラはピンと来たようだ。
「ま、まさか……あなたは炎の精霊イフリート?」
『ん? そうだぞ。俺はイフリートだ。なんだ? お前ら……人族か? マジで? あの弱っちい人族が俺の祠を見つけちまったのか?』
「えぇ! 炎の精霊? ウソ! 精霊ってあんなにかっこいい感じだったの?」
ティアの想像する精霊はもっと可愛くてフワフワした感じの蝶々や魂のようなものをイメージしているようだ。
『かっこいいだろ? そりゃそうさ。俺は精霊の中でも一番かっこいいからな。なんせ炎だからな』
リリーが妙に不機嫌そうな顔をしている。
『てことはお前ら、偶然この俺の新しいアジトを見つけてここまでやって来たわけだな? アイツらの執拗な勧誘とは関係ないわけか……』
全く話が見えてこないので、ノアが尋ねてみることに。
「精霊って確か誰かに宿って世界に安定をもたらす存在じゃなかった? なんか今見た感じだと、誰にも宿っていないよね? ここで何しているの?」
『ん? そうなんだが、なかなか面白そうな奴がいなくてな。少し前にここに俺の住処を造って自由に暮らしているってわけよ』
「じゃあ、むしろその面白い奴を探さずにこのまま自由でいたいわけだよね? 僕らは今旅をしているから、先を急ぐことにするよ。あの後ろの扉を開けてもらっていいかな? 邪魔はしないから」
ニヤリと笑ったイフリートが人差指をクイッと上げる。
ボボボボ! ノアたちの周りを炎が囲い込む。
「な! 何をするの!」
ティアが怒って怒鳴りつける。
『この祠に入ったからには俺を降伏させるか、焼け死ぬかのどちらかだ。久々の客人だ。ゆっくりと遊んでやるから安心しろ!』
《皆、僕の近くに集まって!》
ノアがマナフォンで呼びかける。巨大な炎の塊が上部から襲いかかる。
「ミラー<リフレクション>!」
炎が弾き返されて驚くイフリート。
『おいおいマジかよ? 古代魔土術だと? 面白えじゃねえか! ハッハッハ! 久々に楽しめそうだぜ!』
「ちょっとアイツ、ムカつくね。いきなりで失礼だし」
ヘンリーの言葉に全員が頷く。これで決まった。あの生意気な炎の精霊をぶった斬る!
『じゃあ、これならどう防ぐ?』
小さな炎の玉が何十個、いや何百個もノアたちを囲い込んで空中で静止している。
《リリー! 頼んだよ》
《任せて!》
『そらよ!』
イフリートがフワフワと浮きながら指先をノアたちにヒョイと向ける。それに反応して一斉に襲いかかる無数の火の玉。
ドドドドドッ!
舞い上がる煙でよく状況が見渡せない中、突然何かが飛んで来てイフリートの腹を貫通した。
『……へ? なんで?』
「水弾って言うのよ。炎バカ」
ティアが反撃の狼煙を上げた。




