第125話 アトリエ WEV
「この怪しい侵入者を捕らえよ!」
ドワーフ警備隊がノアを捕縛しようと一斉に飛びかかるが、一瞬で姿が消える。
テレポートして警備隊から逃れて街中の人混みに紛れて難を逃れた。
「なんだったんだ、あの警備隊は……」
目立たないように街を歩いているつもりでも、ノアは目立っていた。背が低く、色黒が多いドワーフと銀髪で青い目の人族。明らかに容姿が違い過ぎる。
(思いっきり見られているな……予想外だったのは入国している異国種族が少な過ぎることだ。ほとんどドワーフじゃないか)
「ねぇ、銀色の兄ちゃん! 人族だよね! もしかして、ここまで旅をしてきたの?」
小さなドワーフの男の子がノアに話しかけてきた。見た目の容姿からはノアより年下に見えるが年齢は不詳だ。ドワーフやエルフは見た目と比べて年齢がかなり上だ。
「そうだよ。ヒューマニア王国って遠い国から来たんだ。ちょっと問題あって堂々と出来ないんだけどね。僕はノア。よろしくね」
「僕の名前はウォール。この街の鍛冶屋の息子なんだ。よかったら遊びに来ない?」
「え? いいの? ありがとう! ドワーフの本場の鍛冶場を観てみたい!」
ノアは礼を言ってウォールについていくことにした。
「ねぇ、ウォールは今何歳なの? 僕は13歳」
「8歳だよ! ノアはもう13歳なんだね。やっぱり人族って感じがする! いやぁ、今日は人族に会えて嬉しいな〜」
「ウォールは人族に興味があるの? 詳しそうだね」
ウォールは首を振る。そして笑顔で答える。
「詳しくはないんだけど、僕のじいちゃんが今ヒューマニア王国にいるんだ!」
「え? 本当に? ひょっとして……ボイドさん?」
「ボイドじいちゃんのこと知ってるの?」
嬉しそうに大きな反応をするウォール。二人は暫く笑顔で城下町を歩いて進んでいく。
この街一体が中級魔土レンガで建てられていてとても整った外観である。街並みもそうだが地底国家と言われてノアが想像していた地下空間とは大分違っていて光魔土術による街灯が適度に施された明るい街並みだった。
「さっきはいきなり警備隊に追われていたからじっくり観れなかったけど、素敵な街だね」
「ありがとう! ドワーリア王国はダンジョンの様な空間とは違ってとても明るいでしょ。太陽が見えないからこそ集中して一晩中ずっとモノ作りができるから地下に住み始めたって言われているんだよ。でも明るさは必要だからね」
「へぇ〜、さすがモノづくりの本場だ。心構えから違うね」
そしてウォールの足が止まった。
「ここが父ちゃんと僕の鍛冶場だよ!」
ウォールの鍛冶屋はシンプルで古き良き風貌といった建物の美しさを感じた。その外観から鍛治空間への期待が膨らむ。
中へ案内されると、そこはヒューマニア王国のモグラーギルド鍛冶場の面積とほぼ同じくらいの広さを有した大空間だった。しかし、設備がその4分の1ほどしか置かれていない。職人の数も2、3人で、あまり稼働していないような雰囲気だ。
「落ち着いて集中して作業できる。いい鍛冶場のはずだ……どうして設備が……」
ノアがボソッと呟いたその言葉を聞いたドワーフの男が笑って話しかける。
「ウォールの新しい友達か! お前、鍛冶場をわかっているじゃないか!」
「お父さん! ヒューマニア王国から来たノアだよ! ボイドじいちゃんのこと知ってるって!」
「何ぃ? 親父を知っているのか? 親父はあっちで元気か?」
「初めまして。ノアです。ボイドさんはとても元気ですよ。モグラーギルドのギルドマスターをしています。僕もよくお世話になっていて」
喜ぶウォールと父親。
「俺の名はエトラスだ。よろしくな! そうか〜親父め。元気なら連絡くれってんだよ」
《誰か聞いている? 今偶然知り合ったドワーフの家族の鍛冶場にいるんだけど、そこはボイドさんの息子さんがやっている鍛冶場だった。父親はエトラスで孫の名はウォール。今すぐリモートスクリーンでボイドさんに確認とってもらえないかな?》
《マジで? ノアの強運は神がかっているわね。とりえず、連絡してみるからもう少し待ってて》
数分後、エミラから応答があった。ボイドから伝言を受けたエミラがノアに伝える。
「あの〜エトラスさん、今ボイドさんと僕の仲間が話してくれたんですが、もう鍛冶場はG1クラスに上がったのかって聞かれたんですがどうでしょう?」
「えぇ! なんでそれを知ってんだ? ていうか連絡をとったってどういうことだ?」
「ノアはボイドじいちゃんと連絡が取れるの?」
これではっきりしたことが一つある。それはドワーリア王国の城下町でもマナフォンやリモートスクリーンのような遠距離での会話ができるような技術はないようだ。ノアは言葉を選んで、状況を説明する。
「えっと、確かに僕は連絡を取れます。どのように取ったのかは後で説明できますが、まずは仲間をこの国に入国させないといけなくて……」
丁寧にここまでの経緯を話した。モグラーや冒険者の資格があって、これまでいろんな武器や防具などを製作してきたこと、ドワーリアゲートをあっさり通過したらスパイと勘違いされて捕まりそうになってここにいること。仲間を入国させるためにまずはテレポートを使える王都まで行かなければならないことなど。
「なるほどな……あのゲートをあっさりと通過って、俄に信じがたいが、親父のことを知っているわけだ。しかもG1クラスの話を出されちゃあ信じるしかねぇな……」
「僕は急いで王都へ行ってテレポートして、ヒューマニア王国にいる父さんやボイドさんをドワーリアに連れてこなければならなくて」
「えぇ? ノアはテレポートが使えるの? あれって古代魔土術だったよね? すごいなぁ」
照れ笑いするノア。そしてエトラスが何かを決めたような顔付きでノアに話す。
「ノア。急いでいるなら俺たちが王都まで連れてってやる。親父の仲間を助けないわけにはいかねぇからな。昔と違って今はテレポートできる場所が国の法律で決まってんだよ」
「え? 本当ですか? ありがとうござます! 助かります!」
「ただ、その代わりといっちゃなんだが、一つ条件を呑んでもらえねぇか?」
「条件ですか? なんでしょう?」
恥ずかしそうな面持ちでエトラスが言う。
「俺の親父であるボイドをこの鍛冶場へ連れて来られるのはまずいんだ……なんとかそれだけ避けてくれねぇか?」
「えぇ? 久々に会いたくないんですか? こんな素敵な工房があるのにどうして?」
ウォールが壁に向かって歩いていき、魔土プレートで作られた営業許可証をノアに見せる。
『アトリエ WEV 鍛冶場G3(グレード3)クラス』と記されている。
(WEVってことはウォール、エトラス、ボイドの頭文字か……)
「実は父ちゃんのこの鍛冶場はまだG1クラスになっていないんだ。色々理由があってね……だから今のこの状況をじいちゃんに見せるわけにはいかなくて……」
ノアは全てを察した。ボイドにはグレード1になってから鍛冶場を案内したいという親子のプライドに近い感情があるのだろう。
「なるほど。それってどうすればG1クラスへ昇格できるんですか?」
「G1クラスは工房責任者の職人としての技術力や鍛冶場の設備状況、そして実績が必要となってくるんだ。いきなり成れるものではなくてな……」
ノアは少し考えて、一つ一つ確認する。
「設備状況っていうのはこの鍛冶場の面積で足りるんですか?」
「面積は十分だ。だが設備が足りねぇ。人材もな……」
ノアは鍛冶場の壁にかかっているとあるポスタープレートに目を向ける。
「これはなんですか?」
ポスターには『D−1グランプリ開催! 出場者募集!』と記載されていた。




