第116話 黄金の卵 02
ピシッ! ピシピシピシッ!
ひびがどんどん大きくなってきた。間違いない。今度こそ孵化だ。ウサ婆もその瞬間を楽しむかのような表情で見守っている。
「う、生まれるよ! ノア!」
「うん、大丈夫! さぁ! 僕がそばにいるから安心して出ておいで!」
「「「えぇぇ! 卵の殻が半分浮いている!」」」
水平にひびが入り、上下真っ二つに割れた殻の上部がフワッと宙に浮いている。何事かと思ったがどうやらその浮いた殻の中にいるようだ。
「ピエェ〜。ピエェ!」
「「「おぉ! こ、これは…………何?」」」
「おぉ。こ、こいつ可愛いなぁ! アハハ、わかった、わかったって」
ノアの顔を見て真っ先に飛びついてきて頭や肩の上に乗っかって戯れている。美しい銀色の鱗を纏っている。
「なんと……これはたまげたがね…………神獣の中でも希少種と言われているシルバードラゴンだがね。初めて実際に見たがね〜」
ウサ婆が目を見開いて驚いている。それほど稀有な出来事なのだろう。
『ノアに銀龍か。似合ってて、なかなかいいじゃねぇか!』
イフリートが褒めてノアと一緒に銀龍とじゃれ合っている。その光景を眺めながらウサ婆は何か違和感を覚えていた。
「はて……どこか他のドラゴンとは違うような……色ではなくその存在というか根本的な何かが違う気がするがね……」
それを隣で聞いていたヘンリーが笑顔でウサ婆に話かける。
「だってノアが孵化させたんだから、普通のドラゴンってことはないですよ。まぁ、ドラゴンっていう時点で凄過ぎるから僕たちはそんなに深く考えませんけど」
エミラもティアも笑って頷いている。
「なるほど〜。これがノアだがね〜」
『ノアよ。神獣に名前をつけてやれ』
エアルヴァが以前と同じように命名のアドバイスを提言した瞬間、周囲がざわつく。
「ノア! イシパスみたいな失敗はダメよ!」
「お兄ちゃん、さすがに今回のドラゴンちゃんには冗談要らないからね!」
「ちゃんと愛情を持って名付けてあげて!」
女子たちから熱いメッセージを受けて困惑するノア。
「いや、いつも命名は真剣なんだけどな…………」
『頼むからダサいのはやめてくれ。せっかくの神獣なんだからよ』
「おいおい、イフリートまでそんなこと言うのか? ショックだな」
慎重になって考え始めるノア。目の前にいるのは背中をかいて気持ち良さそうに横たわっている小さな可愛い銀龍。どんな名前がいいのだろう……
「シルバードラゴン……シルドラとかどう?」
「またそういう短絡的な!」
エミラが微妙だと言わんばかりの表情。ティアも激しく頷いている。
「銀に光り輝く……輝く……ルミナス…………ルミノアってどうかな?」
周囲がざわついている。
「な、なんだよ。結構気に入ったから僕はルミノアに決めたよ!」
「……と、とてもいいと思う」
リリーが驚きの表情でノアを褒める。
「……うん。これは奇跡だわ。あのノアがこんなまともな名前を?」
エミラが上から目線で驚いている。
「いや、後半自分の名前だよ。まぁ、これはこれでありか」
「なんかとても失礼だな。僕はいつもいい名前だと思って付けているんだけど」
『悪くねえな! ルミノア! いいじゃねぇか!』
ルミノアが嬉しそうにノアに懐いている。どうやら自分の名前を理解したようだ。
「よし、ルミノア! 早速一緒にご飯食べるぞ!」
「ピエェ〜」
食事の後、再び聖女となるために潜りに行くエミラ。
「感覚としてはもうすぐかもしれないわ……少しずつ私のマナに変化が出ている気がする」
「よし! イフリート。僕たちも次の作品に取り掛かろう!」
『オッケー! 次はアレだな』
二人でニヤニヤしながら臨時工房へと向かう。このところ息の合った動きで精度の高い加工を実現している。まさに最高のパートナーといった雰囲気を出している。
「イフリート! 後で私の訓練にも顔出しなさよ! 最近ほとんど工房にこもりっぱなしじゃないの! 主人はこの私よ。まったく……」
『おう! 任せとけ!』
不満そうなティアにとりあえず返事するイフリート。実際はおそらくすぐ忘れるだろう。それくらいノアとの製作が楽しいのだ。
ティアは諦めてエミラとリリーと一緒に滝に潜って魔土術の訓練を始めた。銀龍ルミノアは滝壺を自由に泳いでいる。相当この場所が気にいっているようだ。
一方ヘンリーはウサ婆に魔土術の相談をしていた。
「ふむふむ。魔土術の威力をもっと上げたいだがね」
「そうなんだ。僕は他の人ほど破壊力がすごい魔土術を今はまだ唱えられない。これってどうしようもないことなのかな? ウサ婆は何か方法を知らない?」
「……そもそも何故ヘンリーは魔土術の威力を上げたいだがね? ティアもリリーも十分に強い術を唱える。ならばヘンリーは魔土戦士として剣の腕を磨けばいいがね」
「うん。その通りなんだけどね。どうも僕の中の理想の戦士像が剣だけじゃダメだって思わせるんだよ。ノアも魔土術と剣を高いレベルで扱えるし」
ウサ婆がヘンリーの手を握ってマナの流れを確かめる。ふむふむと呟きながらヘンリーに助言する。
「ヘンリーに威力の大きな魔土術を放って敵を攻撃するのは不可能じゃ。そういうマナの流れではないだがね」
「そ、そうかぁ……」
「じゃが剣の威力をあげるマナの活用術ならいくらでも教えてやるがね」
ヘンリーが驚いた表情でウサ婆を見つめている。
「え? 剣の威力? どうやって?」
「ヘンリーは剣を振る際に力だけを込めているがね。そこにマナを込めて剣を振れということだがね〜」
ヘンリーがぽかんと口を開けている。しかしそれはウサ婆のアドバイスが的を得ていないということではなく、どうして今までそれを考えなかったのかという自分への呆れからくるものだった。
「……そうかぁ。マナは確かにこれまで意識しなかった。魔土術を唱えるときだけ意識をしていたけど。最近ノアと訓練していた精霊の力を借りた打撃でもマナを手に集中させて放っていたし。確かノアも剣にも応用できるって言っていた。つまりそれは剣にマナを流すことが必要ってことだ……」
ウンウンとウサ婆が大きく2回頷いた。
「マナとは魔土術を唱えるときにだけ使うエネルギーではないがね。全てに応用できるがね。これをよく覚えておくといいがね。それから魔土術は結局は魔土が周辺に無いと放てない環境を選ぶ術だがね。剣術とマナは環境に関係なくいつでも攻撃できるがね〜」
「ありがとう、ウサ婆! 早速訓練してみる!」
そういってヘンリーは剣を持って聖水の滝へ飛び込んでいった。
新しい仲間ルミノアが加わり、希望の剣パーティーの力がとんでもなく上がっていることをこの時はまだ誰一人わかっていなかった。ただ一人、ウサ婆を除いて。




