第115話 黄金の卵 01
「ウサ婆、滝壺の深層部へ行くのはいいとして、そこで留まって瞑想するのは呼吸がもたないわ。一体どうすればいいの?」
「結界で球体を作るだがね。その結界の中に空気を圧縮して詰め込んで頭にかぶればなんとかなるがね」
「おぉ! エアーメットかぁ!」
ノアが興味を持つが特にノアの出番は無い。全てエミラ自身でつくれるものだ。
「聖女になるために聖水を身体に触れさせるがね。できる限りここのマナをエミラが吸収するがね。だから頭だけ空気結界をかぶるがね」
「わかったわ! ありがとうウサ婆」
いつの間にか皆ウサ婆と呼ぶようになっている。そしてリリーとティアが重要なことを提案する。
「このままの服で潜るわけにはいかないわよね。水に潜るようの服を作りましょうよ!」
ウサ婆を含めて女子4人と精霊エアルヴァが楽しげにデザインを検討し始める。そう、要するに水着だ。当然ながらガイアの世界ではそんなものは存在しない。
ウサ婆の魔土術でスラスラとイメージを描いて共有し合う。女子トークが盛り上がってきた。
「えぇ〜こんなに露出するの? やばく無い?」
「いやでも濡れちゃうからね。動きにくいのも嫌でしょ?」
「お姉様はスタイルがいいからこういう感じでいかがでしょう?」
キャッキャと話しているその横で短パン姿になって泳ぎの練習をしているヘンリー。男子は特に格好は気にしない。
そしてノアは先に潜って黄金の卵を取り出した。
「おぉ、ウサ婆のアドバイス通りだ。呼吸ができるぞ」
エアーメットをノア自身でつくりだして装着してみた。抵抗を受けて進みにくいが滝の深層へとゆっくり向かっていく。そして丁度いい卵の置き場所を見つけてゆっくりと設置した。
「さぁ、聖水のマナを一杯取り込んで大きく成長するんだぞ! 卵の段階で成長とか意味わからないけど」
なんとなく黄金の卵に話しかけるノア。すると卵がそれに応えるかのように周囲のマナをどんどん吸い込んでいく。
「おぉ〜僕のマナを吸い込む時とは量もスピードも違うなぁ! これは期待できるぞ!」
ヘンリーが潜ってノアの方へやってきた。素潜りで結界のエアーメットはつけていなかったので、ノア製のバリアによるエアーメットをヘンリーに提供した。
「ぶは〜! 結構きついな〜。 あ、あれ? あ、そうか! 声が聞こえないんだ。だったらマナフォンで……」
ヘンリーが念話でノアに話しかける。
《これすごいね! 作ってくれてありがとう。 バリアと結界って同じ特性なんだね》
《魔土術や魔族に関してはどうだろうね。聖水に関しては割と同じような効果を発揮してくれているね。まぁでもエミラの結界とは雲泥の差だからあまり祠から離れないほうがいいよ。突然割れるかも》
《説得力あるね。了解。ちなみにこの場所って水圧もかかるし滝のマナもすごいし、ここで剣術のトレーニングするのも有りだよね》
ヘンリーはロイに石化された件を突っ込まれて少し自身の弱さを気にしていた。もっと強くなりたい一心で負荷のかかる環境で技を磨きたいようだ。
一方、炎の精霊であるイフリートはティアの中に入っていないときは聖水に潜ることができないため、祠で女子トークに参戦していた。
「こうしたら可愛いわよね! 私もこのデザインにしようかな」
『だったらよ、このお椀二つで乳を隠せばいいじゃねぇか。丁度エミラの大きさにぴったりだぜ! 硬いほうが魔物の攻撃も防げるしよ』
「お椀を胸につけるバカがどこにいるのよ! あんたさっきからやかましいわよ! 恥ずかしいからあっちいってて!」
『イフリート。お主はノアたちと精進しておれ』
エアルヴァにも指摘される。
『ちぇっ。あいつら聖水の中に潜ってんだから仕方ねぇだろうが……あ、そうだ。ウサ婆、あの奥の部屋を臨時で鍛冶場にしていいか?』
「いいがね。お前の好きにするがね」
許可をもらってニカッと笑うイフリートが祠の奥の大きな空間のインテリアをハイソイラブロックで整え始める。
『ここでノアと一緒に傑作を生み出すための最高の鍛冶場をつくってやるぜ!』
エミラたちの潜水着も無事に完成した。
「すごい! ウサ婆ありがとう! 生活魔土術ってレベルじゃないわね! もはや芸術だわ」
「すごく可愛いわ! 私気に入った! リリー、今から泳ぐ練習しましょうよ」
「うん。泳げるようになりたい!」
エミラが3人のエアーメットを作り出して装着する。エミラは王宮大浴場で鍛えていたのでスイスイと潜っていった。
「私たちも負けないように頑張りましょう!」
こうして聖なる祠で各々が目標を立てて訓練し始めた。朝から長時間聖水の滝の底へ潜って瞑想するエミラ、卵を孵化させるために側で見守るノア、ひたすら水圧がかかる環境で剣を振り回すヘンリー。そして泳ぎをマスターしたティアとリリーもエミラの横で瞑想していた。精霊を宿したまま瞑想し、マナを取り込むことでより精霊の力を引き出す狙いだ。
食事前にはダンジョンで魔物を狩って調理し、ウサ婆と一緒に全員で楽しく食べる。そして修行の合間にノアとイフリートは完成した鍛冶場で獲得した素材を広げて製作する防具や武器のアイデアをまとめていく。
修行の中で皆それぞれ様々な手応えをつかみながらあっという間に時が過ぎていく。
そしてこのダンジョンに入ってからおよそ三ヶ月の月日が流れていた。
* * *
「ノアの黄金卵、大きくなったわよね。全然生まれる気配がないけれど」
「そうなんだよ。卵から卵が生まれたときはびっくりしたけど、この卵生きているって思わせるくらい不思議なやつだよ。なんせ卵が成長しているんだからね」
聖水マナの効果だろう。ノアの手のひらに収まる程度だった卵は今では背負って丁度いいくらいの大きさとなっていた。
「なかなか生まれないね。イフリートがあと一ヶ月とか言ってたけどね」
『うるせえな。俺だってびっくりしてんだよ』
朝食を食べながら今日も張り切ってトレーニングに励もうとしていたとき、ピシッと卵にヒビが入るのをノアは見逃さなかった。
「皆! ヒビだよ! ついに神獣が生まれるぞ!」




