第114話 聖なる祠 06
「この滝をルジェ・シルヴァニアは『奈落』と表現したようだが、私は違う呼び名をつけているがね。聖流瀑布と。その理由はこの水が聖水であることに起因するがね」
「聖水の滝ですって! そんなこと有り得ないわ!」
リリカの戸惑いと疑念をノアが一つ一つ説明して納得させる。
「ガイアのマナが集まる場所。そのマナを吸収した濃い濃度の聖水ですって? 聞いて目の前で見せられてもまだ信じられないくらいよ。奇跡だわ」
「つまり、そのダンジョンが強い魔物を大量に発生させる原因が滝壺から溢れ出た余剰のマナであり、それが魔素となって魔物を生み出すというわけですね?」
「さすが魔土術学院の校長だがね。その通りだがね。そしてダンジョン内で淘汰されていき、弱き魔物は上層へ。強き魔物はよりマナが溢れている下層へと留まっているだがね」
「弱いといってもA級上位レベルなわけですから、ルジェが奈落と呼ぶのも頷けますけどね」
ロイの言葉に皆頷く。そしてモグラーギルドのギルドマスター、ボイドが気になっていたことを尋ねる。
「そのダンジョンではどういったものが探掘できたのじゃ?」
ノアがダンジョンの構成をざっくり説明する。
「上層から滝の麓の前、つまりケルベロスがいた幻獣の間までほとんど中級魔土と低級魔土で構成されていまして、モグっても何も見つかりませんでした。おそらくそれは滝の麓に全てのマナが集約されているからだと僕は仮説を立てていますが」
「なるほど。筋は通っておるな。それでノアはもう滝の麓でモグったのか?」
ボイドは早る気持ちを抑えきれない。隣でロイも興味津々だ。リリアナ王女はここでノアと進行を交代する。
「いえ、まだ時間がなくてモグってもいません。しかし、ウサ婆……いや、ウサバさんの話によると……なんと! あの超級魔土がザクザク採れるそうです!」
「ガ〜ン! そんな奇跡が! ワシもそっちに行きたいぞ! くそぉ〜」
「おいノア! 掘ったらすぐに俺にも教えてくれ! 採れたものも興味あるがその麓の魔土の層を調べたいんだ。頼んだぞ!」
頷くノア。そしてヒューマニア王国にも研究者がいることを知って嬉しくなるウサ婆が一つロイとボイドに提案する。
「後ほど、時間をとって我々でダンジョン談義するのはどうだがね〜?」
「ウサバ様、是非お願いします!」
ノアが思い描く期待通りの展開となった。そしてその後ノアはイフリートとともにこれまでのダンジョンで現れた魔物から回収した素材を発表する。そう、この話題はロイとマリアとボイドしか興味を持たない時間だった。国王と王妃は王女二人と談笑している。
「す、すごいですよ! さすがノア工房長! 私も欲しいです! ゴールデンドロイムの表皮!」
マリアがパニック寸前だ。それを見てイフリートも喜んでいる。同じモノづくり仲間がヒューマニアにもいた。
「圧巻じゃな。カトブレパスのツノ、スパイダーの糸、各種魔物の表皮や防具か……希少価値どころではないな」
ボイドが唸る。そしてどこか羨ましそうな眼差しで見ている。
「ノア、それらの素材を持ってても街に到着するまで何も造れないってのは苦痛だろ?」
ロイの言葉を待っていたかのように、不敵な笑みで返すノアとイフリート。
「父さん、実はここで製作する予定なんだ! 僕の相棒、イフリート君がいればいつでもどこでも最高の火を生み出せるから」
『おうよ! 俺の炎はどの鍛冶場で使う炎よりも何倍も質がいいぜ! 絶妙な温度調整ですげーアイテムをバンバン製作していく予定だ!』
「羨ましいです! すごい! ノア工房の臨時工房ですね! イフリート副工房長!」
マリアに持ち上げられて満更でもないイフリート。
『マリア、お前なかなかの腕前らしいな! このリモートのユニットもマリアが作ったんだろ? なかなかやるじゃねぇか! 気に入ったぜ! その後ろにいるのがグリフォンのマリリンか?』
「はい! マリアとマリリンです! よろしくお願いします!」
なんだこのマニアックな職人同士の絆は……遠目からヘンリーとティアが引き気味で眺めている。
「イフリートめ……主人の私よりお兄ちゃんに懐いているのが気に入らないわね……」
「あはは。まぁ、仕方ないよ。職人同士だしね」
笑っているヘンリーにロイが睨みつけて言葉をかける。
「ヘンリー、そしてティア。ちょっと近くにこい」
「「は、はい!」」
油断して石化されたことを覚えていたロイとリリカに注意される。たとえ不可避の攻撃でも二人のことを心配しているという表れでもある。同時により強くなった二人にロイたちは喜びを感じていた。
「二人ともよく頑張っているぞ! だが、慢心せずにもっと精進しろよ。ヘンリーとティアはもっと成長できる。頑張れよ!」
「「はい!」」
「あ、そうそう。ティアもね。ノアみたいに自由に考えていいんだからね。あなたの魔土術の才能はピカイチよ。私たちが保証するわ!」
「ありがとう、ママ! 頑張るわ!」
それぞれが話に花を咲かせて盛り上がっていたところで、ミラ王女が聖女の話題に触れる。
「国王、しばらくこのダンジョンにこもって、修行して聖女になろうと考えております」
ビックリした国王と王妃に、ことの経緯を説明してここで修行して聖女になることができたら今後の旅も安全に進んでいけるというミラ王女の考えを伝える。
「ふむ。余は何も反論はないぞ。むしろ喜ばしいことだろう。王国から伝説に近い存在である聖女になる者が現れるなんてな。しかもそれが我が娘で有り王国の代表となるミラなのだからな。だが無理はしないでくれ。ダメならそれでいいのだ。わかってくれるか?」
「はい! ありがとうございます!」
「その間、ノアたちはどうするのだ?」
国王の問いに笑顔で計画を語るノア。イフリートとのアイテム製作、麓の探掘、そして……
「僕はここでいよいよ黄金の卵を孵化させる予定です。今までずっと僕の愛情とマナで育ててきたこの卵を聖水の滝壺の中で更に濃いマナを注ぎ続けます」
全員が興味を示すも何が生まれるのか少し怖くなっていた。おそらく神獣以上の存在だろうと大きめの期待と覚悟を持ちつつ……




