第112話 聖なる祠 04
「本当に存在したのか? あの書物は自伝だったのか? ミラよ、まさか今いる場所がその奈落の滝があるダンジョンの中なのか?」
「はい……そうです国王。私たちはその奈落の滝の奥に存在する聖なる祠という場所で今リモートスクリーンユニットを起動して繋がっています。ここはとても安全な場所です。魔物は近寄れません」
とりあえず、ホッとする国王陛下と王妃。しかしロイとリリカが不満そうな顔でノアを睨みつけている。それを感じ取って目を逸らすノア。
「ノア! あなたどうしてそんな危険な場所にパーティーで向かうと決めたの! あなたはパーティーリーダーよ。仲間の命を預かっている身でありながらなんてふざけた判断をしているの! 目を逸らさずこっちを見なさい!」
リリカの説教に平謝りするノアを見て少し責任を感じてイフリートが前に出る。
『ちょっと待ってくれ。俺は炎の精霊イフリートだ。このダンジョンへ案内したのは俺で、ダンジョンにモグると判断したきっかけは俺がダンジョンの詳細な説明を怠ったからだ。あまりリーダーを責めないでやってくれ』
「えぇ? 精霊さまが……?」
思わぬ存在の擁護に困惑するリリカ。ポンとリリカの肩に触れてロイが笑顔で首を振る。許してやれということなのだろうか。
「……ノア。俺はお前が羨ましいぞ! そんな面白いダンジョンを見つけたのか! ちくしょ〜俺も探索してみたかった! どんな魔物が出たか、どんなものをモグって見つけたのか、その詳細をちゃんと説明するように!」
「は、はい……」
(えっ……怒るところそこ?)
ミラ王女とリリアナ王女が交代で討伐した魔物についてレポートする。ドブリンキングがミラーを付与した盾を所持していたことに驚き、S級を超える魔物がとんでもない数で襲ってくる場所だと改めて知り、ロイだけがワクワクして目を輝かせて話を聞いている。
「……ガーゴイラの門番に幻獣カトブレパスだと? おいおい、俺たちも遭遇したことなかったぞ」
「パパ! 私とヘンリーが石化されちゃったの! 後でエミラに治してもらったけど。アハハ!」
「おい! ティア! 余計なことを言うな!」
スクリーンの先で怒り狂っているリリカが炎を纏っているのが見える。
そして不甲斐ないヘンリーにロイがギロリと視線を送り、固まってしまうヘンリー。
(……ヘンリーが石化したぞ)
「まぁ待てリリカ、ロイよ。彼らのパーティーとしての力をまずは認めようではないか。どんな困難な状況でもそこを克服して現在に至っているわけだからな。不安や心配は余も同じだ。だが、今こうしてノアたちが元気で我々の前にいることをまずは褒めてやるべきではないか?」
「国王陛下……ありがたいお言葉です」
「ありがとうございます! 国王陛下!」
ノアたちも感謝の気持ちを伝える。
「さぁ、ミラとリリアナよ。冒険話の続きを聞かせておくれ」
「はい。国王陛下! えっと、ちょっと説明が難しいのですが、その後カトブレパスに圧倒的な力を見せつけたノアとイフリートに対して魂の底から恐怖を感じたのか、カトブレパスが仲間になりたいと申し出てきまして」
「……は? 今、なんと申した?」
困惑する国王陛下とロイ。ワクワクしているミネルヴァ校長。ミラ王女がノアへ視線を送る。ノアが頷いて前に出る。
「先ほどミラ王女より説明があった通りでして。僕とイフリートでカトブレパスのツノを素材として回収したくて切断したら、すぐに生えてきたんです。これは無限にツノを取り放題だと思って、二人でひたすらツノを回収していただけなんです。そしたら服従してきまして。今ではこの通り……」
ノアがアイテム袋からカトブレパスを出す。王宮が騒然とする。幻獣が生きた状態で目の前に……
「なんてことなの? 魔物をテイムできる人族という存在だけで奇跡なのに。幻獣をテイムだなんて。本当に信じられないわ……」
ミネルヴァ校長とリリカが目を見開いて驚いている。
「ノア! その幻獣はノアの指示を聞くのか?」
「はい。言葉も話せるようになりましたよ。なぁ? イシパス」
『そうだ。我、主人の指示に従う』
感嘆の声を上げる王宮の者たち。悔しがりながらも嬉しさを隠せないロイ。息子が手の届かないところへどんどん駆け上がっていくこの感覚。
(寂しさもあるが……やっぱり嬉しいもんだな。さすがノアだ)
「イシパスって名前だけは残念ですね」
ミネルヴァ校長が笑ってノアをいじる。そしてリリアナ王女が続きを話す。
「こうして無事に一つ目の幻獣の間をクリアした私たちは次の扉を開きました。そこで待ち構えていたのは地獄の番犬ケルベロスでした」
「ケ、ケルベロス? もはや幻獣が当たり前に出てくるのだな……」
国王が呆れ始めた。
「ケルベロスも倒したの? 確か魔土術が効かないって」
リリカの質問にリリアナ王女は丁寧に答えた。魔土術が効かなかったので急遽ノアが発案した精霊の力を借りた打撃をその場で訓練したこと。ティアの炎の打拳、ヘンリーショットなど。そしてノアがケルベロスに傷をつけずに倒すように無茶な指示を出していたことなど。
「こら。ノア……あなたね……地獄の番犬を前にしてそんなめちゃくちゃな指示を……」
「いやいや! 母さんちょっと待って! 違うって。これも訓練の一環だったんだよ。そのおかげてほら!」
ノアがヘンリーに指示してアイテム袋から巨大なケルベロス身体を取り出してスクリーンにその姿を映す。
「ギャァー!」
謁見の間に沢山の悲鳴が響き渡る。リリカが慌てて大丈夫だと周囲の人間を宥める。インパクトが絶大すぎる魔物だ。
「こうやって確保できたら剥製として売れるって本人は主張しておりました」
「おいこら! ヘンリー! 裏切り者だ!」
ケルベロスを初めて見た王宮の者たちは言葉が出なかった。それを無傷で確保した希望の剣の実力も、もはやS級を軽く超えていると認めざるを得ない。それほどインパクトがある討伐証明だった。
『この肉球でフカフカのベッドを作るか、別の街で剥製を売りさばくか、ずっと悩んでたぜ』
「イフリート! もういいって! これ以上言うな!」
王宮で皆が笑って場が少し和む。
「つまり、ノアたちはまた一つ上のレベルに達したんだな? 精霊のパワーを載せて打撃かぁ……ティア。もしよかったら、見せてくれないか?」
「私も見たいわ、ティア」
ロイとリリカの言葉に嬉しくなって得意気に準備するティア。
「いくよ! じゃあ、イフリート!」
『へいへい。付き合ってやるよ』
そして、ティアが集中して炎を右手に纏わせる。王宮からオォ〜と驚きの声が湧き上がる。
「ウサ婆、あっちの壁に向かって撃ってもいい?」
「ヒャッヒャッヒャッ。構わんがね〜」
ティアが目の前の壁に向かって炎の正拳突き。あっさりと壁に大きな穴が空いた。
「……す、すげ〜」
ロイとリリカが大きく目を見開いていた。




