第111話 聖なる祠 03
「ウサ婆、この滝は広範囲のガイアの大地へ降り注いだ雨水、特にマナレインがゆっくり時間をかけてガイアの地表面、地層内からこの地へ流れ集まって形成されたものなんだよね?」
「ヒャッヒャッヒャッ。その事に気付いたがね。さすがノアだがね。その通りだがね」
『おい、ウサ婆。だがね多いな』
イフリートを無視してウサ婆が話を進める。
「このダンジョンは今でもどんどん下層へと掘られているだがね。あの聖水の滝によって。お前たちも滝壺の下の深さは見たがね? ここへ来る途中にあったがね」
「うん。すごい深さだった。そしてあそこに濃いマナが集中していたからびっくりしたんだ」
ウサ婆の解釈によると、ガイアから流れ着いたマナを含んだ水が滝となって落下していく過程で、聖水へと変化する。さらに滝壺へ落ちた瞬間がもっともマナ濃度が凝縮された状態であり、そこから泉の聖水にマナが拡散されていくということらしい。
「うん。筋が通っていて納得できる。さすがウサ婆だ」
「上から目線だがね……」
「ねぇ、ノア。そこにあの黄金の卵をずっと置きっ放しにしたら生まれるんじゃないかな?」
ヘンリーの機転がきいた一言に感動するノア。
「さすがヘンリー! それだ! 素晴らしいアイデア!」
「そ、そう? あ、ありがとう」
「それをいうなら、そなたも同じだがね……アミラ」
「……エミラです」
「そなたは滝壺の底に暫くとどまることで、おそらく聖女になれるだがね」
「「「えぇ!」」」
皆が驚きを隠せない。そしてパーティーメンバーそれぞれ異なったリアクションをみせる。
「お、ミラお姉様が聖女! すごいですわ!」
「わ、私が聖女に? え? あの回復系ジョブの最高峰と言われている地位に?」
「やったねエミラ! 私はエミラなら当然と思ってたよ! 実力あるしね!」
「その場合、いいんですか? 王女で聖女って……いや、いいのか……」
「あの超凶暴でサデスティックなエミラが聖女? あり得ないよ。真逆すぎて聖水も嫌がる。さっきだって水面から上がってきた瞬間、いきなり僕の顔面を蹴り飛ばすくらいだよ」
『魔女の間違いじゃねえか? 聖なる心をエミラから1ミリも感じたことねぇ――』
ドゴン! ドゴン!
「で、ウサ婆。それはどれくらい潜ればいいとか時間の目安とかありますか?」
「め、目安はわからないがね………………ノアたちは大丈夫だがね?」
「オホホホホ……いつものことですから気にしないでください。じゃれ合いみたいなものですから」
大きなコブを頭に幾つものっけてたイフリートとノア。ふと、何かを思い出したノアがアイテム袋から小さなアクセサリーを取り出してウサ婆に差し出した。
「ん? この毛は……」
「ウサ爺の背中の毛玉。これでもしかしたらウサ爺と連絡が取れるかも」
「ヒャッヒャッヒャッ。確かにウサジはすでにノアたちがここにいることを知っておるぞい。なんならここまでの旅の過程をしっかり見ているだがね」
「え? じゃあ……ウサ爺も後で話せるかな?」
「う〜ん。あの面倒がり親父にそれは無理だがね。ヒャッヒャッヒャッ」
実の娘と久しぶりに話したいと思わないのか? 獣族にとって普通のことなのだろうかとリリーは不思議そうに話を聞いていた。
その脇でノアがせっせとリモートスクリーンユニットを起動してマリアへ連絡をとって、報国会の準備をしている。
「おっ! マリアと繋がった。あとは王国側の準備を待つだけだ」
「ほうほう、この装置で王国と交信するがね?」
「ふっふっふ。ウサ婆。交信だけじゃないんだよ。映像も見えるから」
「ほう、楽しみだがね〜」
壁に投影したスクリーンが王宮の謁見の間を映し出す。見慣れた光景だがエミラたちは心が震えていた。まるで自分たちがその場にいるかのように感じ取れるこのリモートの瞬間は厳しい旅の中で感じられる唯一の安らぎのひと時だからだ。
(特に今回は厳しいダンジョンだったからなぁ……皆よく頑張ったな……)
……前回から半月程度だろうか。かなり短いスパンだがこのダンジョンのレベルが段違いにすごく、感覚的には二ヶ月も連絡をとっていないと思えるほどに精神的な疲労が溜まっていたのだろう。
そして久々に王宮と繋がった。
「お、お父様! あ、いや国王!」
「ははは。ミラ、リリアナ。そして希望の剣の皆、久しいな」
ノアたちも国王やロイ達に挨拶を終えて、まずは旅の報告会が始まる。
「報告をする前に、先に皆様にご紹介したい獣族の恩人がいます。こちらにおられる方はダンジョンの研究をされているウサバさんです」
エミラの紹介でウサ婆がペタペタと前に出る。
「王宮の皆さん。初めましてだがね〜」
「ウサバ? 聞いたことがあるお名前ですね」
魔土術学院のミネルヴァ校長が反応する。それにつられてロイとリリカもまさかと言いたそうな表情でウサバを見つめている。
「あ……えっと、ウサバさんはダンジョンで私とティアの命を救ってくれた恩人であり、魔土術学院のウサジ先生の娘さんです」
「「「やっぱり! 名前でそれしか考えられない」」」
国王や王妃、ロイとリリカが直接お礼を伝えられ、照れ笑いのウサ婆。
「もしかして……あの冒険家ルジェとガイアを旅していた……」
ミネルヴァ校長が微かな記憶を引っぱってきた。頷くウサ婆。
「そうだがね。よく知っているがね」
「生きる伝説がここに居た……」
感動するミネルヴァ校長とロイ。
「ていうかノアは一体何をしていたんだよ! 王女と妹を危険な目に合わせておいて、まさか貴重な魔物と遭遇してそれどころでは無かったとか言わないだろうな?」
ドキッとして焦るノア。さすがロイだ。全て正解ですと心の中で思うヘンリー。
「い、いやあ、まぁ色々ありまして。まずはミラ王女からのご報告をお楽しみください!」
話をうまく逸らすノア。そしてミラ王女が続ける。
「前回の報告会の後、私たちは個々のレベルアップを目的とした新たな武器や防具の加工に必要となる様々な素材を集めるために、とあるダンジョンを目指しました。それは精霊イフリートが……」
テンポよく話していくミラ王女。ウンウンと頷いて楽しく話を聞いていた国王たちだったが徐々に顔色を曇らせていく。とんでもない魔物のレベルと数量、明かされるイフリートが踏破できなかった事実。現在もどうやら娘達はそのダンジョンの中にいるという状況。更に……
「……それから数日後、私たちはこのダンジョンがあの<ガイア創世記>に記されている奈落の滝であることを知ったのです」
「「「………… 」」」
国王と王妃が青ざめていた。




