第110話 聖なる祠 02
「アハハ! ごめ〜んノア! まさか泳げないリリーを助けてここまで運んでくれていたなんて気づかなくて! ほら、私もティアを助けようとしてそのまま気絶しちゃったからこの洞窟までどうやって来たのか知らなくてさ〜」
エミラが笑ってごまかそうとしている。流石に今回はノアもイラっとしている。なんで仲間のために必死でやってきたのに到着した瞬間に顔面を蹴り飛ばされなければいけないんだと。
『ギャハハ! やっぱりリーダーは面白いよなぁ! 俺が気に入った男だけあるぜ!』
「いや、これは僕じゃなくてエミラの単なる誤解だろ! 僕は誤爆しただけじゃないか! ありえないよ。全く!」
「ごめんって! 許してね! リリーを助けてくれてありがとうね! 頼れるリーダー!」
ポンポンとノアの肩を叩いて笑って謝るエミラ。王女じゃなかったらぶっ飛ばしているところだと本気で思うノアだった。
「ヒャッヒャッヒャ。 久々に賑やかでいいがね〜」
「あ、あの……助けてくださってありがとうございます。私はティアと申します」
ウサ婆がティアの方へ振り向く。にっこり笑顔で一言。
「知っとるだがね〜。ずっとダンジョンに入っていた時から観ていたがね〜」
「「「えぇ〜? ずっと観ていた?」」」
ノアが驚く仲間に簡単に説明する。
「この獣族の方はね、魔土術学院のプラチナクラスの試験監督をしていて最上階の空の間に住み着いているウサジさんの娘のウサバさん。愛称はウサ婆だよ」
「そんな愛称を認めたことはないがね……ノアは頑固だがね〜」
突然の出来事でよくわかっていないティアたちはとりあえず、聖水の中で溺れているのを助けてもらって、ノアたちが後からやってきたことを説明される。
「なるほど……それでここがウサ婆の住処ってことですか?」
「そうだがね〜。かれこれ二百年?…………忘れたがね」
「二百年! じゃあイフリートが逃げて帰った時もウサ婆はいたんだね」
『おい、ヘンリー! 戦略的撤退と言え! 俺は逃げてなんかいねーよ』
「ヒャッヒャッヒャ。観ておったぞ。火の玉精霊の攻撃が一切効かずにスネて帰って行ったがね〜」
「プッ! プププッ」
『おい! ティア! 笑うんじゃねぇ! ていうかウサ婆も居たなら出てこいよ!』
「あのドロイムは危険だがね〜。会いたくなかったがね。でもこれからはノアたちのおかげで出入りがしやすくなったがね〜」
ウサ婆が嬉しそうに話す。
「じゃあ、やっぱりあの結界を張ったのもウサ婆?」
「そうだがね。休憩所が無いと疲れるがね」
エミラが一番皆が気になることを質問する。
「ウサ婆はどうしてここに長く住んでいるんですか?」
「ダンジョンの研究だがね。ここが一番面白いダンジョンだと思ったがね」
「ダンジョン研究か……ウサ婆さ、後で王国にいる人族の研究課と話してみない?」
ノアが提案している研究課とはロイのことだった。
「いいだがね。どうやって話すがね? ここはレアラがあるけどテレポートできない場所だがね」
「「な、なんだって〜!」」
ノアとイフリートが大きく反応する。ノアの予想通り、このダンジョンは宝が眠っていた。
「ねぇウサ婆! この洞窟でモグってもいい?」
ニコッと笑って頷くウサ婆。ハイタッチで喜び合うノアとイフリート。
「ここは聖なる祠という名だがね」
かっこいい響きで気にいるノア。ウサ婆が名付けたらしい。
「あ、そうそう。どうやってヒューマニア王国の人間と話すかだけど、普通に顔を見て話せるから後で準備するよ」
よくわかっていないウサ婆。ダンジョン内のことは全て覗き見していたようだがそれ以外のことはわかっていない。
とりあえず、二人を助けてくれたお礼を兼ねて、食事にしようか!
ノアたちは許可をもらって祠にマリーボイドを建てる。そしてウサ婆も中へ招待する。
「おぉ〜これはすごいがね〜。理にかなった傑作だがね。これを造ったのは?」
「王国のエンジニアです。私たちの仲間です!」
「私たちの旅を快適にするために造ってくれたんです!」
エミラとリリーが嬉しそうに話す。
「ちょっと僕の発明品とのリアクションに大きな差がある気がするなぁ……」
『まぁ、気にするなって! もうすぐ俺たちの傑作が生まれるんだからよ!』
「だな! 楽しみだなぁ〜」
食事の準備ができてテーブルに座って客人を招いての賑やかなディナータイムだ。ウサ婆もとても満足そうにソイラボアの揚げ物を食べている。
「美味しいだがね! ヒューマニア王国の食事はここまで美味しいものだがね!」
やはり万国共通で美味しい料理のもてなしは喜ばれる。
「ウサ婆いっぱい食べてください!」
食事と会話が進み、ウサ婆へ質問責めのエミラとリリーとティア。女性として一人でここに住んでいることにさみしく無いのかと疑問を持っているようだ。
「昔、とあるパーティーの一員でここに来たがね。そしてこのダンジョンの聖流瀑布を見たときに感動してしまったがね。そのままここに居着いたがね」
「パーティーメンバーと別れてまでですか……」
「……たった一人を除いて死んだがね。その一人もダンジョンから脱出できたかどうか……」
聞き入ってしまってシーンとしてしまう女性陣。そこにノアがふとあることを思い出す。
「ウサ婆、もしかしてその一人脱出を試みたパーティーメンバーの名前って、ルジェ・シルヴァニア?」
ウサ婆の目が大きく見開いてノアに驚きの声をあげる。
「お主、なぜその名前を? まさかルジェは生きて脱出できたのか?」
ゆっくりと頷くノア。そしてエミラが説明の続きを話す。
「ルジェ・シルヴァニアは『ガイア創世記』という書籍を出しています。その中にこのダンジョンの記述がありまして。彼はこのダンジョンのことを絶対に近づいてはいけない場所と話しており、この滝のことを<奈落の滝>フォーリングディープと名付けていました」
「ヒャッヒャッヒャ! 愉快だがね〜」
話を聞いて大笑いするウサ婆。それはとても晴れ晴れした表情だ。
仲間が無事に脱出できたことへの喜びなのか、片やダンジョンへの恐怖心から地獄の象徴として奈落の滝と名付けたルジェと、聖なる力を宿す場所、聖流の瀑布と全く逆の意味の名を付けたウサ婆との真逆の意味合いが面白かったのか……
まだまだ楽しい食事の時間は続くのであった。




