第106話 ダンジョンの幻獣 04
「え? 私が?」
「あぁ、ティアしかいない。ここでまず僕ができるようになればヘンリーもリリーもやれると考えるだろうから」
「ちょっと待ってノア。そこまでその技を今急いで体得することにこだわる必要ってあるの? ケルベロスを倒すのは十分でしょう。剥製は諦めたら勝てるわけだし」
エミラがノアのいつも以上に強引と思える考えに違和感を覚えて問いただす。
『おい、ノア。本当のこと言ってやれよ。お前が気にしているのはケルベロスの後ろに控えている魔物のことだろ?』
イフリートが口にした言葉にノアが静かに頷いて認める。
「「「控えている魔物?」」」
「お兄ちゃん、どう言うこと? 何を知っているのか全部話して」
珍しくノアが渋い顔つきで話す。
「この空間に入った時からものすごい魔素の量を感じてね。最初はあのケルベロスかと思ったんだけど、どうやら違うなって。あの扉の奥から感じるんだ」
ノアがケルベロスの奥の扉を指差す。
「地獄の番犬が何を守っているのかは知らないけど、あれはやばい。下手したら全滅も十分にあり得る。そう感じているんだ。だからできるだけここで強くなってから進もうと思っただけだよ」
「エアルヴァさんもそれは感じているの?」
リリーの問いにエアルヴァも頷く。
「……強いな。間違いなくダンジョンボスだと思うがな」
「…………」
重い空気がパーティー全体に漂う。
「……いや、まぁ、強制ではないからとりあえず僕だけ先にやってみるよ」
「いや! 僕もやるよ! 腕が何回ぶっ飛んでも生きているなら問題ない」
ヘンリーが顔を上げて大きな声で言った。
「……わ、私も……リリーもやります」
「……たく、ノアが最初からちゃんと話をしていれば揉めなかったでしょ。今度から隠し事はなしよ! はい、じゃあ地獄の番犬の前で地獄の特訓しなさい!」
エミラが手を叩いてまとめる。笑ってヘンリーの背中を叩くノア。そして暫く訓練に時間を割いた。ティアはケルベロスを警戒しつつ、イフリートと技の精度をあげるために訓練を続ける。
ノアとヘンリーが自身の両腕にマナを集中させる。
「さぁ、もう一度だ。リリー! 焦らなくていいからマナの流れを感じるんだ!」
エアルヴァのサポートもあってなんとなく感覚をつかんできたリリー。二人のマナの特徴が徐々にわかってきた。そして一箇所に集中されていることも。
(あそこにこのエアルヴァの属性パワーをのせてマナを送る……)
「グアッ!」
ヘンリーとノアが同時に腕を抱えて倒れこむ。マナが暴発した。回復魔土術をかけるエミラ。
「すみません! 大丈夫ですか?」
「リリーは気にするな! 僕たちは大丈夫だよ! ほら!」
腕をブンブン振り回すヘンリー。
「もう一回やってみよう!」
ケルベロスが接近して攻撃を仕掛けるとティアが一撃を放って撃退する。ティアの炎の打撃にもかなり磨きがかかってきた。
「あの犬のおかげでかなりコツがつかめてきたわ。イフリート、これって連続技でもいけそうよね?」
『おう、ティアの気力と努力次第だ。俺の方は問題ねぇよ!』
ドン! 振り切った右腕は無事だ。大きな音とともに納得の表情を見せるノア。
「あっ! ノア、今のってもしかして上手くいったの?」
回復しながらエミラが尋ねる。
「コツは掴めた。まだまだだけど、リリーのマナと感覚共有するイメージを持てれば確率が上がるな……」
「ノア、少しでもアドバイスがあれば欲しいんだけど」
光明が差し込んだ瞬間だった。これはいけるとノア自身が感じることが重要だった。
(よし、ここから更にパーティー全体で精度を高めていけるぞ)
どれくらい時間が経過しただろうか。ケルベロスが呆れて寝てしまうほどに結界の中で長時間集中を切らさずにノアとヘンリーとリリーは訓練を続けていた。ティアからイフリートが離れて二人で戦略を練っている。エミラはもうマナを使い過ぎてヘトヘトだった。
「皆、これで問題ないとは言えないが、かなり希望が見えてきたと思う。そろそろ次のステージへと向かう準備をしようか」
全員がノアの言葉に頷いて答える。
結界を解いたエミラは最後に全員に補助魔土術のバフをかけてしゃがみこんでしまった。
「エミラ、ありがとうね! 本当にお疲れ様。あとは任せて」
「ちょっと後ろで休んでいるから、サラッとやっちゃって」
ケルベロスがむくりと起き上がって雄叫びをあげる。そして前方のノアたちに向かって中級魔土の大小様々な塊を飛ばして攻撃を開始した。
ノアのバリアでリリーとエミラは守られているが、残りの3人は構わずに前進している。
巨大なソイラの塊がヘンリーを襲う! しかし、ヘンリーが右手で払いのけるように触れた瞬間、ソイラの塊が粉々に砕け散った。
ノアとティアも塊を破壊しながらついにケルベロスと接近戦へ。三つの頭の一つがティアに噛みつこうと鋭い牙を立てて襲いかかるが、それを交わしてケルベロスの顎にアッパーカットを叩き込む。
「おいおい! ティア、もう少し優しく! 頭一個なくなったらケルベロスじゃなくなるだろ」
「ごめんごめん! まだ力のコントロールができなくて」
うな垂れる頭を無視して前脚でノアを吹っ飛ばそうとするケルベロスだったが、なんと右手でその大きな前脚の一撃を止めてしまった。
「すごいなぁ……リリーからのマナをしっかりと感じ取れるよ! 防御としても風は使えるね! 最高だよ!」
顔を赤くして喜ぶリリー。その表情を見て不安を募らせるエミラ。
「やっぱり肉球って柔らかいんだな。これでベッド作ったら気持ち良さそうだな……」
片脚をノアに取られたケルベロスがそのままノアの頭を噛みちぎろうと大きな口を開ける。
「喰らえ! ヘンリーショット!」
ヘンリーの右ストレートがケルベロスの顔面を綺麗にとらえる。ティアの一撃でびびっていたケルベロスが物理攻撃用結界を張っていたにもかかわらず、首がちぎれそうになるほどに頭が吹っ飛ぶとんでもない破壊力。真ん中の頭も気絶してしまった。残りの頭は一つだ。
「おい! ヘンリー! なんで胴体を狙わないんだよ! ティア以上にダメージ与えてどうするんだ! ていうかヘンリーショットって必殺技の名前か? 僕より先に技名をつけたのか!」
「いや、怒るところそこ? ポイントずれてるでしょ」
仕方がないと言わんばかりにノアが懐に潜り込んで強烈な連打。若干リリーの表情が険しくなったがなんとかノアの動きに合わせている。
そしてケルベロスを余裕で倒してしまった。しかも素手で。
「よし、回収していつか冒険者ギルドで売りさばくぞ! 肉球でベッド作ろうかな」
「いやぁ〜疲れたわぁ〜。もうだめだ」
ティアがその場で寝転がる。ヘンリーも同じ状況だ。座り込んで何も話さない。
「ここでマリーボイドを建てて一晩過ごして休憩しよう! 明日がダンジョンボスとの戦いだ!」




