第104話 ダンジョンの幻獣 02
「ノア、あそこに扉があるよ。開けたら滝があるのかな?」
ヘンリーが指差す先に大きな両開きの扉が見える。滝へと繋がるとは思うがまだまだ魔物が出てきそうだ。
「皆、ダンジョンのボスとかいるかもしれないし、大量の魔物が襲ってくるかもしれない。さっき話していたポジションで進んでいこう。油断しないようにね」
「いやいや、フォーリングディープで油断するバカなんて絶対にいないわよ」
「油断していなくてもやられるレベルなんだから」
ウンウンと皆が頷く。注意深く周りを意識しながら前進する。
「よし! 扉を開けるよ」
ノアとイフリートで扉を開ける。すると目の前にまたしても同じような大きさの広場が……いやここまで同じだと、最早試練の場としか思えない。中央に巨大な魔物が待ち構えている。
「あ、あ、あれ何? 顔が三つ」
「……ケルベロスよ」
『いやぁ〜さっきの牛もここの犬っころも俺は全く知らなかったぞ。えらい変わりようだなぁ……』
「イフリートが来た時っていつ頃なの? 以前来たって言ってたけど。十年前とか?」
エミラの問いにイフリートが首を振って笑って答える。
『200年くらい前だな』
「はぁ! 200年前? そりゃダンジョンも変化するわ! つい最近来たみたいな感じで説明しないでよ! この炎バカ」
『なんだよ急に。俺は一度も数十年前とか言ってねぇぞ! 嘘もついてねぇし。聞かなかったのはエミラだろ』
「おい! イフリート!」
『なんだよノア。お前まで文句言うのか?』
「あの犬っころから何かいい素材がゲットできると思うか? 僕の見立てでは無さそうなんだけど」
「どうでもいいでしょ! 地獄の番犬ケルベロスよ!」
エミラが怒鳴り散らすと同時にケルベロスがいきなり何かを放って来た。ノアがバリアをパーティー全体にかける。
ドガガガッ!
「なんだこれ! 中級魔土の塊じゃないか? アイツどうやって大量にぶん投げたんだ?」
珍しくノアが不思議そうに観ている。拳ほどのソイラの塊を止まることなく大量に撃ち込んでくるケルベロス。
「風魔土術じゃないかしら……単に中級魔土の塊を風で飛ばしているだけかと」
リリーの推測にノアが頷く。
「なるほどな! 風で物体を飛ばすか! その発想はなかったなぁ」
「感心してる場合じゃないわよ! ノアのバリアの中にいれば投石からは身を守れるけど」
「それにしてもあの頭が三つあるのって何か意味あるのかな? むしろ胴体一つなんだから非効率だよね。脳が三つあっても身体が――」
「分析はいいからまずはあいつを倒すことを考えて!」
エミラが握りこぶしをノアに向けて圧をかける。焦りながら激しく頷くノア。
「直接重い打撃を与えられるとまずわね」
ティアとヘンリーが胴体を無視して頭を狙って攻撃しようと作戦をたてている。そこにノアが待ったをかけた。
「ヘンリー、ティア。いいか、よく聞いてくれ。あの頭三つを斬り落としたらダメだ」
「…………また面倒なことをお兄ちゃんが言い始めたわ」
「ノア、後ろでエミラがブチギレてるよ。正直、僕も剣で斬るなと言われたらどうすればいいかわからないな。何か作戦はあるの?」
『俺の炎で燃やすか? 黒焦げにしてやるぞ』
「待て待て! 皆、冷静に聞いてくれ」
激しい投石攻撃をバリアで防ぎながらノアが真剣な顔で皆に伝える。
「あいつ、形が面白いから剥製にしたい。だから斬撃や炎撃はダメだ」
「「「……はぁ? 剥製? ケルベロスを剥製に?」」」
大笑いするイフリート。リリーも微笑んでいる。鬼の形相で睨みつけるエミラ。流石にティアとヘンリーもノアの要望には同意できないと反応する。
「あんなに大きな幻獣なんだよ? ちょっと考えただけでも僕らの打撃では倒せないのは一目瞭然だよ!」
なんてまともな意見を言ってくれるんだとヘンリーに対して更に強い仲間意識が芽生えるエミラ。ティアもヘンリーに同意してノアに魔土術での攻撃許可を訴えている。
希望の剣パーティーにとってここまでリーダーの意見に反対したことは今までなかったが、流石にパーティー全滅の危機を悟ったのだろう。
『まぁ、待て。ノアよ。そなたに何か考えがあるのだろう? まずはそれを話せ。妾はむしろ期待しておるぞ』
エアルヴァが出て来て直接話しかけてきた。さすがに精霊の意思となるとボスのエミラでさえも聞くしかない。
「あなた、本当に何か考えがあるの?」
エミラにボコボコにされて地面に横たわっていたノアがムクッと起き上がってニヤリと笑って答える。
「もしも、剥製にできなかったらその時は街に着いた時に冒険者ギルドへ売りさばこうと思っている。多分SS級くらいの扱いで高値になると思う」
「そっちの考えじゃないわよ! 戦いで何か策があるのかって聞いているのよ!」
「いや、あの犬っころが今もお手本を見せてくれているじゃないか。僕らの打撃が通じるかどうかは魔土術の使い方にあるんだよ」
「「「えぇ? 」」」
「ここで僕らの戦闘レベルをもう一段階上に高めるための訓練をしておこうと思ってね」
「お兄ちゃん、どういうこと? 低級魔土とかを風で飛ばしてケルベロスに当てるってこと? そんなのあいつに効くとは思えないわ」
ティアと同じことを考えたリリーとヘンリーがノアに同様の反論をするがノアは首を横に振って説明する。
「そうじゃなくて、僕らの打撃を風と炎の力で爆発的な必殺の一撃へと変えるんだ」
「……必殺の一撃」
ティアの表情が一変する。やりたそうだ……とてもやってみたそうな顔つきになっている。
これはまずい展開になりつつあると悟ったエミラがヘンリーを巻き込んで否定しようと思ったが、ヘンリーもワクワクしてノアの話の続きを待っている。振り向いてリリーの表情を……やはり同じだった。諦めて従うことを決める。
「そもそも炎や風は敵に向かって放つだけの魔土術ではないってことだよ。弱めれば生活においても重要な存在であり、強めれば敵を燃やしたり、吹っ飛ばしたり。武器を造るためにも必要だしね。要はどうやって活用するかってことさ」
ベタ褒めされて満更でもない表情を見せる炎と風の精霊。ウンウンと嬉しそうに頷いてノアの話を聞いている。
「で、それをどうやって活かすの?」
ティアがワクワクしながらノアを急かす。相変わらずケルベロスの投石攻撃は勢いを増して続いているがノアは一切慌てない。
「まずティアは炎を纏ってパンチ。これはティアにしかできないことだ。そしてリリーと僕とヘンリーは風の衝撃を力に変えて攻撃するぞ!」
「…………」
誰もリーダーの言っている意味を理解できなかった。




