第103話 ダンジョンの幻獣 01
下層へどんどん下りていくノアたちの前に大きな扉が現れた。
「お? やっと螺旋の坂道一辺倒だったダンジョンにも変化が?」
ヘンリーが嬉しそうに話すがノアは険しい顔している。
「皆、中に多分かなり強い魔物がいるぞ」
気を引き締めて重厚なハイソイラブロックの扉を開ける。
ゴゴゴ……
扉の奥はただの広い空間だった。中央に大きな魔物がいる。ノアたちを待っていたかのようにゆっくりと動き出す。
「んん? でっかいツノが生えた白い牛? かしら。翼もあるわね。変なの」
ティアの表現と明らかに強大な威圧感を前にエミラは確信する。
「あ、あれは……幻獣カトブレパスだわ……皆! 気をつけて奴が放つ光をまともに観てはいけないわ!」
その時、魔物が強烈な閃光を放ち、前衛のティアとヘンリーが石化されていく。
「ぐ……しまった……え、エミラ」
とっさに屈んで目を閉じたエミラとリリーは石化を逃れ、回復魔土術の詠唱を始める。エアルヴァが大丈夫と説明したからか、リリーは石化されたティアを見てもパニックにならずに二人を風で安全な後方へ運ぶ。そしてノアとイフリートは光を回避するように姿を消していた。
《まともにあの光を見てしまうと全身が石化してしまうの。もう少し待っていて。回復魔土術をかけてみるから》
エミラが急いで渾身のハイソイラを唱えるが2人の石化が解除されない。そしてカトブレパスが陣形を整えていないエミラたちに向かって口をあけた。
『魔土術を仕掛けてくるぞ! ここは妾が防ぐ!』
エアルヴァがリリーから出て来た。そして砲撃のような威力の魔土術をなんとか風で受け流す。
その間、エミラが状態異常回復の魔土術をかけて二人の石化を徐々に解いていく。身体はまだ動かない。
「ごめんエミラ! 何回か魔土術をかけてもらっていい?」
「わかったわ!」
エミラが苦戦している中、カトブレパスが再び攻撃体制に入ったその時、天井にぶら下がって様子を見ていたノアとイフリートが勢いをつけて急降下して、カトブレパスのツノを二本とも根元からぶった斬る!
『おっしゃあ! これで変な光線出せねぇだろう! このツノへと魔素を集中させて前方へ光を放つのがお前の必殺技だ!』
「おいイフリート! その腕が炎の剣になっているの、僕のレアラグローバのスタイルをパクっただろ! 完全に同じじゃないか!」
『い、いいじゃねぇか! かっこいいって俺が認めてやったんだからよ! 細かいこと気にするなよ』
「開発した武器や戦闘スタイルは僕にとってアイデンティティなんだから気を使ってくれないと困るよ。まぁ、今回はいいよ。ただし片腕だけだよ!」
なんてくだらない事でもめているんだ。子供なのか大人なのかよくわからないやりとりだとエミラはいつものように呆れている。目の前に幻獣がいて戦っている最中なのに。なんならお前の妹が石化されたぞと。
「ちょっと! ツノ折っただけじゃ死なないわよ! なんとかして!」
ノアたちが言い争っているうちに、なんとカトブレパスのツノが再び生えてきた。
「嘘でしょ……ツノを斬ってもまた生えてくるなんて……」
エミラが詠唱を終えて魔土術を放つ。そして再び詠唱を始める。まだまだティアとヘンリーの石化は完治しそうもない。最悪だ。こんな状況でツノが復活するなんて……
「おいおい、この牛最高だな! これでツノが取り放題だ! イフリート、どんどん斬って回収するぞ」
『おう! ガンガン素材集めだ!』
そして1時間が経過した。
「よっしゃあ! カトブレパスのツノを50本ゲットだ!」
『大分溜まったな。ちょっと最後の方、あいつ疲れて再生スピード遅くなっていたな』
「モ、モ〜」
「牛っぽく泣いたってダメだよ。もっとツノ出して。君は貴重な幻獣だからここで稼げる分はしっかり稼がせてもらうよ!」
幻獣カトブレパスがノアとイフリートを前にかなり弱気になっている。
(タックル、魔土術、炎、突風など、何をしてもダメだった。こいつら強すぎる……このままではツノ再生に全魔素を使用してコアが壊れてしまう……)
幻獣の勘がそう囁く。
「よっしゃあ! 完全回復! エミラありがとう!」
ヘトヘトのエミラにお礼を言った後、カトブレパスをギロリと睨みつけるティアとヘンリー。
「よくもやってくれたわね。変態猛牛。ステーキにしてやるわ」
ティアが今にも爆発しそうだ。
「もしかするとお肉も再生するのかしら?」
大切なティアを石にされてブチ切れているリリー。
「リリー! それはすごくいい考えだ! 早速肩肉からいただこう。今日は牛肉BBQパーティーだ!」
自分はとんでもない人族に手を出してしまったみたいだ。弱気なカトブレパスが後悔しながらノアに訴えかける。
「……モ〜」
「何? どうでもいいから早くツノをもっと生やしてよ」
『ノアよ。どうやらソヤツはノアにテイムして欲しいようじゃぞ』
エアルヴァがノアに伝える。この魔物にもはや戦闘の意思はないと。
「…………へ? テイムってこの牛を飼うって事?」
『そうじゃ。どうやらお主の存在に完全敗北を本能で認めると同時にお主の力になりたいと思ったのだな。妾とリリーの精霊契約に近いものだが、テイムすれば今後好きなときにソヤツを呼び出せるぞ』
「……えぇ、こんな石化しか能のない牛って役に立つの?」
『い、いや……普通幻獣をテイムできるチャンスなんてないから喜ぶべき事だと思うのだが……』
「お兄ちゃん! 私やられっぱなしでこのままじゃおさまらないわ! せめて一発でかい炎で燃やす事を許してよ!」
手のひらに大きな炎を生み出してカトブレパスを睨みつけるティア。後ろにはウインドアローを引いて眉間に突き刺す気満々のリリーがいる。
「まぁまぁ、ちょっと待ってくれ! いいこと思いついた。こいつのツノで武器作ってあげるから怒りを鎮めてよ」
ノアが2人をなだめて再びカトブレパスの方に歩み寄る。
「お前、僕と一緒に旅をしたいんだな?」
頷くカトブレパス。
「多分、辛い旅になるぞ。それでも僕の言うことに従うと誓うか?」
カトブレパスのコアがノアと共鳴する。
『そなた、今幻獣をテイムしたぞ。これで獣魔使い<ビーストテイマー>になったな』
「えぇ? その職業みたいな表現やめてよ。僕はモグラーで発明家で冒険家だ」
『いや……うん。まぁ、それはいいのだが……とりあえず、アイテム袋に幻獣を入れておくといいだろう。後ソヤツに命名してやれ』
ノアがカトブレパスの方を見る。
「名前かぁ……よし! 今日からお前はイシパス(石パス)だ!」
(さ、最悪のネーミングセンスだ! 幻獣がかわいそう。グリフォンのマリリンくらい悲惨だ!)
全員が憐れむ目で牛を見つめる。がイシパス本人は嬉しそうだ!
「よし! イシパス、とりあえずここに入れ!」
イシパスがアイテム袋に収納されて戦いがあっさり終わった。




