第100話 謎のダンジョン 07
「キャー!」
崩れ落ちるリリーゴーレム。ヘンリーとノアがリリーとエミラを抱えて避難する。
「そ、そんな……リリーの大切なゴーレムが……」
粉々になってしまったゴーレムの残骸を見て動揺するリリー。大声で喜ぶドブリンキング。ティアが慰めようと近寄ろうとしたその横で、両膝が砕けるように地面に這いつくばってうな垂れるノア。
「お、お兄ちゃん? だ、大丈夫?」
「僕の傑作が……僕の血と汗の結晶が……」
「いや、そんなに苦労してないでしょ……」
エミラのツッコミなんか耳に入ってこない。リリー以上にショックを受けるノアにヘンリーが焦りながらゲキを飛ばす。
「ノア! ドブリンキングが目の前にいるんだよ! 一旦悲しみはしまって戦いに集中するんだ!」
そんなヘンリーの肩をぽんッと叩いてイフリートが首を振る。
『ショックなんだぜ。壊されるのってよ……俺も最近エアルヴァに傑作の祠をボコボコに吹っ飛ばされたからよくわかる。そっとしておいてやれ』
「いや、だから今戦闘中だろ!」
大笑いするドブリンキングにゆっくりと立ち上がるノア。うつむいてブツブツ言っている。
「……さない…………許さないぞ……ドブリンキング、お前だけは絶対に許さないぞ!」
ゴゴゴゴ……地面が大きく揺れる。地面に転がる魔土のカケラが浮き上がるほどにマナが溢れ出ている。
「ちょっ、ちょっと待って。怒るところそこなん? コアが破壊されたから?」
エミラのツッコミなんて今のノアには聞こえない。今は自身も驚くほど、ドブリンキングに対する怒りが強大過ぎて、抑えていた力を制御できない。そんなノアの様子を見て身の危険を感じたのか、ドブリンキングが2、3歩後ずさりする。
そしてノアがフッと消えた。焦るドブリンキングの目の前に現れて、手刀で盾を持つ腕を切り落とした。
「ウガァ! ウガガガ!」
苦しむドブリンキングを見てノアが両脚も手刀で切断する。
「お前の苦しみなんて、リリーゴーレムがコアを失う苦しみに比べたらゴミ同然だ!」
「…………いきなり手足失うのも結構辛いわよ」
エミラが少し呆れている。アイツは本気なのか? それとも冗談なのか?
混乱しながらも剣を強引に振り回し抵抗するドブリンキングの脳天にオリジナル魔土術<炎槍>を至近距離で撃ち抜いて全てを終わらせた。
「ウオォー! リリーゴーレム! お前の仇はとったぞ! 安らかに眠ってくれ」
叫びと共に体内のマナを一気に解き放つ!
「そ、そんなに? そんなにショックなの? また作ればいいんじゃないの? ていうかさっきゴーレムのコア四つもゲットしてたよね!」
ヘンリーのツッコミすら聞こえない。それくらいに悲しみを背負ってしまったノアにイフリートが慰めの言葉をかけると急に元気を取り戻した。
「イ、イフリート。一体どうやってノアを復活させたの?」
リリーの問いに笑って答える。
「簡単さ! 次は俺も手伝ってやるからもっと強いゴーレム作れるぜって言っただけだ」
「「「………………」」」
「よし! 皆! ドブリンキングの盾と剣を回収するぞ! でっかいから一緒にアイテム袋に入れるの手伝ってくれ!」
「……ていうか、その強さを最初から出しなさいよ」
こうして無事にドブリンの巣を突破した希望の剣であった。
その後も順調に魔物を狩り続けて下層へと降りていく。
そしてヘンリーはずっと気になっていることを皆に尋ねてみる。さっきのノアのマナ解放の時から何か音が……
「ねぇ、皆。このザァーって音、一体なんだろう? さっきのノアの戦いの後から聞こえ始めたんだけど……」
「ティアは何か聞こえる?」
「いえ、何も……あぁ、確かに少しだけ何かが聞こえている気はする……」
『水だよ。水が上から落っこちてんだよ。その音がまだ遠くてザァって感じに聞こえてるだけだ。魔物じゃねぇから気にするな!』
「水? 落ちる?」
全員がまだ理解できていない。そしてノアだけがこれまでの状況から理解したようだ。
「おい! イフリートそれはもしかして滝じゃないか! 大量の水が流れ落ちる場所だ!」
その時、ミネルヴァが思い出したような表情を見せる。
『それじゃ! 滝! この地の通り名は滝じゃったぞ!』
滝と聞いてエミラが震えだす……
「う、嘘でしょ……滝? それなら確かに<ガイア創世記>にも記述が一つだけあったわ……『奈落の滝 フォーリングディープ』っていう地獄の地だって」
『そう! エミラよ。それじゃ! フォーリングディープじゃ! あぁ、やっと思い出せたわ。妾の中にあったモヤが晴れた気分じゃ』
ミネルヴァの晴れた表情とは真逆にどんどん青ざめていくエミラ。
「な、な……なんですって? 嘘でしょ? そんなバカなことが……」
今度はエミラが膝から崩れ落ちる。先ほどのノアとは違って相当重い状況のようだ。
「お姉様、どうされたのですか?」
姉の異変に気付くリリー。そしてティアとヘンリーも心配そうにエミラに近寄る。
「エミラ、顔色が急に悪くなったわよ。どうしたの?」
「フォーリングディープってね、私も知っているのよ。有名なガイアの冒険家が絶対に近寄ってはならないと注意を促していた地獄の地と言われている場所なの」
「「「……え?」」」
「生きて脱出することは極めて困難と言われている場所なのよ!」
「おい! イフリート見ろよこれ! レアラじゃないか? やっぱりレアラもここに眠っているんだよ! お宝ザクザクだぁ!」
『最高だな! 後はここを出た後にどこかで製作に集中してえなぁ……楽し……』
「やかましい! ソイラマニアブラザーズが! ここを出ることが難しいのよ!」
「どうしたのエミラ? なんかいつも以上に怖い顔して。美人顔が台無しだよ」
『もっとよ。心に余裕を持てよな。俺様みたいに』
「あのね…………あんたらが原因でこうなっているのよ!」
絶望を突きつけられたエミラの横でキャッキャと楽しそうに魔物から素材を回収して笑っているノアとイフリートの顔面に思い切りパンチを打ち込む!
「最初からちゃんと説明しろ! フォーリングディープってわかっていたら来るわけないでしょ!」
「エミラそれは僕のせいじゃなくてイフリートだろ! それに奈落の滝を見れるんだからよかったじゃないか! 一度きりの人生なんだから楽し――」
再びぶん殴られて吹っ飛ぶノア。大笑いするイフリートにため息をついて諦めるエミラ。
「もういいわ。確かここは一度入ったら踏破するまで出られないと言われている場所。開き直って頑張るしかないわね」
「あんたら! 早く起きなさいよ! 次の安全なポイントまで一気に行くわよ!」
自分でぶん殴って吹っ飛ばしたノアを怒りながら叩き起こして前進する。
「ほ〜ひ、いんは! はんはふほ〜(よ〜し、みんな! 頑張るぞ!)」
ボコボコになった顔でノアがパーティを率いて再び前進を始める。
「ボスはやっぱりエミラだね……」




