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魔導騎兵が動くのは、俺が毎晩直していたからです ~産廃機と壊れたAIで、全ゲームの兵器を整備する~  作者: 勇者ヨシ君
【第二部 整備士が足りない】

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第35話 合体しない(前編)

【オサム視点】


 転移から七十四日目の昼、ザルツの格納庫に、王都からの早馬が一通の手紙を届けた。差出人の名はなく、封蝋の代わりに、帳簿の紙の端を折り込んだだけの封がしてあった。だが俺には、その字を見れば、誰が書いたかは分かった。左手で紙を押さえ、右手で、顔を上げずに書くあの女の字だ。十二年、ギルドの記録はこの字で書かれていた。その手紙には、三行しかなかった。


 ――第六十九日。PL(パラディオン)-21M(整備支援型)、王国の査定により値打ちなし。所有者なし。

 ――同日、乗り手スパナ、王都を発つ。行き先、ザルツ。

 ――同機の連続稼働は一時間二十分、冷却に三時間。以上、記録のみ。


 読み終えた手紙を作業台に置くと、横から覗き込んでいたドレイクが、獣人の大きな耳を立てた。


「スパナさんっスか。……あの人、本当に、三百人分の機体を一人で見てたっスよ。俺が乗ってた機体も、膝が沈むたびに、夜のうちに当て板(シム)が増えてたっス。誰がやってるのか、俺、ずっと知らなかったっスけど」

「知ってる奴は、いなかったんだろうな」

「オサムさん、知り合いなんスか」

「……どうだろうな。知ってる気はするんだが。顔を見たことは、たぶんない」


 一時間二十分動いて、三時間冷ます。それを一日に四回繰り返して、ようやく百キロ進めるかどうかの機体だ。王都からザルツまでは八百キロある。六十九日目に発ったなら、今日で六日目、順調に行程が進んでいれば、ザルツの北二百キロの、王都街道の最後の水場あたりに差しかかる頃だと考えられた。


 原作では、王都からザルツへ下る街道の最後の水場は、石組みの涸れ井戸だった。そして涸れ井戸の真下には、砂潜り(サンドダイバー)の巣があった。水を求めて井戸に寄ったプレイヤーを、六体の砂潜りが下から囲むのが、第一章の街道の定番の罠で、攻略wikiには『涸れ井戸で休むな。休むなら、井戸から五十メートル離れろ』と太字で書かれていた。冷却に三時間かかる機体は、水場で休むしかないのに、休む場所は、涸れ井戸しかない。


「フィーネ。RX-07H(レクス・ベヘモス)改(リファイン)を出す。明後日の昼までに、北の涸れ井戸に着く。ドレイクもついてこい」

「はい! ……あの、迎えに行くんですか? スパナさんを」

「迎えに行くというよりは、モンスターの巣の上で休ませないために行く」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【ギルド視点】


 第六十九日の朝、グランツ王都の練兵場に、三機の騎兵が並んでいた。


 どれも、騎兵としては小ぶりな、九メートルほどの機体だった。白と青と黄に塗り分けられ、それぞれの背中と肩に、合わさるための噛(か)み合わせの金具が剥き出しになっている。王都の東の石切り場の底で、乗り手のいないまま三機並んで止まっていたのを、王国の鉱夫が見つけたのだ。どの国の型式でもなかった。胸の板に、三身合神(トライ・ユニオン)グレイヴと刻まれていた。王国の鉱夫には分からなかったが、元ギルドの何人かは、その形を見ただけで察しがついた。北の凍土で見つかったダイガストと同じ、スーパーロボット系の機体だ。それも、三機が一つに合わさる、合体ロボットだった。


 王国は、前日に騎士団から徴収した十機の代わりに、この三機を騎士団に貸すと言った。条件は一つ、合体させて見せること。三機が一機になれば、騎士団の騎兵として返す。なれなければ、三機とも王国のものとする。


 レオンハルトは、乗り手を数字で選んだ。騎士団の名簿の中から、操縦(ライディング)の数字が上から三番目までの三人。一人は元の副団長格で、残りの二人は、互いに口をきかない仲だった。


 練兵場の端に、小柄な人影が、型落ちの機体の足元に座っていた。前髪が目にかかったつなぎ姿の乗り手で、工具を握る右手の下に、必ず左手を添えていた。スパナは、合神機が石切り場から運び込まれた夜から三晩、三機の操縦席(コックピット)を一つずつ開けて、中を見ていた。


 操縦席には、それぞれ一本ずつ、見知らぬゲージがあった。乗り手の気持ちで上下する目盛りだ。そして三機の背中の噛み合わせの金具には、小さな字で、同じ一行が刻まれていた。


 ――三つの気、揃わざれば、合わず。


 スパナは、その一行を紙に書き写して、シズクに渡していた。シズクは、それをレオンハルトに渡した。レオンハルトは紙を一度読み、副官の机の上に置いた。


「選んだのは、操縦のステータスが上位の三人だ。数字が揃っていれば、気持ちなど揃わなくても動かせるだろう」


 合体の号令は、レオンハルトの声で三度かけられた。三度とも三機は跳んだが、一度目は白い機体が早く跳びすぎ、二度目は黄の機体が遅れた。三度目、三機は同じ高さまで跳んだが、噛み合わせの金具の向きが、三機ともばらばらだった。


 青い二号機が、白と黄のあいだに挟まれた。金属が噛み合わずにぶつかる音が、練兵場の端から端まで響いた。三機は地面に落ち、白と黄は膝をついて起き上がったが、真ん中の青い二号機は、胸が半分潰れたまま動かなかった。王国の兵が操縦席をこじ開けた時には、中の乗り手は、もう息をしていなかった。


 レオンハルトは、練兵場の真ん中で、潰れた二号機を見下ろしていた。誰も、彼に次の号令を求めなかった。


 王国の査定役が練兵場を回ってきたのは、その日の午後だった。三機の合神機は王国の目録に書き込まれ、査定役は最後に、練兵場の端の型落ちの機体の前で足を止めた。背中に部品の棚を背負い、肩から二本の工具の腕を生やした機体だった。王都の騎兵が全部止まっていた五十日のあいだ、この機体だけが、毎日動いていた。


「整備支援型。武装なし。王国の役には立たん。……査定、値打ちなし」


 査定役が帳面に書き込んで去っていくと、スパナは型落ちの機体の操縦席に上り、ハッチを閉めた。機体は、練兵場の門へ向かって、ゆっくり歩き出した。誰も止めなかった。記録室の窓から、シズクがそれを見ていた。彼女は帳簿の新しい頁に、「放棄」と一語だけ書き、それから、早馬に持たせる手紙を三行で書いた。


【PL(パラディオン)-21M(整備支援型) 査定額 0ヴァル】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦



【オサム視点】


 七十六日目の昼、王都街道の最後の水場が見えてきた。


 乾いた草の平原の真ん中に、石組みの丸い井戸が一つ、ぽつんと残っている。井戸の縁から五メートルのところに、背中に部品の棚を背負った型落ちの機体が、片膝をついて止まっていた。肩から生えた二本の工具の腕は、だらりと地面に垂れている。機体の背中の排熱口から、陽炎が立っていた。冷却の途中だ。


 そして、井戸の周りの地面が、六か所、同時に盛り上がり始めていた。


「フィーネ、出ろ! 井戸と機体のあいだに立て!」

「はい! ――ベヘモス、行こう。RX-07H(レクス・ベヘモス)改(リファイン)、出ます!!」


 継接(ツギハギ)の隣で、紺の重装甲の機体が、六十八トンの体を前へ傾けた。左右で色の違う脚が、乾いた草を踏み抜いて走り出す。冥鉱(アビス・オア)の黒い右脚と、機都の灰色の左脚が、交互に地面を叩く。膝の軸受けは新しく、沈み込みはもうない。フィーネは井戸の手前で機体の向きを変え、型落ちの機体の前に、肩の盾を構えて立ちはだかった。


 最初の砂潜りが、地面を割って跳び出した。四メートルの体が、黄土色の甲殻(こうかく)を光らせてベヘモスの盾に頭からぶつかり、跳ね返されて草の上を転がる。二体目、三体目が左右から回り込み、盾の脇を抜けて、片膝をついた型落ちの機体の脚へ鉤爪を伸ばした。


「ドレイク、鋲を寄越せ!」

「はいっス!」


 ベヘモスの肩にしがみついていたドレイクが、鋲の木箱を抱えて飛び降りた。俺はツギハギの右腕の鋲打銃(リベット・ガン)に新しい鋲を込めさせ、回り込んできた砂潜りの、前脚の付け根を狙った。


 ドンッ。


 鋲は一発で前脚の継ぎ目を貫き、甲殻と甲殻を一本の鉄で留めた。前脚が動かなくなった砂潜りは、その場で横倒しになって砂を掻く。二発目は外れ、三発目が四体目の顎の蝶番(ちょうつがい)に入った。操縦Dの腕では、三発に一発がせいぜいだった。それでも、Eだった頃よりは、外れた鋲が味方の足元に刺さらなくなっていた。


 五体目と六体目は、型落ちの機体の真下から来た。地面の下から突き上げてきた甲殻の背中が、片膝をついた機体の膝を下から持ち上げ、機体が横へ傾いた。冷却の途中で、動力が息をしていない機体は、自分で踏ん張ることができない。工具の腕が地面を掻いて、どうにか倒れずに持ちこたえていた。


 俺はツギハギのハッチを開けて、機体の肩から飛び降りた。草の上を走り、傾いた機体の足元へ潜り込む。真下から突き上げている砂潜りの、背中の甲殻の継ぎ目に当て板(シム)を叩き込み、八十キロのレンチを噛ませて、筋力千で捻(ひね)った。


 バキィッ。


 甲殻の継ぎ目が外れて、五体目の背中が割れ、砂潜りは機体の膝を下ろして地面の下へ逃げようとした。逃げる尾の付け根を、ドレイクが両腕で抱えて引き止めた。生身の筋力で砂潜りの尾を抱えるのは、ドレイクの体には重すぎる仕事だったが、彼は顔を真っ赤にして、三秒だけ持ちこたえた。三秒あれば、六体目の顎の蝶番に手が届いた。


 ゴキッ。


 六体の砂潜りが、一体残らず、井戸の周りの草の上で動かなくなった。


 型落ちの機体は、傾いたまま止まっていた。排熱口の陽炎は消えていたが、計器は灯っていない。冷却の途中で無理に体をひねったせいで、魔導炉(マギ・リアクター)の調律が狂ったのだ。このまま次の冷却を待っても、自分では立てない。


「修理(リペア)」


【意志指令(マインド・オーダー) 修理(リペア) WP30/残100】


 VGOでは、拠点に戻れば全部が直ったので、誰も使わなかった指令だ。俺は型落ちの機体の脚の装甲に手のひらを当てた。手のひらの下で、狂った調律の目盛りが一つずつ元の位置へ戻っていくのが、指の骨に伝わってくる。修理職(リペアクラス)の指令の中で、攻略wikiが『ハズレ』とだけ書いた一つだった。


 計器が灯った。型落ちの機体は、工具の腕で地面を押して、自分の脚で立ち上がった。

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