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魔導騎兵が動くのは、俺が毎晩直していたからです ~産廃機と壊れたAIで、全ゲームの兵器を整備する~  作者: 勇者ヨシ君
【第二部 整備士が足りない】

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幕間 現実側の記録 其の一

報道の記録


【発生翌朝/ニュース速報の文字起こし】


 オンラインゲーム『ヴァルハラ・ギア・オンライン』のサービス終了処理の直後に、全国で利用者が意識を失い、病院に搬送(はんそう)されています。

 現時点で確認されているのは、年齢も住所もばらばらの三千人前後。いずれも自宅やダイブ喫茶の個室、会社の仮眠(かみん)室などで、フルダイブ用の筐体(きょうたい)に横たわったまま、目を覚まさないのが見つかりました。呼吸と脈はあります。呼びかけには反応がありません。

 運営するアステリオンは、午前九時に会見を開くと発表しました。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【第一週/運営会社の会見要旨(ようし)】


 登壇(とうだん)したのは社長の久我(くが)誠一(せいいち)氏(五十八)と、技術担当役員の二名。

 久我氏は冒頭で深く頭を下げ、約四十秒、顔を上げなかった。


 ――原因は。


「現在、調査中です。サーバー側のログには、異常と呼べるものは確認されておりません。サービス終了の手順は、予定どおりに完了しております」


 ――機器の不具合ではないのか。


「筐体は規格品で、十二年間、同じ仕様で出荷しております。同様の事例は、これまで一件もございません」


 ――長時間のダイブを防ぐ、強制切断の安全装置は。


「発生の夜、切断の信号は、全台に正常に発信されております。ただ、受信した筐体の側が、応答しておりません。原因は調査中です」


 ――新作への移行計画が、無理に前倒しされたという指摘がある。


「移行そのものは、一年前から公表している計画です。前倒しの事実はありません」


 質疑(しつぎ)は四十分で打ち切られた。会場の後方で、家族とみられる女性が「うちの子の名前を、まだ一度も呼んでくれていない」と声を上げたが、司会は次の質問者を指した。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【第二週/朝刊・社会面】


 接続者のうち二十二人の死亡が確認された。いずれも搬送先の病院で、循環器(じゅんかんき)の急激な悪化により亡くなった。

 直前まで容体は安定していたという。医師の一人は「心停止の前兆(ぜんちょう)が、記録上どこにもない。装置を外していたわけでもなく、点滴(てんてき)も入っていた」と話す。

 運営会社は「死亡との因果関係は調査中」とした。所管省庁は、全国の搬送先に向けて、同様の症例を直ちに報告するよう通知を出した。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【第四週/国会・委員会 参考人(さんこうにん)質疑の抜粋(ばっすい)】


 ――久我参考人にうかがいます。開発の現場責任者から、事情は聞けていますか。


「聞けておりません。開発部門の社員二名も、発生の夜から意識が戻っておりません。二十代の女性と、四十代の男性です。二人とも、サービス終了の当夜は社内で最終確認の作業にあたっておりました」


 ――同じ状態ということですか。


「はい。開発室の筐体に横たわったまま、翌朝、警備が発見しました。ただ、二人は一般の利用者とは立場が異なります。サービスの終了処理に、操作の権限を持っていた者です」


 ――その二人が、原因を知っている可能性は。


「否定はできません。社内ネットワークに最後にログインした記録は、その夜の二十三時四十八分。その後の操作履歴(りれき)は、現在解析中です。本人たちに事情を聞くことができない以上、記録に頼るほかございません」


 ――本人に聞けないことを、いつまで待つのですか。


「……お答えできません」


 質疑は終了予定を二十分過ぎた。委員長が、二名のアカウントの操作履歴の解析を最優先とするよう求めた。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【第六週/被害者家族会の声明(抜粋)】


 私たちの家族は、毎日、点滴と栄養剤で生かされています。

 体は温かいです。爪(つめ)も髪も伸びます。昨日、娘の髪を切りました。病室の窓際で眠る娘の寝顔は、あの子が小学生の頃から変わっていません。


 それでも、三十一人目の方が亡くなったと聞いた朝、私たちは病棟の廊下(ろうか)で、誰も口をきけませんでした。

 どうか、死んだ人の数を、「約」で言わないでください。

 一人ずつ、名前で数えてください。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【第七週/経済面】


 アステリオンは裁判所に破産(はさん)を申し立てた。負債(ふさい)総額は約四百十億円。被害者への補償(ほしょう)を巡る訴訟が相次ぎ、資金繰りが行き詰まった。

 久我社長は同日付で辞任(じにん)した。


【第九週/朝刊・社会面】


 東雲(しののめ)ホールディングスは、破産手続き中のアステリオンから、被害者の生命維持とモニタリングに関する事業を承継(しょうけい)すると発表した。

 接続者のうち生存する二千九百三十一人を、国内の大型施設である「第三仮設病棟」に順次集約する。死亡は累計で六十九人。調査を担当する被害者対応室の責任者は、記者会見で次のように述べた。


「原因は、現時点でサーバー側の障害の可能性が高いと見ています。復旧の見通しは立っていません。復旧するまで、お一人も、欠かさず維持します」


 意識が戻らない開発社員二名のアカウントの解析は、いまも続いている。

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