幕間 現実側の記録 其の一
報道の記録
【発生翌朝/ニュース速報の文字起こし】
オンラインゲーム『ヴァルハラ・ギア・オンライン』のサービス終了処理の直後に、全国で利用者が意識を失い、病院に搬送されています。
現時点で確認されているのは、年齢も住所もばらばらの三千人前後。いずれも自宅やダイブ喫茶の個室、会社の仮眠室などで、フルダイブ用の筐体に横たわったまま、目を覚まさないのが見つかりました。呼吸と脈はあります。呼びかけには反応がありません。
運営するアステリオンは、午前九時に会見を開くと発表しました。
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【第一週/運営会社の会見要旨】
登壇したのは社長の久我誠一氏(五十八)と、技術担当役員の二名。
久我氏は冒頭で深く頭を下げ、約四十秒、顔を上げなかった。
――原因は。
「現在、調査中です。サーバー側のログには、異常と呼べるものは確認されておりません。サービス終了の手順は、予定どおりに完了しております」
――機器の不具合ではないのか。
「筐体は規格品で、十二年間、同じ仕様で出荷しております。同様の事例は、これまで一件もございません」
――長時間のダイブを防ぐ、強制切断の安全装置は。
「発生の夜、切断の信号は、全台に正常に発信されております。ただ、受信した筐体の側が、応答しておりません。原因は調査中です」
――新作への移行計画が、無理に前倒しされたという指摘がある。
「移行そのものは、一年前から公表している計画です。前倒しの事実はありません」
質疑は四十分で打ち切られた。会場の後方で、家族とみられる女性が「うちの子の名前を、まだ一度も呼んでくれていない」と声を上げたが、司会は次の質問者を指した。
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【第二週/朝刊・社会面】
接続者のうち二十二人の死亡が確認された。いずれも搬送先の病院で、循環器の急激な悪化により亡くなった。
直前まで容体は安定していたという。医師の一人は「心停止の前兆が、記録上どこにもない。装置を外していたわけでもなく、点滴も入っていた」と話す。
運営会社は「死亡との因果関係は調査中」とした。所管省庁は、全国の搬送先に向けて、同様の症例を直ちに報告するよう通知を出した。
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【第四週/国会・委員会 参考人質疑の抜粋】
――久我参考人にうかがいます。開発の現場責任者から、事情は聞けていますか。
「聞けておりません。開発部門の社員二名も、発生の夜から意識が戻っておりません。二十代の女性と、四十代の男性です。二人とも、サービス終了の当夜は社内で最終確認の作業にあたっておりました」
――同じ状態ということですか。
「はい。開発室の筐体に横たわったまま、翌朝、警備が発見しました。ただ、二人は一般の利用者とは立場が異なります。サービスの終了処理に、操作の権限を持っていた者です」
――その二人が、原因を知っている可能性は。
「否定はできません。社内ネットワークに最後にログインした記録は、その夜の二十三時四十八分。その後の操作履歴は、現在解析中です。本人たちに事情を聞くことができない以上、記録に頼るほかございません」
――本人に聞けないことを、いつまで待つのですか。
「……お答えできません」
質疑は終了予定を二十分過ぎた。委員長が、二名のアカウントの操作履歴の解析を最優先とするよう求めた。
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【第六週/被害者家族会の声明(抜粋)】
私たちの家族は、毎日、点滴と栄養剤で生かされています。
体は温かいです。爪も髪も伸びます。昨日、娘の髪を切りました。病室の窓際で眠る娘の寝顔は、あの子が小学生の頃から変わっていません。
それでも、三十一人目の方が亡くなったと聞いた朝、私たちは病棟の廊下で、誰も口をきけませんでした。
どうか、死んだ人の数を、「約」で言わないでください。
一人ずつ、名前で数えてください。
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【第七週/経済面】
アステリオンは裁判所に破産を申し立てた。負債総額は約四百十億円。被害者への補償を巡る訴訟が相次ぎ、資金繰りが行き詰まった。
久我社長は同日付で辞任した。
【第九週/朝刊・社会面】
東雲ホールディングスは、破産手続き中のアステリオンから、被害者の生命維持とモニタリングに関する事業を承継すると発表した。
接続者のうち生存する二千九百三十一人を、国内の大型施設である「第三仮設病棟」に順次集約する。死亡は累計で六十九人。調査を担当する被害者対応室の責任者は、記者会見で次のように述べた。
「原因は、現時点でサーバー側の障害の可能性が高いと見ています。復旧の見通しは立っていません。復旧するまで、お一人も、欠かさず維持します」
意識が戻らない開発社員二名のアカウントの解析は、いまも続いている。




