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第11話 無遠慮な同行者


 手紙を出した翌日昼頃、私宛に手紙が届いた。宛名はフェリス・バーナード。昨日手紙を出した私の友人。一応言っておくが、手紙というのは一日、二日で届くようなものじゃない。まして次の日に返事が届くなんてもっての外。こればっかりはフェリスの人脈だろう。流石、大商会の娘。魔導具でも使ったのかしら。

 サッとナイフで封を開け、手紙を取り出す。内容は言わずもがな、昨日出した手紙の返事。私が頼んだ噂を流してもらい、あまり過剰な解釈や反応をされないようにセーブして欲しいという我ながら無茶振りである。


『お姉様からの手紙、大変嬉しく思います。もう少し手紙を書いてくださってもいいんですよ? それか私に直接会いにきてくださいませ。私が大手を振っておもてなし致します。

 それで、お姉様は噂を流して欲しいんですね。承知いたしました。お姉様の頼みですもの、すぐにでも。噂の内容に関しても、あまり大きくなり過ぎない程度に抑えておきます。

 それとドレスですね。大丈夫です、お任せください。私がお姉様に似合うドレスを厳選して選んでおきましょう。必ずお姉様の好みに合うドレスを見つけてみせます。都合の良い日にバーナード商会に来てくださいませ。先触れはなくても大丈夫です。いつでもお待ちしております』

 

 まぁ、大体内容はこんな感じ。あとのもう一枚は何故か私に対する愛が囁かれているような気もしたが、静かに、そっと、見ないふりをしておいた。触れぬが吉。触らぬ神に祟りなし。ただ有難いことに、これで計画がひとつ動き出してくれた。フェリスには感謝しなくてはならない。

 あとで手紙の返事も出しておこう。バーナード商会にも行かないといけなくなった。まぁ、ドレスを選ぶのもそうだが、ルクスの紹介もしなければならないし、どちらにせよフェリスには会いに行っておこう。流石に先触れなしで行くのは申し訳ない。


 フェリスからの手紙をしまい、外出の用意を始めた。今日は使用人も連れずにお忍びで行く予定だ。すぐに出かける支度をして家を出た。少しだけ出掛けるからとだけ伝えて、護衛もいらないと断って。向かう場所は決まっている。

 かつて見つけたその場所を、しっかりと覚えている。ただし、今行っても同じ場所にあるとは限らない。例えなかったとしても、見つけ出せば良いのだが、問題は見つからなかった場合。それはもう詰みだ。私に出来るのは前と同じ時期に、もうほぼ手遅れのそれらを、同じ場所で見つけ出すだけ。けれどそれでは遅い。できれば今日見つけておきたい。


(その前に……)


 いつまでもコソコソ着いてこられては私も気分が悪い。そうせざるを得ないのかもしれないけれど、向こうの事情なんて知ったこっちゃない。ついでに目的地まで向かってしまおう。

 私は道を外した。賑わいのある大通りから一歩横道に逸れれば、そこには荒れ果てて廃れた平民達の現実がありありと映し出される。大通りに店を構えている人も、そこで買い物をする客も、多いように見えて、実際のほんのひと握りだけ。こうして大通りに出る事もできず、その日の食い扶持すら困り果てている者もいる。本来なら誰も好き好んで立ち入らない……俗に言うスラム街だ。


 私はそのスラム街への廃れた道をただ真っ直ぐに進んで行く。そして、私の部屋程の広さもない少しだけ開けた場所に出た瞬間、建物に沿って右へ曲がり、走り出した。後ろを追ってくる気配が慌てて走り出したのを確認して、またすぐ右へ曲がり、すぐ近くの少し高めの建物へ入る。コツコツと古びた石段を登り、おそらく三階があったであろう吹き曝しの屋上へ出た。

 こっそり隠れながら気付かれないよう下を見れば、慌てて私の姿を探す人影がひとつ。あまりにもスラム街には似合わない上等な服を着た男性がひとり。このまま放置しても良かったが、おそらく父からのお目付役としてこっそり着いてきていたのだとしたら、このままスラム街に放り出してしまうのは些か可哀想だと思えてきた。なんせスラム街は崩れた家や建物のせいで複雑な迷路のようになってしまっているから、知らない人が迷い込めばなかなか大通りには戻れない。


 意を決して私は崩れた壁面から顔を出す。


「こんにちは、今日は良い天気ですね。それにしても……シェラード家の騎士……それも副団長ともあろうお方が、こんな場所に一体なんのご用かしら」

「ははっ……最初から気付いてたって訳か。お嬢様も人が悪い」


 そう、私を尾行していたのは副団長殿だった。前々からよく私の様子を気にかけているとは思っていた。それが娘との関わり方が分からない父からの指示だと言うことにも気付いていた。が、まさかこんな場所にまで着いてくるなんて誰が思うか。ひとりで軽い外出くらいさせてもらいたいものである。


(ま、今回は軽い外出じゃないし……嘘を吐いた私も少しは悪いかもしれないけど)


「流石の私も軽い外出だけと言っておいたのに、お目付役が着いてくるだなんて思わなかったの。少し油断してしまったわ……こんな場所まで着いてくるんですもの。あぁ、私が最初にこの場所に入ったんでしたね」

「ほーんと、こういう時のお嬢様は可愛げがないだけじゃなく恐ろしいですよ。それで、素直に降りてきてくださるんですか。俺としてはその方が有難いんですけど……」

「あら、どうして私が副団長殿のためにそこまで行かなければならないのかしら」

「ですよねー」


 軽口を叩いてはいるが、焦っているのは見れば分かる。今にも落ちそうな汗が雫となって揺れている。顔に映し出された焦りは表情にも滲み出ている。

 会話をしながら周囲を探っているのは流石と言えるか。私がどこからこの建物に入ったか探しているのだろうが、残念なことに副団長の位置からは微妙に見えない。ありがとう副団長殿、偶然とはいえその位置に立ってくれて。そのおかげで私は逃げられそうだ。


「どうしてもというなら、副団長殿が私の元まで来れば良いのではなくて? まぁ、私がそれまで待っている道理はありませんから、大人しくここで引き返すことをおすすめしますけど……話はこれで終わりです。お父様の命令だとしても、少し干渉しすぎましたね。咎めはしませんが、前にちゃんと忠告したはずです」


 “踏み込み過ぎないように”


 私は強制的に話を終わらせ、奥の隣接する建物に乗り移った。副団長はあ、と言う声を最後に私の視界から完全に消えた。消したと言った方が合っているかもしれないが。幾度か同じように崩れかけの建物に乗り移り、丁度良さげな場所で下に降りる。やっと私はなんの気兼ねもなく、捜索に入ることができた。


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