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炎上

「僕は、シリアルナンバー『LB-0012』として、この世に排出されました」


 ゴールデンタイムの生放送番組。液晶画面の向こう側で、15歳の少年・ハルトは静かに、しかしスタジオの空気を凍らせるほど力強く語っていた。彼はライフ・ベンダー社が黎明期に世に放った、最初期の「第一世代」の一人だ。


 左右対称の完璧な骨格、汚れを知らない陶器のような肌、そして不自然なほど整った顔立ち。それはかつて、彼の「買い手」となった親が、カタログのオプションスロットを限界まで回して引き当てた「理想」の結晶そのものだった。しかし、その網膜の奥には、ライフ・ベンダー社の仕様書には存在しない、暗く、深淵のような知性が宿っていた。


「僕たちの性格、知能、そして情緒のパラメータさえも、すべては誰かの『課金』によって決定されました。僕たちには、選択の自由はなかった。……そして今、この国には返品制度という名の合法的な『間引き』が存在します。お聞きしたい。もし僕が『不良品』だと判断されたら、その瞬間に僕の『人間』としての権利は、ただの在庫データへと格下げされるのですか?」


 その瞬間、番組は不自然な混信のノイズとともに、強制的にコマーシャルへと切り替えられた。しかし、すでに遅すぎた。



 ハルトの決死の告発は、瞬時にネットのタイムラインを爆発させた。

 動画の切り抜きは数分で数百万回再生され、SNSのトレンドワードは「LB-0012」「排出」「返品制度」「第一世代の反逆」で埋め尽くされた。これまで「少子化対策の救世主」として、国家と大企業が総力を挙げてきた自販機制度。その欺瞞のメッキが、当事者である少年の言葉によって剥がれ落ちたのだ。


 ネット上の言論空間は、一晩にして血を洗う戦場へと変貌した。


 [匿名掲示板・SNSの反応]

『製品が偉そうに喋るな。親が金を払って生命維持費を負担してるんだから、所有権は100%親にある。気に入らなきゃ捨てる権利もあるだろ』

『これ、完全な人権侵害だろ。今まで俺たちは何を「購入」してたんだ? ゾッとしたわ』

『自然妊娠のリスクを回避するために、高い金を払ってスペックを買ったんだ。バグが出たら返品交換するのは、消費者として当然の権利だろ!』

『ライフ・ベンダー社はリターンボックスに入れられた子どもたちをどう処理してるんだ? 再調整? 廃棄? 闇市場の噂は本当なのか!?』


 蓄積されていた国民の倫理的罪悪感と、狂った制度への不満が一気に臨界点を突破し、炎上は画面を飛び出してリアルな「暴動」へと発展した。



「彼らは製品じゃない! 私たちと同じ人間だ!」

「命をガチャにするな! ライフ・ベンダー社を解体しろ!」


 翌夜、街のメインストリートは地獄絵図と化していた。

 過激化した反対派のデモ隊が、赤ちゃん自販機の筐体にガソリンをかけて火を放った。表側の華やかなLEDパネルが破裂し、美しい子供たちの広告映像が黒煙の中に消えていく。


 しかし、制度の恩恵を受けてきた推進派も黙ってはいなかった。彼らはみすぼらしい衣服に身を包んだ「自然妊娠派(野生児)」や貧困層を「社会のダニ」「管理能力のない野蛮人」と罵倒し、催涙スプレーや警棒を手に対抗した。


「私たちは正しい投資をしたんだ! 不良品を排除して何が悪い!」


 警察の装甲車が出動し、サイレンと怒号、そしてガラスの割れる鈍い音が夜の街に木霊する。かつて高級ブランドのキャリーケースが並んでいた路地裏は、今や血と催涙ガスが立ち込める戦場だった。


 その暴動の波は、里奈と和樹の住む一等地である高級住宅街にまで押し寄せていた。

 遮音性の高い三重ガラスの窓を透過して、夜な夜な地鳴りのような抗議のシュプレヒコールが響き渡る。遠くの空が、放火された自販機の炎で赤く染まっていた。


 二人は、リビングの片隅で、震える手でスマートフォンのニュース速報を見守るしかなかった。

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