「不具合」と言う名の処刑
視線を落としたベルトコンベヤーの先は、冷酷な二股の分岐点になっていた。大半のカプセルは緑のランプが灯る「再調整室」へと滑り込んでいくが、時折、鋭い電子音とともに赤いランプが灯り、一部のカプセルが別のルートへと無慈悲に弾かれていく。
「……あの先は、どこへ繋がっているんですか?」
シンジが指差した先では、数台のカプセルが、暗い顎を開けた粉砕機のような巨大な密閉装置へと吸い込まれていくところだった。
「ああ、あれか。あれは『致命的な不具合』と判断された個体だ。再調整のコストが見合わないものや、遺伝子配列に修復不能なエラーが出たもの。つまり、二度と市場に出せない『ゴミ』だよ」
「ゴミ……? だって、あれは、まだ生きてるんだぞ」
シンジの声が上擦る。しかし、先輩の男はガムをクチャリと鳴らし、心底退屈そうに肩をすくめた。
「生きてる? 認識が甘いな。あれはライフ・ベンダー社の商品だ。客が所有権を放棄し、会社が価値なしと判断した時点で、それはただの産業廃棄物。法律上もプラスチックや生ゴミと同じ扱いさ。あんまり感情移入するなよ、職務怠慢で首が飛ぶぞ」
装置の奥から、骨とプラスチックを同時にすり潰すような、鈍く重い破砕音が響いてくる。シンジは背筋に冷たいものが走るのを感じながら、先ほど自分が積み込んだアリスのカプセルがどちらのルートへ進むのかを、祈るような気持ちで見つめ続けた。
ガタン。不快な金属音とともに、アリスのコンテナは辛うじて「再調整ルート」のレーンへと進んだ。
安堵の息を漏らそうとしたシンジだったが、手元の端末が更新したアリスのデータシートを目にした瞬間、その呼吸は凍りついた。備考欄に、明滅する赤い文字でこう刻まれていたのだ。
【特記:顧客より『視線の不自然さ』の指摘あり。脳神経回路の根本的再構築を推奨】
「……再構築したら、この子はもう、完全に別の誰かになるんじゃないのか」
シンジが絶望を堪えるように呟いた瞬間、機械アームがアリスのカプセルを掴み、高濃度の化学洗浄液と麻酔液が満ちた透明な槽の中へと沈めていった。
彼女が最後に、自分を捨てた母親を見つめたあの「不自然な視線」。
それは、親たちの欲望を満たすためにプログラムされた機能などではなかった。自分を「モノ」として処理しようとする世界を、そして「母」と呼ばれていたはずの女を、必死に理解しようとした彼女なりの、たった一つの懸命な人間の「意志」だったのかもしれない。
だが、そんな仕様外の情緒は、効率化と最適化を極限まで突き詰めたこの巨大な保管庫において、真っ先に消去されるべき致命的な「バグ」でしかなかった。
ゴボゴボと無情な音が響く。シンジは、ガラスの向こうでアリスの小さな顔が真っ白な化学泡に包まれ、見えなくなっていくのを、ただ拳を握りしめて見つめることしかできなかった。




