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ガチャの裏側

 深夜の「リターン・ボックス」の裏側を知る人間は少ない。表舞台の華やかさに隠されたその冷徹な実態を、社会はあえて見ようとはしなかった。


 24歳のメンテナンス業者、シンジの仕事は、街中に設置されたライフ・ベンダー社の自販機を巡回し、回収された「在庫」を郊外の物流センターへと運搬することだ。


「……今日も大漁か」


 シンジは防護服の襟元を詰めながら、重いコンテナのハッチを開けた。リターン・ボックスの奥、特殊な抗菌・防音処理が施された暗室から、スライド式に複数のカプセルが滑り出してくる。


 彼は手慣れた手つきで、それらを守るように防振仕様のトラックの荷台へと積み込んでいった。


 強化プラスチック製の半透明なカプセルの中では、数時間前まで「誰かの宝物」として抱かれていたはずの赤ん坊たちが、微かな呼吸を繰り返している。返品のショックと夜泣きを防ぐため、システムによって投与された安全な睡眠導入剤のせいで、彼らは深い眠りの中にいた。


 あるカプセルには、高級ブランドの毛布が残されたままだった。また別のカプセルには、焦って引き剥がされたのか、名前が刺繍されたよだれかけの千切れた糸クズが引っかかっている。


 それらは全て、つい先ほどまで彼らが「人間」として扱われていた証だった。しかし今、シンジが持つ端末の画面上では、彼らは一様に「LB」から始まる13桁のバーコードと、固有のシリアルナンバーに変換されている。


「イメージ相違、性格不一致、オプション過多……」


 端末に表示される返品理由の羅列を流し読みしながら、シンジは小さく溜息をついた。かつては神聖視されていた命のやり取りも、毎日繰り返せば、ただの「物流ロジスティクス」に過ぎなくなる。


 トラックの冷房をカプセル内の最適温度に設定し、シンジは運転席に乗り込んだ。バックミラーに映る荷台の闇の中で、眠る子供たちは、まるで出荷を待つ精密機械のパーツのように、静かに、規則正しく揺れていた。



 トラックが向かったのは、臨海地区の埋立地にそびえ立つライフ・ベンダー社の「第4再調整センター」だ。潮風に晒されて赤錆びた鉄骨と、窓一つないコンクリートの壁。そこは、街頭で見かける温かみのある自販機の外装とは無縁の巨大倉庫であった。


 シンジがトラックをプラットホームに横付けし、カプセルを搬入すると、天井から伸びたオートメーション化されたアームが、無機質な電子音を立ててそれらを次々とベルトコンベヤーに乗せていく。規則正しく流れていく命の列を、シンジはどこか割り切れない目で見つめていた。


「なあ、これらはこれからどうなるんだ?」


 シンジは、何十台もの監視モニターを眺めていた先輩作業員の男に尋ねた。男は退屈そうにガムを噛みながら、ブラインドタッチで無造作にキーボードを叩いている。


「決まってるだろ。再調整リセットだよ。性格設定のパッチを上書きして、外見の造形に微修正を加えて、また別の客に供給する。パーツを交換して外装を塗り直した中古車と同じさ」


「……上書き、ですか?」


「ああ。顧客が『イメージと違う』って切り捨てた過去のデータを、脳のチップから綺麗さっぱり消去するんだ。親の顔の記憶、泣き癖、目の動き、微細な反応。それらを全部真っさらにして、初期状態の『新品』として別の自販機に並べるのさ」


 男は画面から目を離さないまま、吐き捨てるように言った。


 シンジの目の前のメインモニターには、コンベヤーで運ばれていく赤ん坊たちのスキャンデータが、凄まじい速度で流れていく。青白い光がカプセルを透過し、心拍数、脳波、そして個体識別番号がデジタル数字で刻まれていく。


 その奔流の中に、一つのデータがあった。


『個体番号:LB-99021』

 ――それは、つい先ほど里奈たちが手放した「アリス」のデータだった。

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