壊れた完璧
リビングには、鼓膜を執拗に逆なでする奇妙な音が響き続けていた。
「ヒヒ、……アハハハ! アハ、アハハ!」
里奈たちの「2人目」――最新ロットで、あらゆる数値を最適化したはずの赤ん坊が、喉を不自然に鳴らして笑っている。
それは、親の心を癒やすために計算された、可愛らしい乳児の笑みではなかった。感情の出力スイッチが最大値のまま故障し、そのまま物理的に固定されてしまったかのような、空虚で連続的な機械的笑い声。
ミルクを口元に運んでも、オムツを替えようとしても、彼女はただ、三日月形に目を細めたまま歪んだ笑顔で笑い続け、一切の涙を流さなくなった。外部の刺激を一切受け付けず、ただ「笑う」という単一のタスクだけを永遠に処理し続けている。
「……バグだ。完全に壊れてる」
和樹が、吐き捨てるように言った。その目はもう、ソファの上の赤ん坊を映してはいない。ただ憎悪と嫌悪を込めて、手元のタブレットの画面を激しくスクロールさせている。
「カスタマーセンターに連絡した。例の暴動のせいでメインサーバーがハッキングされ、OSの強制抑制パッチに予期せぬエラーが出ている個体が多いらしい。……だが、運がいい。今なら『特例無償交換キャンペーン』の対象だ。手続きはすべてオンラインで終わる。明日には、新しい『3人目』が届く。今度は最新のセキュリティ修正を当てた、よりバグのない、安定した個体だそうだ」
「交換……? また、アリスの時みたいに、あんな場所に捨てるの?」
里奈は、狂ったように笑い続ける赤ん坊を、衝動的に強く抱きしめた。
その体温は、仕様書に記載された「36.5度」を寸分の狂いもなく正確に刻んでいる。耳を押し当てると、小さな胸の奥から、ドク、ドク、と速い鼓動が伝わってきた。それは国や企業がどれほど都合よく書き換えようとも、紛れもなく「生」を必死に繋ぎ止めようとする、不完全な生き物のそれだった。
廃棄区のあの湿った床の上で、汚れた指に縋り付いていたアリスの姿が、腕の中のノイズと重なって脳裏にフラッシュバックする。
「当たり前だろう! 高い金を払っているんだ。僕たちには『正常な商品』を受け取る権利がある!」
和樹が突然、狂暴な声を張り上げた。その顔は怒りと疲弊で引きつり、かつての温厚で理知的な面影は微塵も残っていなかった。
「君だってアリスの時にそう言ったじゃないか! 妥協した商品に一生を捧げるのは人生の損失だって! 僕たちは何も悪くない……! 悪いのは欠陥品をよこす会社だ! 僕たちは、ただ……ただ普通に、完璧な子供が欲しいだけなのに……ッ!」
和樹の声は最後、悲鳴のように裏返った。




