時計の針
札幌駅に到着すると、そこから青森、東京を経由し、東海道本線を利用して大阪へ到着したが、道のりは遠く、人生を物語るようでもあり、ようやく最終目的地の堺まで到着した。
外は雪の欠片すらなく、駅からしばらく歩くと桜の木が並び、今にもはじけそうな蕾が見受けられた。まるで春の訪れを告げているように感じられた。
早速、最後の手紙に書いてあった住所へと向かったが、そこは既に雑草地へと変わっており、瓦礫が散乱していた。
近くにいたわずかな住民に尋ねると、妙子は近所づきあいがほとんどなく、どうやら約一キロ先の病院に入院したらしい。会えなかったのは残念であったが、すぐさま行くことにした。
赤い屋根に白い枠の小窓がいくつもある、古びた二階建ての木造の大きな建物が見えた。
ここに妙子が入院していると思うと、古い写真に当時の面影が映し出されるように感じた。
あの頃の彼女は、今どのような姿になっているのであろうか?
そう思っては、色のついた写真として、自分の目にどう映るのか気になって仕方がなかった。
病院へ到着すると、鉄製の立派な門から、中央に赤いレンガが敷き詰められ、玄関までつながり、両脇には新樹が子供達が整列をするように並んでいた。
木製の大きな玄関を開けると、ギーというきしむ音が聞こえた。中には受付室があり、ガラス越しの中央に丸い穴があった。
挨拶をすると、白いシャツをだらしなく着た不愛想な職員が、会釈もせずに彼の元へ寄ってきて、そっけない態度を取り沢田に伝えた。
「面会? 面会だったら、そこの受付簿に記帳して。印鑑はいらないよ。名前と住所だけでいいから」
受付簿に記帳すると、一人の若い看護師が案内してくれた。廊下はところどころ小さな穴が開いていた。広い病室の中へと入ると、四名の患者のベッドがあった。
妙子は右側の一番手前のベッドで、沢田の反対方向を向いており、面影のある小さな体が彼の目に焼きついた。
「妙子さん、お見舞いよ」
看護師はそう言いながら、面倒くさそうに、妙子の体を沢田の方へと向けた。ベッドのきしむ音が聞こえ、沢田が見た妙子の表情は苦しみに歪んでいた。
彼女は彼に気づくと何が起こったのかわからず、夢から覚めたような不思議な表情になった。
沢田を見つめながら、彼が誰であるかを思い出すまでに、僅かな時間を要したようであった。
看護師は妙子が昨年から脳梗塞で半身麻痺になり、言葉を発することができないと告げた。
沢田は妙子の前で話すべきではないと不快に思いながらも、言葉にならなかった。
沢田は悲しそうな表情をしている妙子の視線を感じると、目のやり場がなくなり、周囲を見渡した。
壁にはラベンダーの押し花が飾ってあった。
それを見ると、沢田の心にある時計の針は逆回りし始めて、高等学校の頃まで動き始めた。時計の針はゆっくりと、若かりし頃を映し出した。




