第11話 冒険者って、意外と個性的ですね。
冒険者さんのことを調べる。
そう決めたはいいものの、最初の壁はすぐにやってきた。
「得意なこと? 剣を振ることだな」
「剣以外では」
「剣を、強く振ることだな」
「……ありがとうございました」
一人目からこれである。
前世で人事部の手伝いをさせられたとき、面接の記録係をしたことがある。あのときも「あなたの強みは」と聞かれて「頑張れることです」と答える学生さんが山ほどいた。異世界でも人間の答えは変わらないらしい。
「アリサちゃん、どうだい調子は」
「ギルド長。冒険者さんって、自分のことをあまりわかってないんですね」
「みんな自分のことは見えないものだよ」
「ギルド長が言うと説得力がありますね」
「どういう意味かな?」
そのままの意味です。
聞き方を変えることにした。得意なことを聞くのではなく、これまでにやったことを聞く。どこへ行ったか。何をしたか。何がうまくいって、何で失敗したか。前世の面接で、優秀な面接官がやっていた方法だ。
◇ ◇ ◇
効果はてきめんだった。
「おう姉ちゃん、また聞き取りか」
例の酒臭い常連さんがカウンターに肘をつく。今日は珍しく素面に近い。
「はい。これまでで一番うまくいった依頼を教えてください」
「一番? そうだなあ……五年前に、森で迷子になった商人を探したやつかな」
「迷子探し」
「足跡と折れた枝を追って、半日で見つけた。依頼主に泣いて感謝されたぜ」
「すごいじゃないですか。追跡、得意なんですか?」
「得意っつうか、昔は猟師だったからな。獣の通り道とか、なんとなくわかるんだよ」
私はメモの手を止めた。
「最近はどんな依頼を?」
「西の丘の薬草採りだな」
「追跡の得意な元猟師さんが、薬草採り」
「楽だし、儲かるからな」
もったいない。言葉には出さなかったけれど、心の中で三回くらい言った。
続いて包帯の剣士さん。包帯はもうほとんど取れている。
「うまくいった依頼ですか? うーん……。あ、村にいた頃、薬草の見分けだけは誰にも負けなかったです」
「薬草」
「親が薬草を育ててたので。毒草と薬草の区別とか、どこに生えやすいかとか」
「最近の依頼は」
「狼討伐です」
「薬草の見分けが得意な人が、狼討伐」
「報酬が残ってたのがそれだけで……」
二人目でもう頭が痛い。
弓使いの二人組は、片方が驚くほど目がよかった。遠くの木の葉の色の違いで、魔物の潜んでいる場所を言い当てたことがあるらしい。もう片方は料理がうまく、野営のたびに仲間の士気を上げていたという。
二人が最近受けた依頼は、沼の大蛙退治だった。見通しの悪い湿地で、目のよさはほとんど役に立たない場所だ。
「冒険者さんって、意外と個性的ですね」
「そうかい? みんな同じように剣や弓を持ってるけど」
「持ってる道具は同じでも、中身が全然違います」
◇ ◇ ◇
閉館後、私は集めたメモをカウンターいっぱいに並べた。
元猟師で追跡が得意な人。薬草の知識がある人。目のいい人。野営と料理で仲間を支えられる人。地図を読むのがうまい人。体力だけは誰にも負けない人。
並べてみると、ギルドには思ったよりずっと多くの才能が眠っていた。
「ギルド長。冒険者のランクって、何で決まるんでしたっけ」
「実績点と実技審査だね。どれだけ依頼をこなしたかと、戦ってどのくらい強いか」
「つまり、戦う力が中心なんですね」
「まあ、冒険者だからねえ」
それがいけない、とは言わない。魔物と戦う仕事なのだから、強さが評価されるのは当然だ。
でもランクだけを見ていたら、元猟師さんの追跡の腕も、剣士さんの薬草の知識も、どこにも記録されない。記録されないものは、依頼を選ぶときにも、紹介するときにも使えない。
結果、追跡の名人が薬草を摘み、薬草の名人が狼と戦っている。
「配置ミスの正体、これですね」
「ああ……適材適所、ってやつだね」
「ギルド長、その言葉知ってたんですね」
「私をなんだと思ってるのかな!?」
私はメモの束をそろえながら考えた。この情報を、誰でも見られる形にまとめられたら。依頼が来たとき、ランクだけでなく得意なことから人を選べたら。
それはたぶん、前世の私が一番得意だった仕事だ。
「おう姉ちゃん、まだいたのか」
ギルドの扉が開いて、元猟師さんが顔を出した。手には小さな革袋を提げている。
「どうしたんですか、こんな時間に」
「さっき言い忘れたんだがよ。ついでに一個聞いていいか」
「どうぞ」
彼は革袋から、拳ほどの魔石を取り出してカウンターに置いた。
「ここの魔石の買取値、隣町と比べてどうもおかしい気がするんだよな」
「おかしい、とは」
「なんつうか、俺の知ってる相場と合わねえんだ」
私はメモの束を置いて、その魔石を見つめた。
赤字の原因、その二。素材買取の損失。帳簿の数字だけではわからなかった理由が、いきなりカウンターの上に転がってきた気がした。




