企画会議、開始!
フロアの照明が白い。
昨日までよりも、より眩しく感じられる。
(これも、紡のおかげかな)
バーでの出来事を思い返すと、恥ずかしさが勝ってしまうが……
それでも、いい意味でふっきれたのは事実だ。
(俺のシナリオを守れるのは、俺だけだ!)
そう言って、ひなたは自分のほっぺたを力強く叩く。
◆
会議室に移動すると、すでに如月さやの姿があった。
「先輩、早いですね」
「ええ、残された時間も少ないからね」
如月はひなたのディスプレイを一度だけ見て、言い切った。
「企画書の提出は金曜日いっぱい。
今日は水曜日だから、あと三日しかないわ。
今回は、企画書までの提出ね」
「水曜の午前で企画の土台を揃えて、午後でたたき台を作る。
木曜に磨いて、金曜の朝に内容の読み合わせ。
そして、金曜中に企画書に落として提出する流れになるわ」
話を聞いただけで、吐き気がするようなスケジュールだ。
とはいえ……自分が落ち込んで時間を無駄にしているのだから、
文句は言えない。
「と言っても、私たちのゲーム『失くした記憶と学園の鍵』は、
シナリオが売りのゲームだから、企画と言っても、
まずは物語の骨子がないと始まらない」
「その部分……かなり負担かけることになるけど、平気そう?」
如月さやが、こちらを真剣な目で見つめてくる。
「大丈夫です!」
「よし。1.5周年、勝ちに行くわよ!」
「……はい!」
「……と、ここまではもう他のメンバーには通達済よ。
誰かさんのせいで、時間に余裕があったからね」
「その分、結果でお返しします」
「ふふっ、軽口を叩ける余裕があるなら平気そうね。
さっそく、会議を始めましょうか」
◆
会議室にメンバーが集まる。
プランナーリーダーの三角彰人、アートディレクターの白石真弓、
ユーザーサポートの南雲りこといった、いつもの面子だ。
すると、扉が開く。
「もう~急に呼び出して、何なんですかぁ~!」
「乙部、来たわね!」
「はい~。お久しぶりです。さや先輩!」
「急に呼び出して悪いわね。緊急事態なのよ」
「早くも、炎上の香りしかしないですけど(笑)」
「悪いけど、今日からよろしくね♪」
「さや先輩は、もう少し私に優しくするべきです~!」
「新人の頃、質問の仕方が尋問みたいで、
周りに恐れられてたのに……ずいぶん丸くなったわね」
「ひど~い! 今の私は“慈愛のお姉さん”です~!」
「……で、壊れかけの現場を立て直したの、誰だっけ?」
「さや先輩~! そこは言わなくていいやつ~!」
「ふふっ、雑談はこんなところで。
悪いけど、キャッチアップは無しで働いてもらうわよ」
「は~い。頑張りま~す!」
怒涛の会話に、メンバー一同唖然とする。
如月さやが呼んだようだが……その姿に見覚えがあった。
「ひなたくん、またご一緒できて嬉しいです♪」
「……お、お手柔らかに」
その姿を見て、白石がため息混じりに耳打ちしてくる。
「あの人……成立屋っすよね」
「ああ、そうだな……」
乙部いぶき。
社内で「成立屋」と呼ばれる、クリエイティブディレクターだ。
どんな無茶でも実現可能な形に落とす。
そのぶん、要求も高いことで有名だが――
南雲が控えめに付け足す。
「でも……あの人がいると、事故は減りますね」
「――で、締切はいつですか~?」
雑談混じりになりそうな空気を、乙部が一蹴する。
「金曜提出。もちろん社内アンケに回す“社内用資料”だから、
文言と実装範囲が揃ってないとダメよ」
「はいは~い!」
乙部は机にメモを置き、ペン先で“項目”を刻むように言った。
「じゃ、まず“成立する範囲”から切りましょ♪」
「提出物は、まずは三つ。
アンケに載せる企画書、これは社内レギュだと5枚以内だね~。
さらに、予算案。これは……さや先輩に任せますっ!」
「1.5周年で目標とする売上目標から逆算したKPI、
後はゲーム側の目玉コンテンツの設計と達成目標。
ペライチでコンセプトだけあればとりあえずいいかな。
これは……三角くん担当かなぁ~」
「……うっす!」
「お、元気があるねぇ~!」
「とりあえず、今日、午前中に決めるのは“土台”だけ。
各自、並行作業でやってもらわないと、
間に合わないからねぇ~!」
「さや先輩、とりあえずはそんなところです~?」
「ええ。まぁ、そんなところね」
テキパキと作業を分担していく姿に、呆気にとられる。
「とはいっても、企画の骨子となるシナリオが決まらないと、
詳細なプラン作成には動き出せないよねぇ~」
「そこはぁ……私とひなた君の担当ってことで♪
さや先輩も、もちろん入りますよね?」
「ええ。もちろんよ」
「……三角くんはどうする?」
「自分は、初稿が上がってきたらで!
ひなた先輩の案、信じてます!」
「じゃあ、とりあえず今すぐ決めることは、
“面白い話”は大事だけど後回しで……
まずは1.5周年の“成立要件”を揃えないとねぇ~」
乙部はペン先で空中に線を引く。
「データ班と勝負するのは企画だね~。
実制作の良し悪しじゃなくて、企画書で“勝てる”
形に落とす。ここは誤解ないようにね」
「成立するか、とかは二の次。
興味を持ってもらえなかったら“負け”」
如月が補足するように言った。
「乙部の言う通り、勝負の土俵は企画。
だけど、もちろん実現できる前提で作ること。
じゃないと、後で地獄を見るのはみんなよ」
「了解! じゃ~、運用側も呼びましょう。
懸念点は同時に挙げていこ~」
乙部の声に、如月が頷く。
「運用ディレクターの砂原も呼びましょう」




